29〜王様登場!どきどきは止まらない!
天乃国は島国ということもあり、他国からの侵略も受けなかっため、その国を治める王族は建国以来、一度も
しかし、領土の小ささが災いしての資源の乏しさは、
やがてそれは国の輸出産業までに発展して、今ではそのレメディの輸出だけで、莫大な利益を生み出し、一気に過去の貧しさを解消して、豊かな国へ変貌を遂げていたのだった。
そんな莫大な富を生むレメディなので、各国も
そういった、世界の魔術事情にも影響力を持ち、過去の魔王アリズを討伐した功績、そして世界でも最古の王族の家系を維持している国家とあって、その元首たる王はどこの国家元首からも最大の儀礼をもって迎入れられる立場にあった。
当然、我が国民も国王には絶大の敬意を払っている。
そんな王が住む居城の前に、私たちはいるのだけど、相変わらず車の中で手続きの順番待ち状態であった。
さっきまで泣いていた坂倉さんは落ち着いてきた様子で、何かを噛み締めるように目を
「大丈夫?」
と訊くと、少し気丈に見せるためか、優しい笑顔を作って、
「山本がいれば大丈夫」
と私の手をちょっと強く握ってくる。
こんな彼女は初めて見る。
もしかしたら、実は今から起こるであろう有事に、さすがの坂倉さんもストレスを抱えて精神的に弱くなっているのではと思い始めて、私も怖いのだけど勇気付けられるのならと、こちらも手を強く握り返す。
そうしていると、何やら城の方が騒がしい。
何者かが、早足でこちらに歩いて来るのだが、それを制止しようとする声や、その者の前に回り込んで説得を試みているような人間が複数いたりと、周りが一切と手を触れずに、力尽くで止めようとしないのを見ると、どうやら身分の高い人のようである。
私は、その人の顔を見て、テレビやお札の肖像画で見た記憶があるなと思うが、すぐには誰だか思い出せないでした。
しかし、その人が通用門から外に出て来た瞬間、周りの空気が一変する。
高そうな車で来ていた、いかにも貴族や、要人、軍人、その全ての者が一斉に跪いたのだ。
その瞬間、私はその早足で来た人が国王であるのを思い出した。
そんな張り詰めた空気の中、国王は、こちらに静かに歩み寄ってきて、私たちのリムジンのドアを開けようとする。
そこに透かさず、従者が代わりにドアを開けたので、とりあえず私たちは車から降りるのだった。
しかし、いきなり国王に謁見状態になった私は、どうしていいか分からず、とりあえず跪けばいいのかな?と、足を曲げようとした瞬間、国王の方がこちらに跪いてきた。
世界のあらゆる国家元首が崇敬をいとまない、天乃国の王が、私の前で跪いている。
当然周りは騒然とし、これは英雄の血筋が王族のそれの上としているからなの?などと思ってはみたものの、私自身もどうすればいいかわからずに戸惑っていたら、王は立ち上がり、
「ようこそ、おいで下さいました、坂倉莉里様、山本優羽様」
そう言って、国王自ら城の中へと招き入れるのだった。
しかし落ち着かない。
私たちは国王の後ろを付いて歩くのだが、その更に後ろから、王の側近や従者がゾロゾロと付いてくる。
途中、例の軍服のおじいちゃんが、通路の脇で待機していたのだけど、王に敬礼するその顔はかなり険しさが増しているようだった。
しかし、こんな格調高い集まりの中に、お子ちゃまファッションの私と、坂倉さんのカジュアルな装いが果てしなく浮いていて、軍服おじいちゃんじゃなくても、
やがて私たちは、謁見の間のようなところに来たが、
「坂倉様、こちらに」
と彼女だけ側近に呼ばれて、王とふたりで入っていった。
「山本様はこちらでお待ちください」
そう言われたので、禁レシピの本を胸に抱えたまま部屋の前で側近たちと佇むことになる。
いや、この英雄の末裔とこの本が必要だから呼んだんでしょ?
何で坂倉さんだけ部屋で王とふたりっきりなの?もしかして、さっき跪いたのは坂倉さんにだったの?
意味が分からないので、色々考えてみるも、坂倉さんが凄いから王と直に謁見を許されたってことくらいしか思いつかない。
いっそ考えを飛躍させて、実は坂倉さんは正当な英雄の末裔で、私は敵の目を欺くために偽末裔をして知らずに暮らしてきたのかもと。
映画の結末みたいなどんでん返し的考えに至ったのだけど、でもそれが一番しっくり来るのも事実ではあった。
国家元首ほどの身分の人物に奉迎されたり、この禁レシピ本内容も知ってたし、そしてあり得ないくらいの魔力。
確かに私なんかより英雄の末裔として相応しい能力ではないのだろうか。
そんなふうに、あれこれ考えていると、やがて坂倉さんが部屋か出てきた。
すると案内係みたいな人が、
「こちらにどうぞ」
と誘導するので、私たちは付いていく。
「坂倉さん、国王を知っていたの?」
私は、彼女が真の英雄の末裔説なのかを検証しようと、事実確認から入ってみる。
「いや知らん」
そう答えられて、あっさり検証は終わってしまったのである。
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