第4話
「んー……名前、名前?最初から責任重大じゃん……」
長老様に精霊2人の名付けを頼まれてから、かれこれ数十分。まだ自分の子どもに名前を付けた経験すらない私にとっては、かなりの難題だ。
だけど実は、ひそかに将来の子どもに付けたい名前を考えるのが趣味だった私。まだお相手もいないのにね……。
《ユカ?大丈夫?無理しないで?》
《名前なんてなんでもいいし……早くしてよ》
悩む私の前で対照的な2人。
私のことを心配して気遣ってくれる木の精霊と、名前なんてなんでもいいから早くしろ、と遊びに行きたいのが見え見えの火の精霊。
精霊になった時も、木の精霊は喜びを静かに噛みしめてたのに対して、火の精霊ははっちゃけてた。司る分野の違いなのだろうか。
「ちょっと2人とも近くに来てくれる?」
もう少し近くで見たら何かひらめくかもしれないと、2人に手のひらの上に乗ってもらおうとしたけど、精霊になって大きくなったから1人ずつが限界だった。
最初に来たのは火の精霊かと思いきや木の精霊。実はずっとそわそわしていたらしい。嬉しそうに私の手のひらにちょこんと座った。わくわくした顔で私を見上げてくる。木の精霊は綺麗というよりは可愛いタイプ。精霊になるときに私の手にすりすりしてきたことからもその可愛さは伝わるだろう。自分のことは後回しで他の子を気遣うような優しい大人しい感じの子。
「……うん、分かった。あなたの名前は、
《……木蓮?私の名前は、木蓮。ふふふ、可愛い名前。ありがとう、ユカ》
可愛いなぁと思っていたら急に降ってきた木蓮という名前。異世界に合わないかな、とも思ったけど、彼女らしい響きだしこれはこれでいいのかもしれない。呼んでみたらしっくりきたし。木蓮も嬉しそうだから良しとしよう。
次は火の精霊。
「どうしたの?おいで?」
なんとびっくり木蓮の後ろに隠れて出てこない。意外とシャイなタイプだったか。見た目は活発そうな女の子。木蓮に腕を引かれてようやく私の手の上へ。真ん中でちょこんと座る様子は何とも可愛らしい。保育園にもいたなぁ、最初は全然心を開いてくれないと思ってたけど、心を開いてからはべったりになった子。この子もそんな感じかも。
「うん、あなたは
《燎火……》
「え、あれ、嫌だった?」
燎火は何も言わずにうつむいて私の手の上から飛んで行ってしまった。木蓮が私に軽く目配せして燎火の後を追いかけていく。
「かわいそうなことしちゃったかな……」
部屋に1人残されて、少しだけ落ち込む私の肩にちょんちょんっと木蓮の手が触れた。
《ユカ、来て》
小声で私のことを呼ぶ木蓮。黙ってついて行くと、部屋の隅で葉っぱに隠れながら何やらぶつぶつ言っている燎火の姿を見つけた。
《りょうか……リョウカ……燎火……んふふふふ。燎火、私の名前》
どうやら心配はいらなかったようだ。嬉しさと恥ずかしさで逃げてしまったのだろう。少しでも早く燎火が心を開いてくれるように頑張ろうと、私は心に誓った。
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