30〜不細工、王城の防衛を任される。いえ無理です!

私たちは、長い机が何列も縦に並べられて、それと向い合うように大きなモニターの設置された部屋に案内されていた。

そのモニターの前には教壇があり、軍服を着た人物が、手元の資料を見ながら、全員が揃うのを待っているようだった。


周りを見ると、軍服の人、魔道士の格好や、調合師だろうか、白衣の人もいる。

中には知っている顔もいて、多分英雄の末裔だろう人も何人か呼ばれているようだった。


入り口のドアが閉まる。

「これで全員です」

ドア係がそう言うと、モニター前の軍服の人が頷き、

「それでは、今から説明を始めるので、聞くだけにするように」

メモを取るなという意味らしく、

「私は、近衛大将の関、王の護衛が主な任務だが、今回は国土防衛の指揮を任命された」

そう自己紹介をする関大将は続けて、

「こういう集まりが初めての人もいるだろうが、今から説明するものは一切外部への漏洩は厳禁だ、だから何も残すことは許可しない」

記憶が悪い私にはちょっと大変な要望を告げるのだった。


「まずは敵の状況から」

そう言うと衛生写真だろうか、上空から写した写真がモニターに映し出される。


「ここは数日前のログロードだ」

ログロードとは、魔の民の国、アリズランドと国境を接する国のひとつで、我が天乃国と並び魔法大国と称される列強国である。

その衛生写真には、森や都市、街がしっかり写っていて、文明国らしい佇まいが見て取れる。


「そして、これが昨日のログロードだ」

そう言って写された写真に、会場の人たちがどよめく。


さっきまで映っていた都市や街がなくなっていたからだ。


「言うまでもなく、魔の民の軍事進行の結果であると断定されている」

400年前も数日で大国が滅ぼされたと言われいるが、正にそれの再来のようだった。


「我々が分析した結果、敵は国境付近に展開していたログロード軍を殲滅したあとに都市部を破壊して、現在も進軍中であると思われる」

そう言うと、誰かが手を挙げているのを見て、それを指をさすと、手を挙げた人は、

「敵の戦力は?」

と訊いてきた。


「まだ分析中であるが、あれだけの都市を一晩で破壊出来るので、最低数千人、最高でも10万弱と思われる」

関大将がそう答えると、さらに騒めきが大きくなる。

中には、

「本当なのか?」

と大声で訊く者もいて、兵力の数が結構ヤバいことなっているらしい。

会場がざわめけばざわめく程、私の心臓の鼓動が早くなる。


「報道もあまりされていないと思うが、通信インフラを全て遮断されて、現地の情報が全く入ってこない状況と言えるので、今、第11旅団の斥候部隊を現地に向かわしている」

そう説明をしているが、緊張もあってか私は頭に入らず、よく分かってないのだけど、坂倉さんに、

「どうです?敵強そうですか?」

などと小学生が訊くよう質問をしてしまうも、

「結構強め」

という回答に、どう理解すればいいか分からず、動悸も収まる気配はない。


「今後予想される展開として、南下ルートと、東進行ルートが挙げられる」

モニターには地図に矢印を書き込んだものが写し出され、

「南下ルートは400年前と同様、世界の国々を接収しながら進軍すると推測されるルート」

「東進軍は、我が国を目標としたルートだ」

その説明に、魔導士のひとりが手を挙げ、

「最短だとどれくらいので到達しそうで?」

と訊くと、

「移動手段にもよるが、もし車両を使用しているのなら、一ヶ月以内、最速で一週間程で我が国の対岸沿岸部には到達する計算だ」

一週間…つい数日前は戦争など考えることなどなかったのに、確実にそれは迫って来ている。


「魔導士師団は全ての戦力を一週間以内に防衛ラインに展開する、調合師もレメディの生産を増産態勢に今すぐ入るよう指示が出る」

その言葉に、再び魔導士が手を挙げ、

「王都の防衛はどこが?」

と質問すると、

「そこの山本、坂倉両名に委ねる」

との答えに、どよめきが沸き起こって、当然全員からステルススキルなど通用せずに、視線を浴びてしまう。


いや、私だって初耳だし、戦争なんて無理です…


傍聴側にいた軍服の人が、

「誰の考案だ、無謀すぎるだろう?」

と勝手に大声で発言するが、はい、私もそう思います…

「王の勅命だ」

しかし、そのひと言で会場は静まり返ってしまう。


私の心臓はかなりヤバくなっている。

城に着いた時はまだ多少楽観的であったが、一週間後に迫るそれと、私たちが最終防衛ラインと言われれば、まだ14年しか生きていない少女に正常でいろと言う方がおかしい。


「山本」

関大将はいきなり私の名を呼ぶ。

緊張もあってか何故か坂倉さんの顔を見ると、その美しい顔が優しく見返してくれたので、私の心は若干正常に機能し始めて、

「はい、私が山本です」

と謎の答え方をしてしまう。

全然正常じゃないですね…


「その本をこちらに」

そう言って、机の上に置いておいた、禁レシピの本を指差している。


「あ、はい、どうぞ」

慌てて、その本を持って行くと、次に

「谷、松林、庄司、こちらに」

そう言って、私以外の英雄の末裔も呼ばれていた。

「封印を解く魔導士も、こちらに」

いよいよ、禁レシピの本の封印が解かれる。

魔導士たち三人が前に出て来て、英雄の末裔たちから、何か札を受け取っている。


机に戻ってきた私は、

「封印は各末裔の家に分散させてたのかな?」

そう坂倉さんに訊くと、

「あの札は呪符魔法の呪符で、三枚一組で発動する魔法構文が書いてある、きっと封印を解く触媒を有効化させるのに使うんだろう、封印を強固にするには分散するのは理に適ってるな」

さすが全ての魔法に精通している坂倉さん、ちょっと詳しく教えてくれました。


「瀬戸、触媒をここに」

そして、いよいよ封印を解くための触媒、魔王アリズの血が出てくる。

それは、多分冷凍してあったのであろう、少し霜が薄っすら付着していて、部屋の気温に反応して怪しく湯烟が立ち込めていた。

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