28〜彼女はインチキビフォーアフター写真なのか?

外には荘厳なお城がそびえ立つ。

周りの高そうな車が並ぶ広場では、城と面識のある人から順番にエントランス横の通用門から城内へと入っていく。


面識がない人は、最終的に写真などで身分照会をして、ようやく入城を許可されているようだった。


私は、大きなリムジンの中で、坂倉さんとふたりっきりで何も話さずに、さっきまでいた本が大量にあった彼女の部屋での出来事を思い返していた。


喜多さんが同棲祝いにと教えてくれた言葉のあと、坂倉さんが、私にいかに接近してきたか、そしてどうしてあんな辛辣な態度だったかを聞いていたのだった。


「それから、山本が魔法学校入るからって、莉里もそこの試験受ける言うから、私たちも、めっちゃ勉強したんだぜ?」

喜多さんはそう言って、参考書を本の棚から取り出して、坂倉さんの勉強をした跡を開いて見せる。


「そんで、調合士クラスに入って、やっと莉里は山本に話し掛けるんだけど、まぁあの性格だからな〜」

と少し笑いを堪えるように語り、

「いや、実際あいつ私たち気の知れたのとしか喋ってなかったし、好きな人にどう喋りかけていいか分かんなくてさ」

思い返せば、まぁ、なんでそんな無愛想に話しかけくるのかと思ってはいたけど、そういう経緯いきさつがあったのか…


「そんで、あの態度のまんま話掛けては、山本に嫌われたんじゃないかって落ち込んで、最初はまぁ一応私たちも慰めたり、応援してたんだけど」

友達みんなが、あの坂倉さんを慰めている状況を想像すると、ちょっとシュールな感じもしたのだけど、でも坂倉さんは彼女なりに苦労して頑張ってたんだなと、ちょっと切なくなってしまう。


「いい加減、進歩ないから、段々と莉里が落ち込むたびに、もうこっちも笑うしかなくて、茶化した方がお互い楽だったまである」

私は、化粧室でブスと言われた時に、そのあとに聞こえた笑い声が、自分の鈍臭さを馬鹿にして笑われているのかと思っていたのだけど、もしかして、それも友達が坂倉さんを笑っていたのだろうか?


「あの化粧室のあとの笑い声も?」

「化粧室?」

「ほら、戦勝記念の次の日の、トイレで私にブスって言ってきたの」

そう説明すると、喜多さんは思い出したのか、

「ああ!あの時か〜そうだよ、何で好きな女にブス言うんだよって、何で素直にならないのってツッコミ入れて笑ってたな!」


薄々は勘づいてはいたのだけど、彼女たちに悪意でからかわれていると思っていたのは、全て私の思い込みだった。

まぁ勘違いしても仕方ないとはいえ、こうまで印象が正反対なるのも珍しいんじゃないかな…


「山本、もしかしてあの汚いジジイを消し炭にして欲しかったのか?」

本当に、この美女ひとの悪い言葉使いは昔から変わらないのに、今ではこちらに気を遣ってるのが凄く分かってしまうのが不思議だ。

私が色々思い出していたら黙ってしまったのを、先のおじいちゃんに腹を立ててのことかと思って心配して訊いてきたみたいだ。


「いえ、いえ、さっき喜多さんにアルバム見せてもらって、坂倉さんが今と印象違ってたなって思って」

一応、それとなく理由を述べてみたが、彼女はちょっと嬉しそうにして、

「山本前と山本後じゃ全然違うよな」

とかインチキな痩せ薬のビフォーアフター写真みたいな言い回しされてしまう。


最愛の彼女ひとを失って笑顔が消えた坂倉さんが、私で再び笑顔を取り戻したのなら、山本薬の効能は絶大だなと、誇らしくも思うのだけど、ただ、やはりひとつだけ、どうしても気に掛かるのだ。


私は前の彼女の代替品ジェネリックなのではないかと。


最愛の彼女ひとを失った心の穴を、私で無理矢理埋めているのではないかと。


私を最初に見た時に、彼女が号泣したという理由が訊けないので、どうしても、もやもやした気持ちが払拭出来ない。

そう思慮を巡らせて黙っていたら、坂倉さんは何かを察したのか、

「実は最初に山本見た時」

唐突にそう言うので、ドキッとする。

「私の願いが通じたと思ったから」

「願い?」

「そう、山本が山本だったから、もうヤバかった」

私は坂倉さんの言ってる意味が分からなかった。

こういうボカした言い回しは、何か触れられたくないことがあるのだろうけど、それでは私の気持ちが落ち着かない。


なので、もう思い切って質問することにした。

「坂倉さんって今は人生で何番目に幸せなんですか?」

「一番」

間髪入れずに回答されて若干戸惑うも、真意が測りかねるので、彼女の瞳をじぃいいいいと見てみる。

目を逸らしたら、それは偽りの言葉だろうからだ。


そんな私が見つめる先の大きなキラキラした瞳は、もう満天の星空を見上げた時のような美しさで、引き込まれそうな程だった。

目を逸らすどころか、私の心を捉えて離さない、そんな瞳に負けてしまい、


「好き」


と意味不明に愛を口走るのだった。

そうすると、坂倉さんはその瞳に涙が滲んで来て、やがては真珠のような綺麗な大粒の涙を流しながら、私に抱きつくと、

「私もだ絶対離さない」

と震える唇で言ってくれるのだった。

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