薔薇は踊る
最初に仕掛けてきたのはカーディナルだった。レイピアを片手で振り上げ、唸り声を上げながら向かってくる。
だが走っているはずなのにやはり歩調が遅い。オリヴィエは何なく攻撃を
追撃を仕掛けようとしたところで、グラハムが横から突きを出してきたので一旦立ち止まり、身体を反転させて迎え撃つ。すると今度はノヴァリスがグラハムの隣に並んで脇を突いてきた。レイピアの剣身が左右から迫りくるが、オリヴィエは両方の攻撃を冷静に受け止めた。
きん。きん。攻撃直後の一瞬の隙を突いて二人に反撃を食らわせる。ひゅん、がいん。反撃はグラハムの脇腹とノヴァリス
その隙にオリヴィエはさらなる一撃をお見舞いしようとしたが、そこで背後に気配を察知して振り返った。体勢を立て直したカーディナルがレイピアを突き出そうと腕を引いている。
だが構えが甘い。オリヴィエは身体をわずかに右に動かし、彼が突きを繰り出すと同時に自分も剣を突き出した。
がいん。辺りに響いた金属音は一回のみ。カーディナルの剣はオリヴィエの脇をすり抜け、逆にオリヴィエの剣は彼の腹部を直撃していた。カーディナルが腹部を押さえてその場に膝を突く。
「お、おい兄者! こいつ強いぞ!」ノヴァリスが泡を食った様子で叫ぶ。
「ううむ……。おかしいな。女一人なら楽勝だと思っていたんだが……」グラハムが首を捻る。
「三人がかりで手も足も出ないだと……? こいつの身体能力はどうなっているんだ⁉」
カーディナルが怪訝そうに呟く。兜で表情は見えなくとも、彼らの狼狽ぶりが手に取るように伝わってくる。オリヴィエは剣を差し向けながら冷ややかな視線をくれた。
「どうした? もう終わりか? その程度の実力で三銃士を名乗るとは片腹痛い」
「終わりなものか! 我ら茨の三銃士、この程度で屈しはしない!」
「それは安心した。久方ぶりの騎士相手の勝負。相応に楽しませてもらわねばな」
オリヴィエがふっと息を漏らして表情を緩めたが、すぐに
「こ、こら! いきなり攻撃するなんて卑怯だぞ!」
「敵相手に遠慮する必要があるとでも?」
「騎士学校じゃ相手が準備できてない時は攻撃しちゃいけないんだ! お前も騎士ならルールくらいちゃんと守れ!」
「ここは学校ではない。実際の戦場だ。遊学生の身分を持ち込む方が問題だと思うが」
「う、うるさい! とにかくもうちょっと手加減しろよ! これじゃ一方的過ぎるだろ!」
「勝負を挑んできたのは貴様らの方だ。それで手心を乞うなど、厚顔にも程がある」
「そうだけど……こんな強いなんて思わなかったし……」
「騎士に二言は不要。
場を制するようにオリヴィエが声を張り上げ、カーディナルに向かって剣で弧を描く。カーディナルは立ち上がって攻撃を避け、少し逡巡した後で斬りかかってきた。話しても無駄だと悟ったようだ。
次いでグラハムとノヴァリスも体勢を立て直して三人がかりで斬りかかってくる。上下左右から攻撃が繰り出されたがオリヴィエはそれらを全て躱し、攻撃が止んだ隙を突いて倍以上の攻撃を返した。
ひゅん。かん。きん。間断なく響く金属音は全てオリヴィエの刃によって生じたもので、三銃士はそのたびに鎧に手を当てたり、剣が弾き飛ばされないよう柄を握る手の力を強めたりした。
そうして戦闘を開始して早十五分。茨の三銃士は肩で息をしながらオリヴィエと向かい合っていた。
彼らの目算では、五分もあれば女騎士を倒せる予定だったのだが、実際には十五分経った今でも一度も攻撃を当てられていない。逆に相手の攻撃は
もし、あの攻撃が鎧の隙間に当たりでもしたら――。刃が肉を貫き、骨をも砕く光景を想像して三銃士は鎧の下で冷や汗を搔いた。
「かなり消耗しているようだな。ここで一度休憩するか?」オリヴィエが涼しい顔で尋ねる。
「な、何を……。我らは、まだ……」
「まだ戦える? たかだか十分程度の戦いで
「き……騎士学校の試合は五分なんだ……。こんな長丁場の戦いは初めてで……」
「その騎士学校とやらの訓練は相当手緩いようだな。実戦では数時間にわたって戦いを続けることも珍しくないが」
「そ、そうなのか……。騎士の道がかくも険しいとは……」
「騎士は単なる
「それはできん! 我らは何としても騎士になるのだ!」
「なぜそうまでして騎士にこだわる?」
「そ、それは……、格好いいから……」
「……結局憧憬に過ぎないということか。ならばその希望をここで打ち砕くまで」
軽くため息をついた後、右端にいたノヴァリスに向かって剣を
「……どうやら勝負あったようだな。やはり貴様らは私の敵ではなかったようだ」
倒れている三銃士に向かってオリヴィエが剣を突きつける。大道芸人めいた言動をしていても中身までもが道化とは限らない。だから
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