22〜いやいやいやよくないよくない!
その場所は強固な岩盤をくり抜き、太い鉄骨で幾重にも補強され、私たちのいる待機室も防弾ガラスと分厚い鉄骨が衝撃を伝えないような構造になっている。
どんな魔法演習でも耐えられるはずの待機室の天井から、先の衝撃で塵か小石みたいなものが落ちて来て、その威力の凄まじさを物語っていた。
当然、私たちのクラスは騒然としていた。
ほんの数ミリにも満たない小さなレメディが、あの爆発を生むとは思えないからだ。
教師は爆発地点でレメディの残骸などを探すが、当然発見出来る訳もなく、ただ黒く焼きついた演習場の床を呆然と見ているだけだった。
「莉里…本気出したらマジ学校吹っ飛ぶかもだぞ?」
小声で友達の喜多さんは坂倉さんの耳元で囁いている。
「いいんじゃね?」
とか彼女は言うけど、いやいやいやよくないよくない、と私は坂倉さんの手を握って顔を横に振るのだった。
「と言うことだ、よかったな斉藤」
と先の斉藤さんとの格の違いを見せつける宣言は、私の懇願により取り消され、そんな報告を受けたイケメンは意味が分からないようで、不思議そうな顔をしている。
「防護服を着用するので、戻って着替えてください」
教師は先の爆発を見て万が一のことを考えたのか、次からはあの重い防護服を着て実践することとなる。
防護服自体は、その演習場に備わってはいるものの、中に着るインナーがないため各自、教室に戻って着用しないといけないので、みんなぞろぞろと一階へと戻って行った。
「すまないな〜みんな〜私が本気出しちゃったばっかりに」
ちょっとドヤ顔で防護服着用という面倒くさい流れになったことを謝る喜多さんだけど、他の生徒が普通で、坂倉さん以下友達がちょっとおかしいんですよね?
どうなってるんだろう、この人たち…
更衣室で服を着替え始める女子生徒たち。
坂倉さんなんかは、そのままさっさと体操服を脱いで下着姿になって、そくささと白い耐火スーツを着てしまう。
私はと言えば恥ずかしいので、制服のスカートを体操服の上に履いて、そして体操服のズボンを脱いだあとにスーツの足の部分を履いたら、上まで着てその中で体操服の上を器用に脱いで装着完了というプロセスを経て着替えている。
「器用だな」
さっさと着替えが終わった坂倉さんは、時間が余っていたのか、私の芸術的な着替えを観察してたらしい。
「莉里は山本のパンツ見たかったのにな!」
喜多さんはそう言って、パンツ丸出しで着替えてる途中で言うと、
「え?それでガン見してた?」
と訊いたら、
「まぁいつでも見れるしな」
などと、否定しないというか、むしろ肯定寄りな発言をして私の手を引き更衣室を後にするのだった。
やがて演習場に着くと、もう他の生徒が実践していたのだけど、やっぱり相変わらず可愛い威力で、防護服など全く必要ない様子だった。
「次は斉藤」
イケメンが呼ばれると、重厚な防護服が扉の方に歩いていって、顔が見えないと誰だか分からないなぁ、と見ていたら、結構な爆発を発生させ、女子たちは嬉々として騒いでいた。
「坂倉さん、対抗意識燃やしちゃダ…」
そう言い掛けて彼女のいる方を振り返ると、次は彼女の番なので、その美しい顔を無惨にも覆う防護服がそこにいた。
声が届きそうもないので、一生懸命本気を出しちゃダメというように、手のひらを小刻みに横に振ったジェスチャーをしていたのだが、防護服を脱いだ斉藤さんが、
「どうだった?」
などと自身の魔力を誇示できたか訊いてきて、丁度彼女が防護扉を閉じる時にそれを目撃したものだから、思わず、
「みんな外に逃げて!」
と叫んでしまった。
当然生徒たちは意味が分からず、坂倉さんの実践を見届けようとしているのだけど、私と友達は急いで出口付近まで退避すると、その瞬間、爆音と地鳴り、そして少し遅れて地震のように揺れ、防弾ガラスの窓も爆発の威力に耐えきれずに粉砕され、辺り一面にガラスの塊が散乱して、悲鳴と避難を促す怒号が飛び交うのだった。
出口付近にいた私たちでも、その衝撃は凄まじく、私は立っていられずに床に尻餅をついたまま唖然としていた。
「坂倉さん!?」
咄嗟に
「斉藤〜…何で余計なことを…」
もう自分の出番はないのに耐火スーツを着ていた喜多さんは、先のイケメンが私に話掛けたのが原因と察して彼のせいにするが、それでもこんな状態になるのなら、坂倉さんは冷静になるべきだと思った。
「みんな大丈夫?」
「誰か怪我してないか?」
そう言って教師や生徒同士が安全を確認するなか、耐火スーツのおかげか、誰ひとり大きな怪我はなく、一番の被害はその演習場だけだった。
そんな破壊された試験場の中にいた坂倉さんは、普通に歩いて待機室に戻ってくると、教師は生徒全員の安全を確認できたので、演習場の損害状況を確認しようと、奥に向かう。
と、驚愕の事態が目に飛び込んで来るのであった。
強固な岩盤は破壊され、その大きさが視認できないくらいに奥まで広がっている、巨大な穴がそこにあるのだった。
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