第6話
「燎火、燎火のお名前にはね、かがり火って意味があるの」
《かがり火?》
「そう。暗いところでよく見えるようにたく火のこと」
まずどんな話をすればいいだろうかと考えて、思いついたのが名前の由来。燎火という名前には喜んでくれたみたいだから、もっと好きになってもらいたいと思って話し始めた。
「火ってね、人間にとって大切なものなの」
《火が?》
「そうだよ。食べ物を焼いたり、寒いときには温まったり。暗い場所だと、周りを照らす火が無いと何も見えないでしょう?」
燎火の頭を優しく撫でながらゆったりと話す。
「だから、燎火のお名前には皆を照らす光になってほしいっていう願いが込めてあるんだよ」
最初はぎこちなく撫でられていた燎火も、だんだんと自分からすり寄ってくるようになっていた。
「さっき精霊樹の実を木蓮と半分こしてあげてたでしょう?優しいね、燎火」
《うん……》
恥ずかしそうに目を細めて笑う燎火。その目が次第にとろんとしていき、とうとう私の膝の上で寝てしまった。
精霊として一人前になった燎火と木蓮だけど、まだまだ生まれたてのようなもの。保育園の子どもたちで言ったら何歳児くらいだろう。2人の寝顔を見ながらそんなことを考えていたら、無性に子どもたちに会いたくなってしまった。
目の端から涙がこぼれる。
私そういえばこの世界に来て初めてだ。自分の感情を形にして出すの。
目を閉じて思い出に浸っていると、瞼の裏に次々と保育園の子どもたちの笑顔が出てきて、涙が止まらなくなった。
(みんなどうしてるかな……元気かな……)
ふと、その涙に触れる感触。
目を開けると、小精霊が1人心配そうな顔をして私の涙を拭っていた。
「ふふ、ありがとう」
手を伸ばしてその子を撫でる。小精霊は少し安心したような表情になった。
と思ったのもつかの間、小精霊が見覚えのある光に包まれる。
「あ、やば、また勝手にやっちゃった」
1人あわあわしていると、どこからともなく長老様が現れる。どこから見てるんだろう、タイミングばっちり。
「ごめんなさい、私勝手に……」
《いいのですじゃいいのですじゃ。この森には成長が止まってしまった子が何人もいましての。ユカ殿のおかげで精霊になれるのですじゃ》
長老様の言葉にほっとする。
光がおさまり、現れたのは淡く青色に光る精霊だった。
《水の精霊ですじゃな》
《えっと……僕、その、ありがと……》
嬉しそうな長老様と、もじもじする水の精霊。
《ほれ、言いたいことがあるのじゃろ?》
長老様が水の精霊の背中を優しく押す。
《あっ……うん、えっと……ユカ?》
「なぁに?」
《その……僕にも、お名前付けて……?》
な、何この子……可愛いぃ。上目遣いの破壊力を生まれて初めて知ったよ……。
《2人にユカ殿が名前を付けているのを見て、自分も名前が欲しいと言い出しましての》
長老様がニコニコと言う。
そのことをばらされて恥ずかしそうにしている水の精霊に両手を差し出すと、やはり木蓮と燎火の名付けを見ていたのだろう、そっと乗ってきた。
「……
《え?》
「うん、しっくりくる。あなたのお名前は、和泉。どう?」
私が聞くと、水の精霊、和泉は何度か小さくその名前を呟いて、嬉しそうな笑顔を見せてくれた。
《ありがと、ユカ……僕、僕のお名前は和泉!》
喜んでもらえたようで何よりだ。
「泉っていうのは、水が湧き出る場所のこと。皆を癒して潤してくれるの。和は、穏やかで優しい感じかな」
名前を付けた後も私の手から降りようとしない和泉の様子を見て、先ほど燎火に話していたみたいに意味が知りたいのかもしれない、と思った。
「気に入った?」
《うん!》
思った通りだった。意味を教えてあげるとさらに嬉しそうな顔をする。
なんというか、和泉は木蓮や燎火とはまた違った雰囲気の精霊だ。木蓮と燎火が女の子であるのに対して、和泉は男の子であるのも理由の一つなのだろう。だがそれ以上に、大人しくて引っ込み思案な子のようだ。保育園で、私に近づくタイミングを物陰からこっそり図っていた子を思い出す。隠れているつもりなのだろうが丸見えだったな、と懐かしくなった。
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