24〜美女を部屋に連れ込むことに成功してしまう。

寒空が唸りを上げて冷たい風を吹き荒び、下校する生徒たちは、強い風に負けないように、身体を少し風が吹く方向に傾けてる人もいる。


貴族の子息は、豪華なリムジンや高そうな車で迎えに来てもらっている者もいれば、風が止むのを校舎の入り口で待つように佇む生徒もちらほらいた。


私と友達は、そんな校舎の玄関奥、下駄箱前で坂倉さんを待っているのだけど、当然、初めてのチュー披露事件は校内には広まっていて、私がそこにいるのを見つけると、顔の真ん中辺りをジロジロ見て、通り過ぎていく生徒が少なくなかった。


「おせーなー莉里…実習の事故なんだからそんな呼び出すほどでもないだろうに」

そう言って喜多さんは、なかなか来ない坂倉さんに何かあったのかと若干心配そうに言っている。


「まぁ…あの魔法学校が強固と誇る魔法演習施設をその実習でぶっ壊したからね…もしかしたら軍にスカウトされてたりかもよ?」

もうひとりの友達は、そう言って推測するも、確かにその凄まじい威力ゆえに学校としても他の生徒と同じ扱いなど出来ないのは確かだ。


そうしていると、遠くの廊下に明らかに他とは違うオーラを纏った女子生徒が歩いてくる。

本当に周りの女子が可哀想なくらいに全ての美という美を一身に集め切ったような坂倉さんだ。


何度見ても、見る度に惚れ惚れする美しさに、私はそんな彼女の唇をさっきみんなの前で奪ったのが、ちょっと信じられない気にもなっていた。


「演習施設弁償しろって言われたんか?」

友達はそう歩いて来た坂倉さんに訊くと、

「いや?今後は実践演習は免除で、魔法防衛師団に飛び級で入隊を打診されたけど、断った」

と友達が言ってた軍へ勧誘があったことを告げると、

「うわーやっぱそうなるよな、あれでも手抜きなんだし」

そんな会話をしながら外に出ようとするも、風が凄いので、

「今日は香林坊無理だな」

閉じた傘が風で開きそうなのを抑えながら、そう坂倉さんは呟いた。


「じゃ、今日は山本の家に送って解散かな〜?」

と喜多さんが言う。


しかし私はその時、思い出していた。

父親の伝言を。


同棲の依頼を…!


今朝言おうと思ってたけど、妙な流れになって言えなかったから、今度は解散時に坂倉さんだけ呼び止めて、お願いしないといけない。


私が同棲同棲と心の中で忘れないように言い聞かせている中、強風をものともせず、友達はその風で色々遊びながら歩いていると、

「先生が言ってたけど、国王が精鋭部隊を編成してるんだって」

多分、軍の勧誘時に色々教えられたのだろう坂倉さんがそう言い出す。

「兵士は十分足りてるんだろ?学徒動員はないよね?」

と友達は若干不安なのか、訊いている。


「今の魔の民がどれくらいの兵力を持ってるのか全く分からんし400年前以上だったら総力戦かもな」

そんな怖いことをいう坂倉さんであるが、友達は、

「まぁ莉里ひとりで全部やっつけちゃうんだろけどね!」

とか、えらい楽観的に彼女を持ち上げてしまうのだったが、その時の突風で私が飛ばされそうになった時、握っていた私の手を彼女は若干強く握り直して防いでくれて、そのまま身体まで引き寄せて風に飛ばされないようにして歩いてくれる。


力強く強風から守ってくれる姿を見て、確かに彼女なら私だけじゃなく、天乃国も、いや人類すらも守ってくれそうだな、と妙に納得してしまうのであった。


やがて強風の中、何とか私の家に辿りついて、お別れをしようとする時、私は坂倉さんを呼び止めて、

「ちょっと話があるんだけど…」

と、恥ずかしそうな様子で言うと、友達は、

「お幸せにー!」

と言って私たちをふたりっきにするように帰っていった。


「何?」

と素っ気なく話の内容を訊かれて、

「あ、まずは演習場の時はごめんなさい」

そう謝ると、

「いや、嫌われてないならそれでいいから」

と喜多さんのいう通り、特に怒ってはいない様子。


しかし風も強いし、お互い傘がバタバタと風に飛ばされてそうだったので、申し訳ないからと自分の部屋で話そうと言うことにして、家の中に招き入れるのだった。


綺麗に片付けてない部屋を、とりあえず恥ずかしくない程度にして、坂倉さんを入れると、

「そして、いきなりキスしたこともごめんなさい」

ベッドに並んで腰掛けると、私は更に謝るのだった。

謝ること多いな私…

「いやこっちも嬉しかったけど?」

まぁがっつりホールドしてきたから、嫌ではないのは分かってたけど、一応謝る必要はあったかなと。


「私も山本に嫌われたと思って、結構凹んでたから、キスは大歓迎だったし」

そう言う坂倉さんが、キスが妙に上手というか慣れてたのが、ちょっと気になって、

「キス…結構慣れてませんでした?」

とか嫌なことを訊いてしまう。

「ダメ?」

若干伏目がちに彼女が言うから、

「別に責めたりする意味じゃなくて…でも私と同じ歳の坂倉さんがキス慣れてるのが、ちょっと不思議で」

私がそう焦りながら言うと、

「まぁお前がふたり目の彼女だし」

と以前彼女がいたので、チューしまくったと示唆するような発言をしてきた。


もしかしたら、と危惧していたことを言われるも、まぁ私と知り合う前のことだから仕方がない、としても、やっぱりちょっと気が気じゃない。


「最初の彼女はどんなだったんです?」

ああ…ウザい質問と分かっているけど、どうしても気になって訊いてしまうと、

「山本と同じかな」

優しく私の頭を撫でながら坂倉さんは、そう答えてくれたのだが…


私と同じ…?

この人はこういう不細工で孤独な乳首の色自慢の女が好きなんです?


でも何で別れたんだろう?こんな極上の美女をわざわざ手放す人がいるのだろうか?

それとも坂倉さんが相手に愛想を尽かした?

滅多なことでは怒らない彼女が?


そう色々思索してると、

「黙ってるけど、前カノのことそんなに気になるのか?」

と図星を突かれて、思わず頷いてしまって、

「いや、何で別れたのかなって、私なら絶対別れないのにと思って…」

そんな私の疑問に彼女は一言、寂しそうに打ち明けてくれるのだった。


「もうこの世にはいないんだよ」

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