36〜美人は閃光の速さで着替えちゃいました。

王城は標高が若干高いところにあるせいなのか、まだ冬にはなっていないというのに、朝は冷え込む。

私たちがいる部屋は暖房も効いていて、そこまで体感はないにせよ、窓の外は明らかに空気の冷たさが分かるように、屋根に薄っすらと霜が降りている。


「ふにゃあ…」

私は一旦起きて外をチラ見したものの、昨晩の興奮で寝付けなかったこともあり、隣で寝ている坂倉さんの温かい身体に抱きつきながら二度寝を決め込もうとしていた。


しかし思い起こせば、昨日刮目したその裸身は凄かった。


一緒に入ったお風呂でマジマジと凝視を決め込んだ私なのであったが、彼女は顔もさることながら、それ以外のどの部位に於いても溜め息をつくほどの美しさで、自分が裸を見られている恥ずかしさよりも、眼福に浸れる高揚感の方が勝ってしまうほど。


そんな、世界でも最高峰の女体を独り占めできる喜びを噛み締めながら布団の中で抱きついていると、向こうのドアでノックする音がする。


「山本様、坂倉様、朝食の用意がが出来ております、都合のいい時においでください」

ドアの向こうからする声に、坂倉さんは気づいて起きようとするが、私が張り付いているので起きられない。


「朝ごはんどうする?」

彼女は胸に顔をうずめている私に訊いてくる。

「お腹空きました?」

そう訊き返すと、

「まぁまぁ」

と言いながら、私のパジャマに手を入れてお腹をまさぐってきて、こそばゆいと笑う私に、

「山本もまぁまあ空いてそうだな」

などと、直に触りたかったのか、本当にお腹の空き具合を確かめたかったのか、よく分からないことをして、絡みついていた腕をほどいて起き上がるのだった。


タンスの引き出しを開けて、彼女は服を色々選びながらベッドに持ってきて、私を起こすと、いきなりパジャマを脱がし始める。


ああ、昨日のお風呂脱衣行為と同じで、今度は服を着せてくれようとしているのだな、と理解した私はそのまま身を任せていたのだが、パジャマの上を脱がすと、下着など付けていなかったのでいきなり自慢の乳首が露わになって、しばらく着替えをしている手が止まった。


私は多少寝ぼけながら、そんな坂倉さんを観察していると、上から、横から、斜め下からと私の申し訳程度の膨らみを色んな角度から堪能しているようで、可愛いなぁと思っていると、何か納得したのか満足したのか、再びタンスに戻って今度は下着を持ってきて付けてくれるのだった。


しかし目が醒めていくにつれ、羞恥心も徐々に湧き出していくのだが、その頃にはもうパンツも十分観察されて、すっかり着替えは終わっていた。


何か悔しいので、今度はこっちが彼女の着替えを凝視しようとするも、閃光の速さで着替えが終わっていて、身体のラインが分かるニットのワンピースを召したその姿が魅力的すぎて、自分の貧相な下着を堪能されたことなど、どうでもよくなってしまうのだった。


「こちらです」

私たちは着替えを済ませて部屋を出ると、待機していたメイドさんが、昨日と同じように食事会場まで案内してくれた。


しかし、場所は昨日と同じだけど、今度は長いテーブルはなく、小さめの円卓がずらりと並んでいて、もう食事をしている人もちらほら見られる。


「今、食事をお持ちしますので、暫くお待ちください」

席まで案内しくれたメイドさんはお辞儀をして奥に消えていく。

そうしたら、坂倉さんの端整な顔が途端に険しくなる。

第一王子が現れた合図である。


「おはよう、おふたりさん、昨晩はよく寝れましたか?」

後ろに世話係を従えて、相変わらずの微笑みで朝の挨拶をしてくる王子。

「おはようございます、何とか寝れました」

私はとりあえず、挨拶を交わすのだが、坂倉さんは無言で会場の方々ほうぼうを見ている。


「君たちに伝えたいことがあるんだ」

そう言いながら、彼は私たちと同じ卓に座り、

「昨日、近衛大将から君たちの城内での管理を委譲されたから、今後は私が対応していきますね」

「最悪」

王子の言葉の直後に坂倉さんがひとこと言っちゃうのだが、彼は気にせずに続けて、

「このあと、魔の民の状況の報告があるから、昨日のように作戦室にお…」

と話すが、

「私はお前らに管理などされないんだが」

途中で坂倉さんが割り込んで昨日と同じように、制約を受けるのを拒否する。


「あ、坂倉さんの管理は私がしてるので、どうぞ続けてください」

私はとりあえず彼女の口を手で塞ぎ、話の腰を折らせないようにしてみた。

「ありがとう、このあと作戦室に来てくれるかな、色々報告出来ることもあるから」

にこやかに話す王子の前では私に口を塞がれて不満そうな坂倉さんなのだが、実は塞いだ私の手をその舌でチロチロなめまくっていたりしていた。


そんなふうに舐められると、こそばゆいので自制を促すように、坂倉さんの顔を見ると、舌は引っ込み少し残念そうな表情に見えたが、丁度、食事が到着したので手を元に戻してフォークとナイフを持つのだった。


「そうそう、禁レシピの一部が分かったそうですよ」

王子にも私たちと同じ食事が出されていて、それを食べながら言うが、

「このあとに関から説明があると思うけど、触媒が厄介らしいですね」

若干なごやかな表情が消え失せたようになった王子は、ここで言って公になっても問題ないとして、その触媒が何なのか教えてくれた。


「英雄山本の血が触媒だそうです」

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