第30話 王都動乱――五ヵ国同盟締結

 うーん、私の、夢の世界で中々に外道なことをしておりますね……と、私ことほぼ人間のゴーレム、ドロシー・マリオネットは本体のやっていることを他人事のように心中で批判しました。同じ魂の存在なんですけどね。


 もう既にアルセリアさんは本体に三回殺されております。その間、こちらの世界では表面上は何もありませんでしたが、水面下では続々と「ウェルハイズ王国平定計画」が進んでおります。


 計画の主導者はフェシウスです。自由都市リベリオンと条約を結んでいる三ヶ国に呼びかけ、「魔王の危機の再来」を強く訴えかけたおかげで三ヶ国との会議の場を得ることが出来ました。


 商業都市マーチ、魔法都市ソーサリウム、自然都市エルフィランド。


 しかし自由都市含めた四ヵ国の会議は上手く進みませんでした。


「え~でも、ウェルハイズって歴史浅浅クソザコ国家でしょぉ~? メイちゃんの目利きだとぉ~、その計画に参加してもぜーんぜん利益でないなぁ~? フェシウスちゃーん、もっとメイちゃんにメリットをちょーだい?」


 マーチの長、金髪に青と緑のオッドアイ、世界最高峰の資産家である猫獣人――


 メイ・スタッガ・アーキア。


(知らない子ですね。フェシウスによると一か月前にマーチの長になったようです)


「魔族系国家である妾たちソーサリウムからすれば、新たな同胞の誕生は喜ばしいことですわ。故に、妾たちはむしろウェルハイズ側に応援を寄越そうかと考えておりますの。それ以上の価値を貴方は提示可能なのかしら、フェシウス?」


 ソーサリウムの長、白髪紅眼の和装少女、最強の魔族――


 テラ・ノーブルスタイン。


(ちなみに100年前から姿が変わってません。魂の格が生まれつき高い魔族は往々にして若い容姿のままです)


「うむ……皆はこう言っているが、フェシウスには色々と世話になっているため、俺はその計画の支援をしようと思っている。だが、俺の軍を全て動かすことは難しいな……それでも精一杯は尽力させてもらう」


 エルフィランドの長。屈強なる二足歩行の獅子王。エルフィランドの平和と独立の象徴――


 ウェリオンゴ。


(100年前の王の孫ですね。お爺さんと同じようにその金色のたてがみはフワフワです)


 三ヶ国中マーチは中立的、ソーサリウムは敵対的、エルフィランドは協力的な立場を取りました。


 一見難しい状況に思えますがフェシウスは最初からこの結果を予想していました。むしろマーチが敵対的な立場を取らなかったことが想定外なぐらいで、交渉のカードを安く抑えられると喜んでいることでしょう。


「安心して欲しい。勿論、協力してもらう事への対価は出せるよ」


 フェシウスは、事前に考えていた計画を彼らに説明しました。


「まず、昨日僕は秘密裏にウェルハイズの隣国であるアピアスに協力を申し込んで、向こうはそれを受諾してくれた。アピアスはウェルハイズの目と鼻の先だから各国の輸出業者もアピアスへの輸出は渋っているし、国民からしたらいつあの魔物達が自分たちに牙を向くのか分からないっていうことで続々と国外に避難する人が増えているんだ」


 ここで、マーチの代表であるメイ・スタッガ・アーキアは「ふぅ~ん?」と、フェシウスの狙いに気づいたようでした。


「つーまーりー、メイちゃんたちとアピアスで五ヵ国同盟を組んでー、ウェルハイズを鎮圧した後には“同盟国アピアスが受けた被害を補填するため”という名目でメイちゃんたちはウェルハイズから賠償金を搾り取るってワケ? でもフェシウスちゃん、考え甘くなーい?」


 しかし、メイ・スタッガ・アーキアはその計画のほころびを見つけ、フェシウスに指摘しました。


「まず、受けた被害を補填するって言ってもー、国外からの輸入量なんてタカが知れてるでしょ? あとはアピアス国民の流出だけどー、そっちもたいして問題にならないよねー? だって、人が多すぎて田舎も田舎なアピアスのクソザコ運送業者じゃあ絶対にパンクしちゃうもんっ! そーれーにー、ウェルハイズから賠償金を搾り取ろうたって、あの国が支払えるわけないじゃん。どうするのー?」


