異世界で保育士してたらいつの間にか聖母になってました

水月 都

プロローグ

 「今年のクリスマスの工作は何がいいかなぁ。去年の風船サンタはみんな嬉しそうに作ってたし……。ふふ、今年は去年よりもっと楽しいの作らせてあげたいなぁ。今度新しい工作の本買いに行こっと」


 保育士として働き始めて4年目。去年初めてクラス担任を任され、日々子どもたちに色々な経験をしてもらうために試行錯誤している。私はこの時間が1番好きだ。子どもたちの笑顔を想像すると、楽しくてしょうがない。


 私には、他人の子どもの命を預かるこの仕事をするにあたって心掛けていることが1つある。それは”保護者の方に安心して子どもを預けて仕事に行ってもらうこと”。


 子どもを預けて仕事に行くときには「いってらっしゃい」。

 仕事を終えて子どもを迎えに来た時には「おかえりなさい」。


 そうやって保育園を、その家族にとってもう1つの家だと思ってもらえるように、保護者の方1人1人に接している。


 そんな私は今、最寄りのバス停から家に向かって歩いていた。辺りはすでに真っ暗で、冬特有の静けさに包まれている。この信号を渡れば、私の住むアパートはもう目の前だ。信号が青になったのを確認して横断歩道に一歩、足を踏み出す。



 瞬間、私の視界は真っ白な光で埋め尽くされた。


 「……え?」


 トラックにはねられたのだと気がついたのは、頬にアスファルトの冷たさを感じたからだった。無慈悲に走り去るトラックがちらりと目の端に映った。



 体から血が流れ出ていくのが分かる。

 体温が急激に下がっていくのを感じると同時に、世界がぐにゃりとねじれたような感覚に襲われた。


 (何、これ……どういうこと?私、死ぬの?みんなにもう会えないの?そんなの嫌だ……)


 そのまま私は意識を失った。

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