第4話 観察 3

 猪を持ち帰ったことで転移者4人の食糧事情は大分改善しました。


 彼らの様子を眺めている内に、私は彼らの名前を知ることが出来ました。


大倉オオクラくん……貴方、身体が大きいのだからもう少し食べてもいいのよ?」


 大倉オオクラ 岩優イユ。身長およそ190cmの大きな男子高校生です。鍛え上げられた肉体と優しい心を合わせ持った素晴らしい子です。


 しかし、良くも悪くも他人優先なところがあります。


「ありがとう、水面ミナモさん。けど、俺が食べ過ぎるのはみんなに悪いからさ。俺は、ほら、大丈夫だよ」


 水面ミナモ 鏡花キョウカ。怜悧な瞳をした女子高生です。頭脳明晰で、身体にはしなやかな筋肉が全身バランス良く付いています。まさしく文武両道ですね。


 良く言えば、物事をハッキリ言うタイプです。悪く言えばオブラートに包むことが苦手です。


「私が言っているのは、皆と同じくらい食べても良い、っていうことよ」


「いいんだ。あんまりお腹空いてないからさ」


「おっ、それなら貰うぜ」


 何の特徴も無い男子生徒が大倉くんの皿から牡丹肉を取っていき、あっという間に口の中に放り込んでしまいました。


「はぁ……少しくらいは、大倉くんを見習ってほしい物ね」


「肉うめー……ん? なんか言ったか?」


 佐藤サトウ 歩夢アユム。何の特徴も無い普通の男子高校生です。他者になびかない傍若無人と言った立ち振る舞いで、彼だけは異世界転移というこの状況を楽しんでいるようですね。


 水面さんには蛇蝎のごとく嫌われております。


「だったら、わたしのお肉をイユくんにあげるよ。どうぞ~」


「いや、俺は大丈夫……椎名シイナさんだってお腹空いてるでしょ?」


 椎名シイナ アリサ。ブロンドヘアーでロングヘア―なハーフの女子高生です。容姿端麗で誰にでも好かれる性格をしており、それ故トラブルも多そうだなー、と個人的には思っております。


「ううん。これは今日のお礼。イユくん、わたしのこと励ましてくれたでしょ?」


「ありがと、椎名さん……それじゃ、いただきます」


 大倉くんと椎名さんは順調に仲を深めているようですが、私の経験則によると二人は親友というポジションに収まりそうですね。


 しかし何でも恋愛に結び付けたがるのが思春期。


 水面さんは微笑ましい物を見つめるように彼ら二人のやり取りを眺めております。その表情からは10代ではなく20代後半の貫禄が出ております。


 一方、佐藤くんは面白くなさげです。誰の目から見ても嫉妬の表情です。若いですねー。


「……ほら。やるよ。俺の肉」


「えっ、いいの? ありがと、アユムくん!」


「いいってことよ!」


 佐藤くんは椎名さんに自分の皿から肉を3枚渡しました。これで大倉くんから奪った分を含め、プラマイ1枚です。


 一応、4人は水面さんをリーダーとして一旦まとまることはできているようです。


 ただ、佐藤くんだけは少し、協調性が無いというか、どこか遊びみたいな雰囲気があるのが気がかりですかねー……


(……そもそもの話、なんで彼らは野宿を?)


 こちらの世界の都合で召喚された以上、何かしらのサポートがあってもいいはずですが、見た限り支給された物はテント、寝袋、剣、槍、弓矢、杖……あとは塩だけです。


 流石に、何かがおかしいですね……


(フラジールくん、一旦戻ってきてくれませんか?)


 私の意思に反応しフラジールくんは羽ばたき、あっという間に地下牢の溶けた格子窓から帰ってきました。


「よしよし、いい子です」


 私が頭を撫でるとフラジールくんは小さく鳴き、そのまま床の上に並べた木炭を口にしました。お腹が空いていたんですね。良い食べっぷりです。


「すみません、フラジールくん。少し頼みたいことがあるのですが……」


 聞いてみると、フラジールくんは「どんとこい」とでも言うように翼を大きく広げてくれました。頼もしいです。


 私はフラジールくんに、城内の探索をお願いしました。


   ◆◆◆


 ふむ、やはり城の中の様子はガラリと変わってますね……広い城の中を最上階の4階から順に下って観察してもらってますが、鎧を着た兵士よりも黒ローブを纏った魔法使いの姿が多く見られます。


 うーん、これは、白ローブの男性が勇者召喚に成功したため政治的発言力が強まり、部下である魔法使いが増えた……とかが線として有り得る話ですかね?


 しばらく、私は城内の探索を続けました。おおよそ一時間経ったところで、私は謁見の間に辿り着きましたが、そこで信じられないものを目にしました。


 玉座に、私たちを召喚した白いローブの男が座っていたのです。


 部下らしき黒ローブの女性が、彼に何かを報告していました。


「サージェス様。スラム街に潜伏していた王女を捕らえることに成功しました。現在は城内にて高位術師8人がかりで拘束しております。この後は、どのようにすればよろしいでしょうか?」


「それでは、地下牢に監禁を。王女はまだ使い道がありますので……“吸魔の枷”をしっかりと掛けて、抵抗の余地を与えないようにしてください」


「了解」


「王は脅しに従って個室から動かないから問題無し、と……ああ、そうでした。4人の勇者の方はどうなっていますか?」


「はい、すみません。まだ発見できていません。王女が彼らを解放したときに、何かしらの魔法を使用して彼らの存在を隠匿したと見られます」


「まったく、機転が利きますね。流石王女様です」


 二人の話を聞いて、私は思いました。


 もしかして、これ、クーデターでは……?


「……ん?」


 部下にサージェスと呼ばれていた白ローブの男は突然、こちらを――透明化しているはずのフラジールくんを睨みつけました。


 一瞬、懐疑的な表情を浮かべたと思えば――指先から魔法の弾丸を放ちました。

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