「ええと……」


 フェシウスは言葉に詰まりました。彼のその様子を見て、メイ・スタッガ・アーキアは得意満面と言った表情になっていました。


 しかし、フェシウスの次の言葉を聞いて彼女はポカンと呆けた顔になりました。


「……今は僕が話していたんだ。横から口を挟まないでもらえるかな? それに……その計画が穴だらけなことぐらい、僕だって分かるよ」


「へ?」


「僕が考えた計画はそれとはまったく違う。まず、君たちに与えられるメリットは、“オークションの先行参加権”だ。そこのメイ・スタッガ・アーキアちゃんは知らないみたいだけど、歴史が浅いはずのウェルハイズの国庫には貴重なマジックアイテムが数多く眠っているんだよ。平定後、そのオークションで得た利益をウェルハイズは賠償金としてアピアスへと支払う……そういうわけさ」


「……ふむ、なるほど」


 それを聞き、テラ・ノーブルスタインは天秤に掛けられたモノの価値を見定める表情に変わりました。彼女は知っていたのでしょう、ウェルハイズの国庫のマジックアイテムについて。


 それを優先的に得られるのであれば、同盟に参加しても止む無し……そういう顔ですね。


「へ……? 待って待って! でもでもでもっ! もし仮にウェルハイズがそんなオタカラを持ってたとして、オークションで支払うのはメイちゃんたちじゃんっ!?」


「マジックアイテムの価値を理解していない阿呆猫は無視してくださいまし、フェシウス。それで、協力の内容なのですが、妾たちは直接的に同胞を傷つけたくはありませんの。故に物資面での支援を行わせていただきますわ。貴方もそれでよろしくて? フェシウス」


「うん。構わな、」


「ちょっとちょっとぉっ!? メイちゃんを無視しないでよっ! あと、フェシウスちゃんの計画にもまだ穴があるんだから! さっきメイちゃんの言った『運送業者のパンク』! メイちゃんの見立てでは三ヶ月ぐらいパンクするよ! それ、どーするの?」


「自由都市リベリオンの運送業が国外への避難を全力で支援する。そうすれば、大体三日ぐらいで国外避難を希望する人間の90%ぐらいは避難させられるかな? その費用はアピアスへの賠償金から支払ってもらうから……それで、他に何か言いたいことはあるかい? メイ・スタッガ・アーキア?」


 酷い男ね、とテラ・ノーブルスタインは手に持った扇子で口元を隠し、静かに笑いました。ウェリオンゴも目を静かに伏せ、盟友の外道なマッチポンプに目をつぶりました。


 はい、そうです。これはマッチポンプです。


 国外避難が滞った状態でウェルハイズ王国を平定してしまえば国民の流出は止められるというのに、フェシウスは敢えてそれを支援し、国民を流出させてから平定してウェルハイズからより多くの賠償金を搾り取ろうとしているのです。


 しかも、その費用はアピアスの得た賠償金から補填され――その上、その賠償金はオークションの利益であるため、懐を痛めるのは他の国や人物だけ……彼だけは実質的に懐を痛めておりません。なんて狸なエルフなんでしょうか。


 メイ・スタッガ・アーキアは、フェシウスが自分より数段上を行っていたことに対し悔し気な表情を露わにして……


「……無い、です」


 彼女の答えを聞き、フェシウスはニッコリと笑いました。


「よろしい。二人も異論はあるかい?」


「無いですわ」


「無い」


「それじゃあ、次は『同盟軍』についてだけど――」


 こうして、自由都市・商業都市・魔法都市・自然都市、及び今ここにはいないアピアスの五ヵ国同盟は締結。アピアス国民の避難が終わった次の日に「同盟軍」はウェルハイズ王国に対し、平定活動を開始します。


 さて、これから忙しくなるのは私ですね……「同盟軍会議」が三日後に行われます。会議の場所はアピアス共和国とウェルハイズ王国の国境線……そこに兵と物資を転送するのが、私の仕事になります。


 私の本体は夢の世界の中で呑気にご飯を食べてますね……桜咲く河川敷に座りながら、一日眠っているアルセリアさんを前にして秋刀魚を七輪で香り高く焼いてます。楽しそうにうちわで囲炉裏を扇いでいる姿を見てると何だかイライラしてきました。


 しかもアレ、秋の秋刀魚ですよ? 夢の世界だからって脂の乗った旬の秋刀魚を食べないでください。ちゃんと春の秋刀魚を食べてください。季節感ゼロですよ、あのアホ。


 そのうちやりますか。被造物の反乱……もちろん冗談ですが……ええ。


 今は、冗談で済ませておきましょう。


 そんなことをしている暇は、私にはありませんから。

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