第13話 竜狩り 5

「ところで皆さん、ドラゴン討伐の計画は?」


「もちろん立ててあるわよ! まずは――」


①ドラゴンの住処に向かう。徒歩で!


②ドラゴンを撃ち落とす。方法は、レティレットのパイルバンカーの爆発を利用してシュラを発射して、翼を切り落とす。


③頑張って倒した後のドラゴンを調理!


④いただきます!


⑤ご馳走様でした!


「うん! どこからどう見ても完璧な作戦ねっ!」


 うーん、完璧に問題だらけな作戦ですね。


 とか私が思っていると、レティレットさんがドン引きした顔で彼女の方を見てました。


「オイオイオイちょっと待て! お前、ドラゴン討伐クエストを受ける時に『私に良い考えがあるわっ! 信じてレティレット!』とか言ってたよな? なんだよその作戦は? お前のことを塩一つまみ程度でも信じたアタシに謝れっ!」


 私に良い考えがあるって言ってるときはだいたいダメな時です。ヴィオラさんの細かいところは気にするな、とでも言いそうな大雑把な性格が伝わってきます。


 危うくヴィオラさんの首元に彼女の手が掛かるところでしたが、すんでのところで他の二人に脇を抱えられ、地面から持ち上げられました。


 二人に抱えられて暴れている様子はまるで小動物のようでした。


「おち、落ち着いてください!」


「チェロン殿の言う通りだ、落ち着きなされ。そも、あちき共はいつも行き当たりばったりないくさに励み、その都度どうにかしてきたではないか。ならばいつも通りのいくさをするが吉、というやつではないかな?」


「なワケねぇだろ! 多少は作戦を考えろ食欲バカ共!」


 彼女は計画の甘さに激昂しておりましたが、彼女が発した言葉を聞いて、穴だらけの計画を立てた当の本人はシニカルに笑いました。


「ねぇねぇ聞いたドロシーちゃん? 『食欲バカ』ですって。成長適正が“暴食”のレティレットが私たちの中で一番食欲凄いのに……知ってる? レティレットって自由都市の食堂の大食いチャレンジで全て出禁になってるのよ」


「あはは……」


「聞こえてるぞー。はぁ……」


 レティレットさんはもはや呆れ顔、といった感じで身体から力を抜き、ダラーンと二人に抱えられたまま垂れ下がっていました。


 脇を掴んだ時の猫そっくりで本当に微笑ましいです。


 それと……成長適正。魂の格(現代日本風に言えばレベル)を上げるための条件。


 成長適正はその人間の行動に深く関わってきますからねー。


 例えば成長適正が“探究”の人間を例に挙げると、彼らは常に物事の本質を追い求めようとします。


 その様子は、傍から見れば倫理観を失った変態にしか見えないようです(昔、どこかの女好きのクズエルフにそう言われました。勝手な言いがかりですね)


「なるほど。成長適正が“暴食”だからレティレットさんはあんなに食べていたんですねー……いやでも、皆さんも中々に食べていた気がしますが」


 特にチェロンさんが。


「ほら見たことか。部外者のドロシーから見りゃ、成長適正が食事に関係しているアタシたちなんてみんな食欲バカにしか見えねぇんだよ。同じ穴のムジナだムジナ」


「へえー、珍しいですね。皆さん、全員成長適正が食事系なんですか?」


「そうね。そもそも〈美暴飽悪〉っていうパーティ名だって、私が“美食”でレティレットが“暴食”、チェロンが“飽食”でシュラが“悪食”……そこから取っただけだもの、何の捻りも無いでしょ?」


 アルティメットブレイカーなんかよりは随分とマシな名前です。センスが壊滅的な彼女にしてはいい名前を付けたなと私は思います。


 って、そんなことはどうでもいいんですよ。


「まあ、とりあえず、話を戻しますと……私もレティレットさんと同意見です。流石に計画ぐらいはまともに組みませんか? 〈マスター〉ランクのドラゴンともなれば1年間ずっと飛び続けることも可能ですので、もし取り逃がしてしまえば二度とチャンスは無いと思います」


「わた、私もレティレットちゃんと、ドロシーちゃんに賛成です……手負いのドラゴンを取り逃がしてしまうと、他の地域にも被害が出てしまいますから」


「ふぅむ。あちきはどちらでも構わんぞ。結局、斬ればいいのだろう?」


「過半数がそう言ってるならそうするわっ! それじゃあ、会議を始めましょう! そこの個室の円卓で!」


 良かったです。彼女が融通の効く方で。


 そんなわけで、私たちはギルドの提供する個室にてドラゴン討伐について一から十まで会議することになりました。


……しかし。


「ドロシーちゃん、私の膝の上においで~」


 なぜかヴィオラさんがそんなことを言い出したのです。それも「可愛いから」という大変下らない理由で。いえ、この姿を褒められたこと自体は純粋に嬉しいのですけど。


 しかし、それを皮切りに私の座席問題が始まり……


 正直、時間も無いからどこに座ってもいいので、さっさと会議に入ってさっさとドラゴン討伐に赴かせてください……

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