31〜エッチなレシピ…????

その小箱は、両手から少しはみ出る程の大きさで、四本の脚で立つ作りに、上の蓋の部分は半球体になっており、周りは金属の頑丈そうな枠組みで補強してあった。

そして、蓋と下部の継ぎ目部分には鍵らしき窪みが丸く空いており、

「あの穴はレメディ入れるっぽいな」

そう坂倉さんが言う通り、魔術師は、そこにレメディを入れて、呪文を唱えると、鍵が開く仕組みになっていた。


蓋を開ければ、その中には赤い液体の入った小瓶が収まっている。


それが、城で厳重に保管されていた、魔王アリズの血である。


小瓶を取り出すと、その蓋を開け、魔導士三人が呪符を本の上に重ねて呪文を唱えて、その上から魔王の血を数滴垂らすと呪符の文字が光りだし、その光は本を包むくらい眩くなり、やがて本だけが光っている状態となった。


調合師が、その本を手に取って捲り出す。


「どうだ?読めそうか?」

関大将は本を読む白衣の人の後ろから覗きこんでそう訊くが、調合師は、

「読めます、が、何せ400年前だと言葉も色々変わっていますので、若干解読には時間を要します」


「分かった、では言語学者も召集して、解読に当たらせる」

そんなやりとりのあと、もうこの集まりも終わるのかなと、動悸もままならないので早く帰りたい私は、椅子に腰掛けた足をパタパタさせていると、

「では、佃中将は魔導士師団配置の準備に、本条軍曹はレメディ量産の管理に向かってくれ、魔導士師団とは緊密に連絡を取るのを忘れるな」

そう言う関大将の言葉に、佃、本条両名は会話しながら後ろに下がって行く。


そうすると、近衛大将が私たちの前まで来て、

「あなたたちは今から私の管理下に置かれます、いいですね?」

と言うが、戦争が現実味を帯びてる感じが強くなってくる様子が怖く、黙っていたら、

「めんどくさいから、今から敵叩きに行きたいのだけど」

と坂倉さんが言い出すので、

「現状、進行ルートも不明、索敵も不十分だ、坂倉がお留守の間に急襲されたら勅命に背いたことにもなる、肯定できない」

そう彼は答えるも、

「何でお前に管理されなきゃいけないんだよ」

とか、やたらイラついて反抗するので、

「わっ分かりました、私が坂倉さんを管理します、それでいいですよね?」

と私が提案すると、坂倉さんは若干ジト目でこちらを見て、

「山本が言うなら、まぁ仕方ないな」

と、何とかその場は収まるのであった。


「ご協力感謝する」

関大将は私ににこやかに言うと、

「それでは他言無用忘れずに、解散!」

そうしてようやく会議は終わったのであった。


終わったとはいえ、その場で話し込む人たちや、神妙な顔つきで部屋を出ていく者、当然急いでどこかへ向かう者もいる。

私たちはというと、

「では君たちの部屋に案内しよう」

という関大将の言葉に、そのあとを付いて行くのだった。


私は荘厳なお城の中を歩きながら、何で坂倉さんが反抗的だったのか訊くと、

「あの禁レシピは使って欲しくないんだよ、使われる前に終わらせたい」

と言うのだが、

「どんなレシピなんですか…?」

そんな問いに、

「ちょっとエッチ」

とかはぐらかす答えしか言ってくれない。


エッチなレシピ…????


やがて、私たちはひとつの部屋に案内されて、

「ここを自由に使っていいので、何かあれば外に待機させている者に言ってくれ」

そう言って関大将は敬礼して部屋から去っていった。


そうすると、坂倉さんは部屋の中の隅々をチェックし始めて、

「一応みんな揃ってるな、着替えだけ持って来てもらうか」

そう言うと、部屋の外にいるメイドっぽい女性に何か伝えていた。


私は坂倉さんとふたりで部屋を占有するという、結構喜ばしい事実にも関わらず、差し迫っている戦争への恐怖への不安を打ち消せないでいた。


しかも戦うのは坂倉さんになるはずだから、尚更だ。


やがて彼女が戻って来ると、ベッドに腰掛けたのち、そのまま上半身も倒して、

「今から敵が来るまで暇だな」

と、意外に余裕な言い方なので、私はその気概にあやかろうと、彼女の胸に顔をうずめて大きく息を吸うのだった。


そんな私の変態行為にも動じず頭を撫でてくれる坂倉さん、

「いつも頭撫でてくれますよね?どうしてなんです?」

と毎度思っていたので、質問してみると、

「好きなんだろ?いつも気持ちよさそうな表情してたぞ?」

と自分でも気づかないうちに、そんな表情してたのかと自分の顔を触ってしまう。


「絶対そんな顔してない」

そう否定すると、優しく撫でていた手が離れて、

「じゃもうしない」

という冷酷な言葉が返って来たので、思わず、

「ごめんなさい、してますしてます」

と自分でもどんな顔かは知らないのに、していると無理矢理認めて絶世の美女に頭撫でられる権利を掌握するのだった。


再び、優しく私の髪の毛を撫でてくれる手。

耳に聞こえるのは私を唯一愛してくれる綺麗な女性の心音。

そして目の前に聳え立つその彼女の胸。


この前の膝枕に負けず劣らずな至福の時が、一時期の不安を掻き消してくれそうに思える。


しかし、そんな今も魔の民は他の国を制圧しながら天乃国に向かってきているのだ。


「勝てるんですか…?」

ふと、そう訊くも、坂倉さんは、

「勝てなくても、私はお前だけは何があっても守り抜く」

と言ってくれる。

そんなキザなセリフも、不安な私には心強く感じるのだった。

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