第20話 遡行 2

「――つまり、お前らはサージェスの野郎に“魔王が復活した”とかいう理由で異世界から召喚されて、それで一つの部屋に纏められている最中に“お嬢”が部屋の中に来て、サージェスがお前らのことを利用しようとしている、と教えられ、草原の中の仲間を頼れと言われてスラムを通って北の草原に放り出された……ってことで良いんだな?」


「ええ、そうね」


 盗賊団への説明はキョウカが行った。この4人の中で誰が一番上手く状況を説明できるかと言われれば、当然のことだ。


 しかし紅髪の彼が言ったことに対し、彼の部下である黒い衣服で素肌を隠した金髪と銀髪の女性二人(キョウカとアリサを別の牢からこちらの部屋に連れてきたのも彼女達である)が、陰でコソコソ話していた。


「お頭、彼女の言ったことをただ反芻しただけっすね……」


「しっ! お頭は脳筋なんだ。察してやれ……」


「おいそこー、金銀コンビー、黙ってろー……つーか、“お嬢”は俺たちの事をもう少し具体的に伝えなかったのか?」


「……『頭の悪いヤツだけど、腕っぷしは確かだから安心して!』って言ってた覚えがあるわ。そうよね?」


「ああ。俺もそう言ってた覚えがある」


「俺も……」


「わたしも」


 それを聞いて、紅髪の彼は溜息をつき、「お嬢も大概変わんねぇだろ」とぼやいた。実際、「協力者」がどのような人間なのか一切の情報が無かったため、王女の方が大概馬鹿である。


 彼女の失態についてはさておき、盗賊団のリーダーである彼は自己紹介をした。


「俺はカトリス、この〈蛇狩り盗賊団〉の団長だ。腕っぷしは保証するが……頭は別に悪くねぇ。そこだけは訂正させてもらうぜ」


「本当なんです! お頭はたまに脳筋だけど、決して頭は悪くないんっす!」


「信じてくれ!」


「おいやめろ金銀コンビ。そんなに擁護されるとより一層馬鹿っぽく見えるじゃねぇか」


 どうやら盗賊団内の関係は良好のようだと4人は理解した。


 その後、彼から盗賊団の簡単な説明があった。


〈蛇狩り盗賊団〉は王女アルセリア・フォン・ウェルハイズが内密に組織した盗賊団であり、表向きは彼女と何の関係も無い盗賊団である。


 “草原を通って王都のスラムに違法な物品が流入するのを未然に防ぐ”のを活動内容としており、今までに盗んだ物品は数知れず。もし持ち込まれたらテロに発展していたかもしれない、というぐらいの危険な物品も盗んだ事がある。


 この盗賊団は、王都の平和を影から支えている組織であると言えるだろう。


 傘下には一つだけ組織があるようだが、彼はそれに関しては詳しく語らなかった。


 その後、学生たちは各々自己紹介をし……キョウカが手を上げて、彼に質問をした。


「もう少し聞いてみたいことがあるのだけれど……どうして違法な物品をスラムから持ち込もうとするのかしら? 言い方は悪いかもしれないけど、賄賂を使って表から持ち込めたりはしないの?」


「ああ、無理だな。この国はその辺のチェックがめっちゃ厳しい。衛兵もみんな賄賂如きじゃ揺るがねぇんだよ。だから悪い奴らは西の街道じゃなくて北の草原からスラムを通ってヤベェもんを持ち込もうとするんだ。そしてこの草原は国境線付近だからあまり多く衛兵を駐在させられない。スラムも色々事情があって衛兵が入り込めねぇし……この王国の数少ない穴だ」


「なるほどね……」


 故に、王女は彼ら〈蛇狩り盗賊団〉を組織したのだろう。


「……でも、だったらどうして私たちを拘束したの?」


「ああ。それは、お前らが変な格好をしている上に変な魔道具を持っていたからな。もしかしたら、他国の軍事部隊かもしれんと思って拘束させてもらった」


 彼の話によると、そう言った人間が草原を通ってやってくることも時折あるらしい。


「……で、今度は俺からお前らに質問だ。お前らはこれから何をしたい?」


「何を……って」


 キョウカの答えは一つである。


「ああ、ミナモキョウカは確固たる芯があるみたいだな……見た限りだと、サトウアユムもか。だが、そこの二人は何も決まっていないみたいだ。お前らの心の内を聞かせてくれ……今後のためにもな」


 カトリスの言葉にイユとアリサは頭を悩ませた。


――これから何をしたい?


 その疑問に対して絶対にこれだ、と言えるような答えが、二人には無かったのだ。それもそうだ。二人の性根は言ってしまえば“周囲に流されるタイプ”。よく言えば他人想いだが、悪く言えば自我が無い。ただ中途半端に優しいだけの、思春期の男女である。


 対して、他の二人はどうだろうか?


 キョウカの目的は明らかだ。アユムもこの世界に対して希望を抱いている。


「……俺は、とにかく、皆の助けになれればいいと思っています。誰かの重い荷物を持ったり、苦しんでいるならそれを肩代わりしたり……そう言うことが出来れば良いと思っています」


「ふむふむ。なるほどな。シイナアリサ。お前はどうだ?」


「わたしは……争いごともあんまり好きじゃないし、頭も悪いから難しいこともよく分かんないけど、皆と楽しく過ごせればいいなって思ってます」


「そうか」


 保留。二人の答えは前向きでは無かったが、その答えを聞いてカトリスは満足していた。


「一応聞いておくが、キョウカは“元の世界に帰りたい”って思ってて、アユムは“この世界で名を挙げたい”って思ってんだよな?」


「ええ。もちろんよ」


「えーと、俺は、その……」


「隠さなくていいぞ。顔からそーいう気が溢れ出てる」


 図星であった。


「……よし、決めた! お前ら、俺の仲間になれ!」


 カトリスの言葉に、4人は一旦多数決を取ることになり……


 賛成:3人


 反対:1人


 キョウカだけは「地球に変える手立てが見つから無さそうだから」という理由で反対していたものの、カトリスに「お前みたいに頭が良い奴が加わってくれれば、俺たちも嬉しいんだがな……」と言われ、彼の部下からも同じことを言われ、最終的には――


「ま、まあ。しょうがないわね……多数決で決まっちゃったからには、仕方ないわよね……」


 その反応を見た部下二人とアユムはヒソヒソと陰で話していた。


「……うっわチョロいっすねこの子」


「いわゆるツンデレってヤツだな。頭にネコミミが見える気がするぜ」


「まぁ、お頭は脳筋だからな。これで〈蛇狩り盗賊団〉の将来も安泰だな……」


「おーい、お前らー?」


「聞こえているわよー?」


「「「ひぃっ!」」」


 全く同じ表情を浮かべたカトリスとキョウカによって、三人は制裁され……そんな彼らの様子を、イユとアリサは微笑まし気に見つめていたのであった。

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