19〜封印の鍵を更に鍵で封印して更に…

禁レシピが書かれた本は、とても古くはあるが、綺麗に装飾が施された表紙が装丁された重厚な作りで、かつての英雄が記したと思われるレシピが大量に書かれていた。


しかし、その全ての文字は解読不可能な文字で書かれており、ある触媒で封印を解かないと読めない仕組みになっているのだった。


その触媒とは…魔王アリズの血である。


しかし400年前に英雄によって討伐された魔王の血などどうやって手に入れるというのか?


「魔王アリズがいない今じゃもう封印は解けないってこと?」

そんな疑問を父親に告げると、

「いや、魔王アリズの血は城に厳重に保管してある」

と、あっけなく晴らされるのであった。


「だから有事には、これを城に持っていって封印を解いて、そのレシピでレメディを作らないといけない」


魔の民が復活しつつあると言われる中、その禁断のレシピを使う日が来るのは現実になりつつある。


しかし、魔力も何もない、調合師としても落ちこぼれの私にそんな大役が務まるのか…しかも、魔の民相手に使わないといけない訳で。


「お前は本当に運がいいんだぞ、最強の魔力を持って、全ての魔法に精通する婚約者フィアンセがいるんだからな」

そう父親が言ったのを聞いて先の「娘を頼んだぞ」の意味を今、理解した気がした。

無能な私の仕事を、坂倉さんが代わりに請け負ってくれるように頼んだのだと。


いや、父娘両方無能だから、そんな大役を彼女に押し付ける結果になった訳だけど、ほんっーーーーと、ごめんなさいね坂倉さん…


「この本はこの金庫の中に仕舞ってある」

そう言って、父親は禁レシピ書かれた本を金庫に仕舞い、鍵を掛けた。


「鍵はここに仕舞っておく」

そう言って、王族が使うような荘厳な机の引き出しに入れると、そこにも鍵を掛け、

「更にこの鍵は…」

そんな厳重に厳重を重ねまくる父親を無表情で見ている私に、何かを感じたのか、

「優羽が持ってなさい」

そう言って私に手渡した。


多分、私のいい加減にしてという思いが伝わらなかったら、更に厳重を幾つも鍵でしまっていって意味が分からない状態になっていたであろうことは、想像に難くなく、父親も若干心配そうにしているのだった。


「一応合鍵もあるけど、落とすような真似だけはしないでくれよな?」

明らかに娘を信用していない口調で念を押されるので、頷いて、

「じゃ、行くね」

と言って、父親の部屋をあとにすると、一番奥の自室に戻って、鍵を机に仕舞い、ベッドに倒れ込むのだった。


本当に最近色んなことが起こりすぎて、ついていけてない。


電気も付けずに、将来起こるかも知れない、魔の民との戦争を不安と思いながら、ただぼんやりと天井を見ているしか出来なかった。


しかし、坂倉さんが羽織ってくれたコートを脱ぐ時に、あの美貌を極めた彼女が私と恋仲、いやそれ以上の将来を約束する仲になったこと、今日一日中ふたりっきりの時間を膝枕で、いや途中色々してたっぽいから時々なんだろうけど、ずっと過ごしたこと、などを思い出すと急に胸が高鳴って、彼女のコートを抱きしめてベッドの上でゴロゴロ転がりながら奇声を上げて喜ぶヤバい自分がそこにいた。


そんな中、部屋のドアをノックする音がして、急に我に帰るのだった。

ドアの向こうには、若干戸惑うような声でご飯の支度が出来たという母親の声がする。


外では、冬を告げる雷の音が鳴り響く。


部屋着に着替えて、下に降りていくと、食卓に料理が並べられていて、父親がご飯をよそっていた。


ここからは、居間のテレビも見えるのだが、その付けられたテレビでは、かなり切迫した雰囲気で、魔の民の復活を危ぶむニュースを繰り返し流していて、これから起こりうるであろう状況や、過去の討伐の記録を詳しく解説しているのだった。


「本当に戦争が起こるの?」

母親の心配そうな声がする。

「もう国王も精鋭部隊の編成を急がせているらしい」

ご飯を食べながら、父親がそれに答えているが、母親は食事をするのを忘れたようにテレビの解説に見入っているのだった。


そんなニュースだったが、更に緊迫した空気になり、アナウンサーがアリズランドの周辺国が、国境近くに魔道士部隊を配置したと告げる。

完全に臨戦体制に入ったようで、いつ戦争が起こってもおかしくない様相を呈していたのだった。


「私…いつお城に行けばいいの?」

有事の際には、禁レシピの本をお城に…と言われているけど、その有事は、どこからがそうなのかがイマイチ分からないので、一応訊いてみると、


「お城から迎えに来るから大丈夫」

そう言って答える父親だったが、思い出したように、

「彼女も一緒じゃないとまずいよな…」

と言い出し、

「優羽、明日にでも彼女と、しばらくここで暮らせないか訊いてくれないか?有事の際に彼女も一緒じゃないと、お前だけじゃ意味ないだろ?」

などと、英雄の末裔の存在意義を完全否定するような言い草で訊いてくるのだった。


いきなり同じ屋根の下で坂倉さんと暮らす…?


つい数日前までは、彼女に見下されて、からかわれて、バカにされていたと思っていた、あの容姿端麗で聡明で脚も細くて学内の男子が一発でその美貌に憧れるであろう坂倉さんと、いよいよ同棲!?


不細工で頭も悪く、乳首の色だけが取り柄の私が!?


などと、ぼーーーーーーと考えていたら、父親が、

「何で無視するの…」

と寂しそうに言うのを聞いて、我に返り、

「あ、ごめん、訊いとく、訊いとく」

と軽く返事をして食事を済ませるのだった。

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