26〜今日から一緒に住むふたりなのだ。
今日の私は、トレーナー生地のパーカーの中に、ハイネックのシャツ、下はチノパンという、特にオシャレでも何でもない格好なのだけど、パーカーはフロントに可愛らしい猫の絵が描いてあるというお子ちゃま仕様、そう私の身長だと子供用服が着れてしまうのだ。
そんな低身長な子供服を着た女子をカッコ美しい女性が手を繋いで歩いてるもんだから、姉妹か母娘か誘拐犯かって感じにしか見えない。
だが、これでも一応同じ歳で、将来を約束した恋人同士なのだ。
今日から一緒に住むふたりなのだ。
そうやって、私はにこやか笑顔でしばらく歩いていると、遠くで女子数人が、私たちに手を振っているのが見える。
坂倉さんのアパート前で待っていた友達だ。
「いよいよ同居ですか〜ほんと仲いいな〜おふたりさん!」
アパート前に着いた私たちに、喜多さんはそう言って茶化してくるも、
「すまんな、手伝わせて」
「ありがとうございます、手伝ってくれて」
とふたりでみんなにお礼を伝える。
「移動手段徒歩だけだけど、大丈夫なん?」
友達はそう訊いてくるも、確かに引越しだったら、そうなるのだろうけど、
「いや、服とか学校の道具を移動するだけだから問題ない」
と坂倉さんが答えて、部屋の鍵を開ける。
「お邪魔しまーす」
そう言って喜多さんが一番に部屋に入っていくと、私たちも続けて上がって行く。
「とりあえず、服とかバッグに詰めて行くから待ってて」
そう言って坂倉さんは寝室に入って行くと、
「じゃ私はヤバそうな食品を片付けておくわ〜!」
と、友達も各々部屋に分かれて入って行く。
私は一回だけしか来たことがないので、勝手が分からず、仕方ないので坂倉さんと同じ部屋にしようとドアを開けたら、丁度下着をバッグに入れているところだったので、
「あっあっごめんなさい」
と言って即閉めてしまった。
部屋の中から、別にいいよと聞こえた気もしたけど、とりあえずこれ以上エロい気持ちにはなりたくないので、別の部屋に向かう。
寝室の隣の部屋は本がたくさんあり、書斎のような感じで、喜多さんが何か必要なものがないか物色している最中のようだった。
「おぅ山本〜これ見れや」
そう言って坂倉さんのであろう、アルバムみたいに本に写真がたくさん貼ってあるのを見せられて、
「みんな写ってますね、いつのですか?」
と訊いたら、
「いつだったかな〜結構前だったはず」
そう言われたので、マジマジと見ると、坂倉さんは相変わらず綺麗なのだけど、今の雰囲気とちょっと違う。
「なんか坂倉さん、今と違いますね…?」
そう言うと、喜多さんもその写真を見て、
「あーその頃は山本の存在知らなかったしなー」
と言われてしまう。
「私のいるいないで、坂倉さんは変わったんです?」
そのアルバムをペラペラめくりながら訊くと、
「全然違う、笑顔がなかったし」
そう答えてくれるのだが、いや、今でも坂倉さんはそんなに笑わないのに、一切笑わなかったってことですか?笑顔なしで生きてたんですか?
結局写真を全部、特に坂倉さんの部分は舐め回すように見たのだけど、写っていたのは、いつもの友達だけだった。
前の彼女が写っていたら見てみたいなと思ったのだけど、それらしい人は写っていなかったので、
「写ってる人、今の友達だけなんですね」
それとなく話題を振って、坂倉さんの前の彼女の情報に探りを入れようと試みる私。
「まぁね〜私たちは親より付き合い長い腐れ縁みたいなもんだよ」
親より長いって…幼馴染だったのだろうか?最近はひとり暮らしで親より長くなった感じ?
「坂倉さん、昔からモテたんじゃないです?この頃もずっと綺麗だし」
いいぞ私、話題を前の彼女の方に向けているぞ。
「あの性格だぞ〜?一切誰とも付き合ってなかったって!だから山本のこと聞かされたときは世界が滅ぶかってくらいビックリだったし!」
喜多さんはそう教えてくれたのだけど、あれ、坂倉さんと言ってることが違うんだけど…?
なので、恐る恐る、前カノのことを訊くのだが、知らないと言われてしまうだけだった。
「まぁ私だって莉里のこと全部知ってる訳じゃないしな〜でも、あいつがそう言ったのなら、いたんだろうな」
確かに、付き合いが長いとはいえ、お互い詮索されたくないこともあっただろうから、喜多さんのそういう言葉も分かる。
そう考えると、最愛の人を失った坂倉さんが笑顔も失って、アルバムのような今とは違う雰囲気で日々を過ごしてきたのかと思うと、凄く胸が締め付けられて、切なくて仕方ない。
「気になるのか?前カノが〜?」
そう言ってニヤニヤしながら訊いてくる喜多さんだけど、当然その人が夭逝したことは伝えていない訳で、だから彼女がこういう態度になっても仕方ないのだけど、私はそうにはなれずに真剣な顔で、
「多分、その人と別れたから、笑顔がなくなったんじゃないかなって思うんです…」
そう言うと、喜多さんも空気を察してか、
「マジか…そうだったのなら、山本の時のアレも納得いくな」
そう真面目な顔で思わせぶりなことを言ってきた。
「私のアレ?」
当然気になるので訊き返すも、喜多さんは、
「いやこれ言ったらマジで莉里に殺される!」
そう言ってアレが何かを教えるのを拒むが、自分のことが前の彼女と関係してるならと、
「絶対あの人に言わないから、教えて」
と真剣な顔で懇願すると、困惑した顔をしつつも、
「まぁ、同棲記念ってことで教えてやるよ、絶対漏らすなよ?」
そう言って顔を私の耳元に近づけてきた。
私はその言葉を聞いた瞬間、持っていたアルバムを落としてしまう。
確かに喜多さんは、こう言ったのだ。
「莉里が初めて山本を見た時、号泣してた」
と。
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