第3話

 「……つまり、私の手にはその母精霊様の力が宿ってるってことですか?」


 長老様の説明を簡単にまとめるとこうだ。

 まずはるか昔。まだこの世界が出来たばかりの頃。創造神が人間を作り、生き物を作ったと同時に、この地の自然から生まれた母精霊様が、それぞれの自然を守る者として生み出したのが精霊。ただ、精霊も最初から自然の力を使える状態ではなく、自然によって育てられなければならない。そして最終的に一人前の精霊になるための力を与えるのが、母精霊様がその力を込めた種というわけ。種から最後の力を得ることで一人前の精霊となれるらしい。


 「でもどうして母精霊様の力は弱まっちゃったんですか?」

 《自然が少なくなったからですじゃ。母精霊様の力はそもそも自然から得ておるのじゃが、人間たちが自然を刈り取っていくでの……》

 

 悲しげな顔になる長老様。どの世界でも人間の行動が他の生き物たちを苦しめることはあるのだと、思い知らされる。


 《ユカ殿の手に何故母精霊様の力が宿ったのかは分からないのですじゃ》


 悲しそうな顔から一変、少々茶目っ気のある顔で長老様は付け加えた。ただのおじいちゃんがこの顔をすると腹が立ちそうなものだが、長老様がすれば可愛く見えてしまうから不思議だ。


 ここまで話してきて、長老様の人となりがだいぶ見えた気がする。最初はニコニコと優しく物静かに見えたが、意外と表情豊かな面白おじじかもしれない。


 「えっとあの、それで私はどうすれば……?」


 なんとなく彼らのことは分かった。では自分自身のことは?自慢じゃないがここが異世界だと言うならば、元の世界に帰れないと言うならば、私は宿無し一文無しだ。誰かに助けてもらわないと生きていけない自信がある。


 《ここにいていいと言いましたですじゃよ?》

 「ですが、ただで居候するわけにはいかないでしょう?」

 《いそーろー?》


 おじじが小精霊化してしまった。元の世界にしかない言葉なのかな?


 「えっと、ただ飯喰らい?」

 《ほっほ、分かっておりますじゃよユカ殿》


 やっぱりひょうきんおじじだ。からかわれた。可愛いから許すけど。


 《ユカ殿は小精霊たちの子守でもお願いするですじゃ。まだ外に出るのは不安でしょうしの》

 

 ありがたい申し出だ。小精霊たちの子守をしながら徐々にこの世界に慣れていこう。


 《そうですじゃ、ユカ殿。良ければこの2人に名前を付けてやってくれませぬかの?》

 「……はい?」


 こうして私の異世界初仕事、精霊の名付けが始まった。

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