34〜不敬をものともせずやってくる王子さま!

これでもかと、豪勢な料理が次から次へと振る舞われるものの、年端もいかない少女が食べ切れる訳もなく、いつ終わるか分からない料理地獄に怯えながら少しづつ口にして、コース料理を殆ど残しながらも何とか完走するも、罪悪感でひたすら謝りながら、私たちは会食の場をあとにするのだった。


部屋を出ると、私たちが広いお城のどこにいるか分からず、さっき案内してくれたメイドさんも見当たらないので、自室にどう帰ればいいかと、少しとまどっていると、坂倉さんが歩き出すのでそれに付いていく。


「どこだっけ?」

キョロキョロして私に部屋の場所を訊く彼女、いや分かってないのに歩いてたんですか…でもそういうとこも可愛い、などど思っていたら、

「お困りですか?」

そう男性の声がした。

振り返ると、例の第一王子がにこやかにこちらを見ている。

その顔を見るなり、坂倉さんは早歩きでその場を去ろうとするので、私も慌ててそれに付いていく。


「そっちに行くと外に出ちゃいますよ?」

そんな警告にも構わず正門の方に向かって行くと、

「ちょっと待った!」

と後ろで大きな声がする、聞き覚えのある声だ。


「私の許可なく城の外に出るのはご遠慮願いたい」

私たちを管理下に置く近衛大将が、そう言いながら慌てて走って来るのだった。

「丁度よかった、部屋が分からないから案内よろしく」

坂倉さんが将校を案内係に任命するという、ちょっとした暴挙に私はびっくりして、あたふたしてると、王子は苦笑していて、

「大将は子守りになったのかな?」

と嫌味混じりに言えば、子守り疑惑を掛けられた彼は、

「今案内係を連れてくるから、しばし待たれよ」

そう言って、側にいる城の従者に部屋の場所を教えて、私たちを案内するように伝えている。


「いいよ私が案内するから」

第一王子は坂倉さんをエスコートしようと手を伸ばすが、彼女は空中で文字のようなものを切ると、そこから強い光が出て、その辺りにいた人たちはその眩しさに目を覆ってしまう。


その瞬間、私の手を引くと、坂倉さんは来た道を戻っていく。


「あいつウザい」

彼女の無類の美貌に心奪われたであろう、王子を指してそう言うが、私は、

「多分育ちがいいと、自分が嫌われるとか思わないのかな?」

と彼の精神構造を憶測で語ってみる。

「次来たら、きたねー顔で話しかけんなって言うか」

と相変わらずの言葉を発するが、

「部屋が分からん」

とキョロキョロし始めたので、近くの従者っぽい人を捕まえて、部屋の場所を訊こうとするも、事情を知らないので私たちの部屋など知っている訳もなく、途方に暮れていたら坂倉さんの顔があからさまに嫌そうな顔になる。


ああ、また王子様が来たのだなと、振り返ると、

「凄いね、何もないとこからあんな光出せるなんて」

そう言って、何故かめげない次期国王候補が立っているのだった。

きっと、絶世の美女を絶対逃すまいと思っているのだろう、不敬にも物ともせずに、坂倉さんを探してやって来る。


「凄いですよね、さすが私の婚約者フィアンセです!」

私は、彼女には将来を約束した人がいると分かるように言って、何とか諦めてもらおうと思ったのだが、

「やっぱりそうなんだ、おめでとう」

と何か知ってる素振りをされてしまう。


「お前、何だよ?」

坂倉さんはふたりの関係を誇示するように、私の腰に手を添えて引き寄せて言うと、

「私は王族のいにしえの伝説に興味あって、当然400年前の出来事にもね」

王子がにこやかに、決してよこしまな理由ではないと言いたげに説明をする。


「400年前の英雄が魔の民を討伐した時、君たちと同じ歳だったのは知ってるかな?」

彼がそう話出すと、

「お前はここで、その話を全部するつもりか?私たちは早く部屋に帰って風呂入って寝たいんだが」

坂倉さんは相手の叙事詩のような伝説話が長々と始まると思って、遮るのだった。


「だから私が案内するから、今度は逃げないで下さいね」

そうにこやかに言うと、会釈して歩き始める。

仕方ないので私たちもそのまま付いていくのだった。


しかし400年前の英雄が私たちと同じ歳の時にいくさをしていたというのは本家の末裔なのに初耳だった。

「その英雄山本はその家に伝わる調合レシピで、凄まじい魔法を使ったのだけど」

ふたりは王子の話しを黙って聞きながら、部屋に続く廊下を後ろに付いて歩くのだが、彼女の顔を見ると、そんな話聞かされてもという顔がありありと分かる表情だった。


「知ってるかな?あの禁レシピの魔法があれば世界征服も出来るって」

「知ってるよ、だから何だよ?」

王子の問いに即答する坂倉さん。

そう、あの禁レシピの本が封印された理由、それは、悪用されると世界征服すら出来るらしいと言われていたからなのだ。


ただ、その魔法がどういうものかは私は知らされていない。


「さすが魔法学校の演習施設を破壊した坂倉さん、やっぱり知ってたんですね」

そんな王子の言葉にも無反応で、私の腰に手を添えたまま歩く坂倉さんだが、彼が、

「そんな世界征服する程のレメディを使いこなせる魔力なんてあるんですかね?」

という言葉に、

「400年前は世界征服に使った訳じゃないだろ」

そう言うと、ようやく部屋の場所が分かったのか、早足で王子を追い抜いていく。


「私は貴女あなたの魔力の強さに惹かれたんですよ、坂倉莉里さん」

部屋に入ろうとドアを開ける彼女に、にこやかに笑う彼がそう言ってくるのだった。


しかし、無反応でそのままドアを閉めて私と一緒に部屋に入って、

「だから使わせたくないと言ってる」

彼女はそう言って私の顔を見てくるのだった。

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