第14話 竜狩り 6
「えー、じゃあアタシが進行を務めるぞ……」
公正なるくじ引きの結果、私はシュラさんの膝の上に座ることとなりました。
「ふぅむ。座り心地はどうかな? ドロシー殿」
「悪くはありませんよ。柔らかすぎず、硬すぎず、ちょうどよいです」
「それは良かった」
……若干二名ほどから妬みの視線を向けられているシュラさんの境遇は、少しだけいたたまれませんが。
そんな、目の前で起きている小さな争いを意に介さず、司会役を務めるレティレットさんは会議を進めていきました。
「まずはどうやってドラゴンの住処に行くかだが、アタシの案はワイバーン特急だ。金は掛かるが移動での疲労が少ないからな」
「徒歩はっ?」
「論外だ! ……まあ、帰りは別に徒歩でいいけどさ。それで、他に案のあるヤツは……」
「あっ、私、転移魔法使えるのでそれで全員送れますよ。場所もさっき確認しましたけど、ココからでも十分跳べる範囲なので大丈夫です」
「マジか」
「わぁ……ドロシーちゃん、転移魔法を使えるんですか? す、すごいです……!」
移動手段の問題は解決しました。次に行きましょう。
「じゃ、次は……ドラゴンをどうやって撃ち落とすか、だな。ただ……正直言って、アタシもヴィオラ以上の案を出せそうにない。パイルバンカーの爆風でシュラを飛ばして撃ち落としてもらうぐらいしか……」
「あ、私が魔法で撃ち落とすので大丈夫です。〈マスター〉ランクのドラゴンの翼だったら十分撃ち抜けます」
「……」
撃ち落とす方法についても解決しました。次です次。
「次は戦闘時の役割分担についてだが……」
「あ、ちょっといいですか?」
「ダメよ!」
私が手を上げると、ヴィオラさんがどういう訳かいきなり否定してきました。
「えっと、どうしましたか?」
「本当に申し訳ないんだけど、移動、撃墜までやってもらって、その上討伐までドロシーちゃんに任せちゃったら私たちの立つ瀬が無いわ! だから、討伐は私たちにやらせて頂戴!」
「……ふむ」
「アタシからも頼む。もう既に至れり尽くせりなんだから、これ以上ラクはできねぇ」
「わ、私からもお願いします……宗教上、動物は自分の手で殺したモノしか食べられないので」
「あちき、竜を斬ったことが無く――それ故、ドロシー殿を邪魔してでも斬らせてもらうぞ?」
「なるほどなるほど……分かりました。ドラゴンの討伐は皆さんに任せるので、私は後方支援に徹していますね」
皆の感謝の言葉を聞きながら、私は、先ほどフェシウスからお願いされたことを思い出しました。
『――〈美暴飽悪〉は現在、僕が一番目を付けているパーティなんだ。彼女たちは“新世代”の冒険者の象徴として相応しい才覚を秘めている』
『けれど、けれどね、ドロシー……』
『向上心の無い人間は、皆等しく爪牙を奪われた獣に過ぎないんだ。そんな冒険者に象徴としての価値は無い。大人しく、門番でも何でも相応しい仕事を望むだけやらせておけば良いって僕は思ってる』
『だからドロシー。このクエストで、もし彼女たちが君の力に依存するようであれば僕に伝えてね』
『ああ、もしかしたら100年の間に君の中で“倫理観”というモノが育まれたかもしれないから一応釘を刺しておこう』
『情けは無用だよ』
(……杞憂に終わりましたよ、フェシウス)
フェシウス。君が心配するまでも無く、彼女たちは獰猛な獣でしたよ。
◆◆◆
「――それじゃ、これで会議を終わりに……」
「ちょっと待ってください」
計画自体は綺麗に纏めることが出来ましたが、一つだけ、話題に上がっていない議題がありました。
出発日時です。
「全く相談されていませんでしたが、いつ頃クエストに出発するのかはもう決まっているのでしょうか? 私、少々事情がありまして、三日後にはココを発つ予定なんです」
〈マスター〉ランクのドラゴンを討伐のするための準備は欠かせません。倒すための準備ではなく死なないための準備です。万一倒したとして、命を失っては元も子もありませんから。
万全を期す場合、その準備は三日四日程度で終わるわけがありません。
もしも出発が三日以内でないのなら〈美暴飽悪〉と彼女たちを紹介してくれたフェシウスには悪いですが、私はこの計画を無視して単独でドラゴンを討伐しに行きます。
「あら、三日後? だったら心配はいらないわ」
――しかし、それもまた杞憂でした。
私も、フェシウスと同じように、彼女たちの事を見誤っていたのです。
「出発時刻は、“今この時”よ」
ヴィオラさんが立ち上がり――呼応し、他の三人も――各々の得物を装備し、立ち上がりました。
「さあ、ドロシーちゃん。転移魔法をお願いっ!」
果たして彼女らは英雄なのか、それともただの馬鹿なのか……その結果はこれから分かるでしょう。
「……分かりました。ついて来て下さい」
そうして、私と〈美暴飽悪〉の四人はドラゴンを討伐するため、自由都市リベリオンの北東に位置する岩石地帯に転移しました。
◆◆◆
赤銅色の巨竜が起伏の激しい岩石地帯の上で飛び回り――大樹のように並んで聳え立つ岩の突起へ、勢い良く――衝突。
大樹のような岩は粉々に崩れ落ち、砂塵を巻き起こしながら地上に降り注ぎました。
空一面に広がる砂塵――その中から赤銅色の巨竜が傷一つ無い姿を現し、そうして、また別の岩へと衝突し、聳え立つ岩を次々と粉々に砕いていきました。
彼の竜が通り過ぎた後には、歪な岩石だけが並んでおります。
彼の竜の行動はまるで、自分より高く聳え立って自分を見下そうとしている存在全てが許せない、矮小な帝王のようでした。
遥か遠くの均された岩の平地に立つ私は邪魔なとんがり帽子を投げ捨て、その翠玉色の双眸で巨竜の姿を明確に捉えておりました。
「……そろそろ5分ですね」
私は狙いを定め、両手で弓を引き絞るように構え――詠唱。
「――賢者目録、第三篇――啓け、【
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