39〜さらば医務室!
作戦室では、先鋭の魔導士部隊を他国に派兵するとか、現在の防衛ラインに展開する魔導士師団の配置状況なども報告されていたが、私は終わりが近づくにつれ憂鬱になっていた。
採血の注射が怖いからだ。
そして、いよいよ近衛大将が会合の終わりを告げてしまい、憂鬱が加速してるので、坂倉さんの手を握って心を落ち着かせようとしていた矢先、
「医務室まで案内しますよ」
と第一王子が余計なことを言い出して、仕方なく彼の
いざとなれば逃げ出そうと、いや本当に逃げ出さないけど、そういう、いざというのを拠り所にしながら採血に挑もうとする心の準備さえも王子の言葉が台無しにしてしまったのだ。
まぁ自分で勝手にそう思っていただけで、職務に忠実な王子のせいにするとか、ごめんなさいでしかないのだけど…
「山本さんが英雄と同じ血液だといいですね、切り札が増える」
私たちを先導する彼が、注射の恐怖を
しかも、坂倉さんが本当の英雄の直系の子孫だとの思いが強くなってる今となっては、この嫌忌たる採血は無駄になってしまうのだ。
そんな足の重い私も、やがてアルコールの匂いがいかにも、そういう雰囲気を醸し出す医務室へと案内されると、壮年の男性が王子にお辞儀をして、私を椅子に座らせる。
「採血ですね、話は聞いてます、ではさっそく血を抜きましょうか」
そんな抜くとか言われると余計嫌な気になるが、坂倉さんが頭を撫でてくれて多少は落ち着きつつあったのに、看護師さんが私の袖を捲り腕に消毒用のアルコールを塗ると、途端に心臓が高鳴るのが分かる。
私は針が刺さるところを見れないので、顔を背けると、その先には丁度坂倉さんの腰があり、見上げると結構な膨らみが目に入り、その向こうには心配そうに私を見つめる超絶美人な顔があるのだった。
少しチクッとして、若干顔を
「あと二本ですので」
信じられないことに何本も血を取るらしい声がする。
検査だから少しだけかと思ったのだけど、ついでに触媒用にも取ってしまっているのだろうか。
やっぱり信じられない、人の血を何だと思っているのか。
そんな八つ当たりに近い感情を抑えようと、坂倉さんの胸を見て頭の中をそれだけで満たす状況になっていたら、腕から針が抜ける感覚がして、綿を力強く注射跡に押し付けられていた。
「はい、ご苦労様、終わりです、ここは暫く押さえておいてください」
そう言われたので、看護師さんが押さえているとこを私が代わりに押さえていると、向こうでは、違う看護師さんが小さな金属トレイに乗った赤い液体が入った細い管が三本ほど並んでいるのを奥の部屋に持っていくのが見えた。
私はちょっとフラフラになりながら立ち上がると、坂倉さんが支えてくれる。
それを見た医師が、
「気分が優れないようなら、少し休んでから移動した方がいいですよ?」
と言ってくれるも、私はこんなアルコールの匂いの場所は嫌なので、
「大丈夫です、ありがとうございます」
と言って医務室を
さらば医務室!
「注射嫌いだった?」
坂倉さんが心配そうに訊いてきてくれる。
それだけの彼女の優しさで注射の恐怖は中和されてしまい、これからの未来に明るくなれると思えてしまうのだった。
「だいっきらいです」
私はもっと彼女から優しさを引き出そうと、若干子供じみた答え方をするのだけど、
「もう大丈夫」
そう言われて、頭を彼女の肩に引き寄せられると、そのままその頭に顔を乗せてきてくれるのだった。
周りの人の視線がこちらを向いているのが分かる。
しかし、いつもならば、その視線の集中砲火は嫌悪でしかなかったものの、今は寧ろ心地のよい極上の視線たちなのである。
こんな非の打ちどころのない美人の寵愛を、一身に受ける優越感は本当についさっきまで注射に怯えていた自分を忘れさせてくれる妙薬なのだ。
通る人がやたら自分の後ろを見ているので、前を歩いていた王子は気になって振り返ると、そこには百合ビームを放つふたりがいたので、気を遣ってか、そのまま無言で私たちを部屋まで案内してくれた。
そして、部屋に着くと、そのドアの前でメイドさんが私たちを待っていたようで、
「山本様、面会の人がおいでですが、いかがなさいましょう?面会希望者の名は斉藤
「いいわけないだろ」
メイドさんが言い終わるかどうかの前に坂倉さんが即拒否の姿勢を見せてしまう。
あのぉ…私に訊いてるのだけど、まぁ彼女からしたら会わせたくないのは分かるけど、勝手に答えちゃいますか…
メイドさんはちょっとびっくりして、
「了解しました、では先方にそのように伝えます」
と私の顔を見つつお辞儀をしながら言うのだが、さすがに申し訳ないので、
「あ、一旦会って、事情を説明するので、それでお願いします」
そう坂倉さんの目を見て、私に逆らわないように圧をかけつつ、言うのだった。
そして、城門の近くの小部屋に案内された私たちだったが、そこで思わぬものを見てしまう。
何と斉藤さんと私の父親がそこにいたのだ。
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