精霊の森
第1話
《これなーにー?》
《にんげんー?》
《しんでるー?》
《どうするー?》
《ちょーろーさまー》
「……ん……わぁ、かわいい……?」
目を覚ますと、目の前にちっちゃいおじいちゃんがいた。小さいおじさんじゃなくて、ちっちゃいおじいちゃん……可愛い。おじじって呼ぼう。
いやそうじゃなくて、何、この状況。ていうか、私生きてる?なんで?トラックにはねられたんじゃなかったっけ?あれ?ん?どういうこと?
《起きられましたかの?》
おじじがニコニコしながら話しかけてきた。縁側で日向ぼっことかしてそうな雰囲気だ。
「……は、はい」
ふかふかの葉っぱのベッドから上半身を起こした私は辺りをきょろきょろと見回した。壁一面、床や天井に至るまで全てが木でできた、まるで本当に木の中であるような部屋だ。
混乱している私をよそに、おじじは私の足の上にちょこんと座り、ニコニコとこちらを見上げている。
「あの、ここ……」
《どうしてあんな所におられたのですかの?》
私の言葉を遮り、おじじがそう聞いてきた。
「えっと多分、歩いてたら急にトラックにはねられて……」
《とらっく?が何なのかは分かりませぬが、気がついたらここにいたと?》
「……そうです」
おじじは依然ニコニコとしている。だがニコニコしているだけで何も言わない。
「あの、それでここ……」
《あなた、お名前は何と言われるのですかの?》
またもや私の言葉を遮って聞いてくる。
「……
《イケノ・ユカ……》
そう呟くと、おじじは黙り込んでしまった。
「あの!ここはどこなのでしょうか?」
しびれを切らして少し大きな声を出すと、おじじはようやく私の方を見た。目が合うと、ニコニコしていた顔をさらにニッコリさせる。
《ここは森ですじゃ。精霊の森。人間は誰1人立ち入ることのできない森ですじゃ》
「精霊の、森……?」
《見てもらった方が早そうですじゃな。みんな、出ておいで》
おじじは部屋の奥に顔を向けてそう言った。
すると、手のひらサイズの何かがわらわらと私たちのもとへ飛んできた。
《ちょーろーさまー》
《にんげんいきてるー》
《どーしたのー?》
「な、何これ……可愛すぎる……」
私が周りにまとわりついてくる何かに癒されているのを、おじじはニコニコと見ていた。
《我々は森の精霊なのですじゃ》
《せーれーだよー》
私の目の前にいた精霊が、小さな体でエッヘンとでもいうように胸を張っている。とても可愛い。
《ちょーろーさまだよー》
私の周りにいた精霊の1人がおじじの方に飛んでいき、小さな体でおじじを指さして言う。
「……長老様?」
《はいですじゃ》
精霊の長老様はニッコリ笑ってそう言った。
《しばらくここにいるといいですじゃ》
少しして長老様がそう言ってくれた。小さな精霊たちも嬉しそうに私の周りをくるくると飛んでいる。
「え、良いんですか?」
《いいのですじゃ。この子たちもあなたのことを気に入っているようですじゃしの》
《にんげんいっしょー?》
《あそぶー?》
《にんげんこっちー》
「あ、あのね、私は池野由佳っていうの」
私のことを”にんげん”と呼んで部屋の奥に引っ張っていこうとする精霊たちに苦笑しながら言うと、精霊たちはキョトンとした顔で私を見つめてきた。
《みんな、ユカと呼ぶのですじゃよ》
見かねた長老様がそう付け加えてくれた。すると精霊たちは再び嬉しそうに飛び回りながら、口々に私の名前を呼び始めた。
《ユカー》
《ユカあそぼー》
《ユカこっちー》
名前を呼びながら私を引っ張って奥の部屋に連れて行こうとする精霊たちを見ていると、担任をしていた保育園の子どもたちを思い出して、思わず寂しくなってしまった。
(精霊なんて空想の生き物だもの。ということは、私、やっぱりあの時死んだんだ。もうあの子たちに会えないんだ……)
《ユカどーしたのー?》
私の表情が変わったことに気がついた1人の精霊が顔の近くに寄ってきた。不思議そうな様子で私の顔を覗き込む姿があまりにも愛しくて、私は思わずその子に手を伸ばし、包み込むようにそっと撫でた。精霊の方も嫌がることなく、私の手にすりすりとくっついてくる。
その時、嬉しそうに私の手にじゃれていた精霊が光に包まれた。
「えっ、な、何これ、大丈夫?!私何かしちゃった……?」
《これは……》
突然のことに私が軽くパニックになっていると、いつの間にか長老様が隣に飛んできていた。
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