茨の陣 ―グラハム―

「我らの力はこんなものではない! よし、次の手を出すぞ!」

「応!」


 カーディナルのかけ声で三人が動き出す。今度はグラハムが先頭に立った。その後ろにカーディナル、ノヴァリスと順に続く。


「ローズ・フォーメーション! グラハム・ミラージュ!」


 三銃士が一斉に剣を掲げ、先ほどと同じようにグラハムの背後から兄と弟の手が左右に伸びる。ただしグラハムは背が低いので、後ろの二人の姿が丸見えになっていた。


「……先の型と何か違いはあるのか? 順番が変わっただけのように思えるが」

「ふふん。それはどうかな? さぁかかってこい!」


 先頭にいるグラハム得意げに鼻を鳴らす。盾の役目を果たしているわけでもないのに、どうしてそれほど自信満々でいられるのだろう。

 オリヴィエは首を捻ったが、数瞬の後に攻撃を仕掛けることにした。手の内を知りたくば、まずは飛び込んでみるまでだ。


 グラハムは直前まで動かなかったが、オリヴィエの剣が到達する直前でふっと姿が見えなくなった。

 消えた? 不意を突かれたオリヴィエが動きを止め、その隙に後ろにいたカーディナルとノヴァリスが剣を突き出してくる。オリヴィエは左右に身体を捻って攻撃をかわし、カーディナルに狙いを定めて追撃しようとする。


 だが、そこで消えたはずのグラハムが右から現れて剣を突いてきた。オリヴィエは後方に身を引いて躱し、迎撃しようと自分も突きを繰り出す。

 しかしそこでまたグラハムは姿を消してしまった。探している間にカーディナルとノヴァリスが交互に剣を突いてくる。

 二人に狙いを定めようとすればグラハムが現れて妨害し、グラハムを攻撃しようとすればたちまち姿を消す。そうしてオリヴィエはしばし翻弄されることになった。


「まったく……はえのようによく動き回る。小柄な体格を活かした戦略というわけか」オリヴィエがグラハムを見ながら言った。


「その通り! 小さいと視界に入りにくいからな! 本来ならば弱点になり得る体格を逆手に取ったのだ!」グラハムが揚々と叫ぶ。


「兄者は昔からチビだったからな! 俺よりも背が低いとよく笑ったものだ!」ノヴァリスが声を上げる。


「チビって言うな! 弟のくせにそんなにでっかい身体しやがって!」


「デカいのだって大変なんだぞ! 鎧だって合うサイズ探すのに苦労したんだからな!」


 剣戟けんげきの合間に口論が繰り広げられる。敵の前で兄弟喧嘩をするとはやはり呑気な奴らだ。

 だが弱点を活かそうとする発想は悪くない。現れては消える戦法はまさに蜃気楼のごとし。ミラージュとは考えたものだ。


「なるほど、お前達は単なる道化ではないらしい。思いのほか頭脳派のようだな」


「そうだろうそうだろう! こう見えていろいろ考えてるんだぞ!」グラハムが飛び回りながら息巻く。


「そのようだ。だが残念なのは、せっかく考案した型を活かせていないことだ。発想は悪くないが甘さが目立つ」


「甘いだと!? どこがだ!?」


「例えばここだ」


 視界から消えようとしていたグラハムの行く手を塞ぐようにオリヴィエが剣を突きつける。それまで俊敏に動き回っていたグラハムがぴたりと動きを止めた。


「な……どうして俺の居場所がわかった!? 目立たないようにしていたのに!?」


「確かに体格が小柄であれば視界に入りにくい。だがお前の鎧の色は目立つ」オリヴィエが黄色い鎧に視線をやる。

「暗闇の中から一番星を探し出すようなもので、姿を捉えることなど造作もない。さすがは『太陽をも超越する輝き』だな」


「くそっ! まさか鎧の色があだになるなんて……。これなら黒薔薇の騎士って名乗ればよかった!」


 地団太を踏むグラハムは本気で悔しがっているようだ。鎧の色を変えたところで戦況が大きく変わるとも思えなかったが、オリヴィエは深追いしないことにした。

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