エピローグ:後編
妖怪が見えない伊集さんはマリコちゃんを見ることはできないが、マリコちゃんが姿を現すことで気配をより強く感じることができ、それで安心されるのだとい言う。
以前のこともあり、マリコちゃんが元気でいてくれることを嬉しく思われているのだろう。
そんな伊集さんなのだが、
今も他のお客さまが全て帰られ、マリコちゃんも姿を現した今は、こぢんまりとした
オーダーストップは過ぎているが、このご常連方が来られた時だけは、お飲み物はご注文可能にしているのである。特に酒呑童子にはお酒を与えなければ暴れかねない。
それにしても、妖怪や幽霊に関わりのあるご常連がこうして揃うのは珍しいことだった。
伊集さんと吉本さん、吉本さんと有田さん、吉本さんと才原さんはそれぞれお知り合いである。なのでこうして集まることになると、自然に飲み会になるのだ。この時ばかりは双子もご
伊集さんはあれからも霊能者を続けておられる。お仕事の前日にお食事に来られてお赤飯で力を
有田さんは画の制作に入られると、ぱったりとお姿を見せなくなってしまう。そういう時こそ双子はお赤飯を食べていただきたいと思うのだが、それどころでは無いご様子だ。
才原さんは日々酒呑童子にお酒を与えつつ、巧く関係を築けている様である。酒蔵見学にも行かれたらしい。昨年の秋には京都
「私にだけマリコさんと酒呑童子さんが見えないのは、残念ですわね。有田さんの画でマリコさんは拝見できますけども」
伊集さんは登美の丘の赤ワインを傾けながら、目を細められる。
伊集さんは有田さん、
「これがマリコさんなのですね。ようやくお会いできた様な気がいたしますわ」
才原さんも「凄いですね!」と目を輝かせ、酒呑童子は「我を描かぬとは何事か」と憤慨したものだった。
「そうやなぁ、今度妖怪が見ることができる札とか開発してみよかな。伊集さんやったら気配は感じてはるんやから、いけそうやわ」
吉本さんがビールを飲みながら言う。それに才原さんは「ええ?」とかすかに顔をしかめた。
「俺が言うんもなんですけど、そんなに妖怪って見たいもんですか? マリコさんとかこの酒呑童子はええもんやって分かってますけど、怖い見た目なもんも多いですよ?」
才原さんは
「もしかしたら、才原くんはそういう妖怪に会いやすいんかも知れませんねぇ。僕は幸い今んとこ、そこまで怖いもんには会うてへんので」
有田さんがビールをこくりと含みながら言うと、酒呑童子が「ふん」と鼻を鳴らした。
「才原、貴様は気付いてないのかも知れないが、我が貴様に憑いてから、ほとんどの妖怪は貴様を避けているぞ」
「そうなん!?」
才原さんはぎょっと目を
「そうだ。だから我がいる限り、貴様に危険は無い。安心しろ」
「そっかぁ。それやったら良かったわ」
才原さんは安心された様に胸を撫で下ろされた。
しかしそれだけ仲良くしているということなのかも知れない。きっと良いことなのだと思う。それだけ酒呑童子の
そんな皆さまを見て、マリコちゃんが半ば呆れた様に「ふふん」と鼻で笑う様な仕草を見せた。
「お前たちは相変わらずじゃな」
「あはは、どしたん、マリコちゃん」
陽がおかしそうに笑う。朔もつられて口角を上げてしまう。
「お前たちはそのまま変わらず、じゃが精進するんじゃぞ。少なくともわしの赤飯の加護が届くぐらいにはの」
「ええ〜? それって結構難しゅう無いですか?」
才原さんが
「私には解る気がいたしますわ。そうですわね、私たちは精進するのは当然で、ですが、変わってはいけない部分もありますわよね」
「え〜?」
才原さんはなおも困惑された様に首を傾げる。酒呑童子はそんな才原さんを見て「ははは!」と大笑いだ。
「良い、貴様はそのままで良い。その方が我も楽だ」
「どういうことやねん!」
才原さんが突っ込み、ふたりはわちゃわちゃと騒ぎ出す。なんとも微笑ましい。朔はほっこりしてしまう。
「はは。でも僕も解る気がするわ」
「僕もです。せやから安心してくださいね、マリコさん」
吉本さんと有田さんの穏やかなせりふに、マリコちゃんは「うむ」と
「大丈夫、ちゃんと解ってるで、マリコちゃん」
「せやで」
朔が、そして陽が言うと、マリコちゃんは満足げに「うむ」と笑みを浮かべた。
日々美味しいお惣菜を作り、お赤飯を炊く。だがそれは毎日同じではなく、昨日よりも今日、今日よりも明日、少しでも美味しいものを、と思う。
そしてお客さまに
そしてお赤飯を食べていただく方には、小さいかも知れないが、幸せが上乗せされるのだ。
「あずき食堂」は、明日も変わらず暖かな癒しで皆さまをお迎えすることだろう。
あずき食堂でお祝いを 山いい奈 @e---na
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