17〜とうとう一晩を共に…と思ったら夕方でした。
鉛色の雲がどんよりと広がり、遠方で閃光が
そして、時間を置いて大地が響くような音と共に空気も冷たさを増していく。
いよいよ冬が近づいて来ている合図である。
私の上にいつの間にか毛布が掛けられていて、その暖かさと、頭を乗せている坂倉さんの太腿が至福の時間すぎて、ふと目覚めた時に、どれだけ寝ていたのか今の時刻を認識出来ない程の状態だった。
「今、何時ですか!?」
私は彼女の細くて長い脚の上で多少驚くように訊くと、
「そろそろ明け方の4時かな」
と、とんでもない時間を言われてしまった。
私は驚いて飛び起き、
「脚大丈夫ですか?痺れてないです?ご飯とか、トイレとか」
そう焦りまくって色々坂倉さんを心配すると、彼女は震えながら俯いてしまって、以前トイレで着替えてた時のリアクションと同じだと思い出した私は冷静に状況を確認してみた。
外は早朝のような静けさではなく、人が往来する音もして、坂倉さんの笑いを堪えるリアクションも相まって、
「もしかして夕方?」
と思うに至った。
「お前は、そういうとこ全然変わってないな」
と笑いながら言われたのだが、昔から知ってる言い回しが気になって、
「昔から私のこと知ってた?」
と質問したら、優しい笑顔で頷かれるだけだった。
私は何度も何度も言う通り、常にステルススキルを発揮して孤独な人生を14年間突き通してきていたので、私が気づかなかっただけで、その周りに坂倉さんがいたのかも知れなかったのかな?と思い、
「小学校も同じ学校に通ってた?」
と訊いたら、
「いや?」
などと普通に否定されてしまった。
違うんかい!
「ちょっとトイレに…」
朝から夕方まで寝てたせいか、当然私の膀胱にはたっぷりとおしっこが溜まっているので、結構ヤバい感じだと思っていたのだけど、ちょっと我慢の限界になって、疑問も途中で投げ出してトイレ宣言するも、場所を知らないのでキョロキョロしていたら、
「こっち」
と坂倉さんは私の手を引いて、幼稚園児のようにトイレまで連れてってくれる。
「坂倉さんはトイレ大丈夫だったんです?」
彼女も私と同じように、ずっと膝枕して動けなかったと思い、心配して訊いたら、
「適当にしてたし、何ならご飯も家事もしてたし」
若干得意げに、そう言われてしまうのだった。
はい…私はそんなことにも気づかないくらいに、爆睡キメ込んでたってことですね…申し訳ない。
「家まで送る」
トイレを済まして洗った手を拭いていたら、坂倉さんはそう言って、コートを羽織らしてくれた。
しかし背の高い彼女の暖かそうなコートは大きく、まるで子供が大人のを着ているような格好になってしまい、
「すまん、それしかない」
と謝られるも、
「全然全然、あったかくて嬉しいです」
そう言って自分で襟元を直すと、坂倉さんは優しい笑顔で頭を撫でてくれるのだった。
…撫でてくれるのは嬉しいけど、本当に母娘みたいなんだけど…
外に出ると、冷たい風が頬を掠めていく。
「嫌な季節になるな…」
そう言って私の手を握ってゆっくり歩く坂倉さんに、
「冬は嫌いなんです?」
と訊いたら、
「大っ嫌い」
と語気を強めて言われてしまった。
「私の故郷は雪国で毎年大変だったし、それを思い出す」
珍しく自分のことを話す坂倉さん。
そういえば私は彼女のこと何も知らないなぁ、と思うと、
「故郷ってどこだったんですか?」
と好奇心うるうるの
「あっち」
と北の方向を指さされて終わってしまった。
やがて、自分の家に着くと、
「お前の
と坂倉さんは一緒に家の中に入ってくる。
「え…えと…そうなんだ」
最初彼女の責任感が強いのだと思っていたが、私は思い出すのだった。
昨日の、彼女が父親に土下座したことを。
私を下さいと告げたことを。
ある意味、
なので、今日学校を休ませた正当性を親に主張しないといけないと思ったのだろう。
「お父さんに訊いてくる」
そう言って、二階に上がると、私が帰って来るのを待っていたのか、父親は部屋から出てきていた。
「ごめんなさい、今日私、学校行かなかった…そしてえっと坂倉さんが…」
「上がってもらいなさい」
父親は無表情でそう告げるが、やっぱり昨日から様子がおかしい。
坂倉さんに家に上がってもらい、父親の部屋に通すと、外に出てドアを閉めた。
でも、ちょっと心配になり、扉に聞き耳を立ててみた。
「お父さん、娘さんが二日程徹夜状態で、体調も心配だったので、今日は私の部屋で休ませました」
坂倉さんの報告が聞こえる。
「すまない、あの
父親もその報告に理解を示しているようで、とりあえずは安堵する私だったが、次の瞬間、彼の言葉に衝撃を受けてしまうのだった。
「魔の民が軍事行動の準備を始めていると、国の諜報部隊から連絡があったらしい。確度は不明だが、各国も昔の魔の民侵略戦争の再来に備えて、緊張が高まっていると聞いた」
その事実も衝撃的だけど、それ以上にそんな情報を何で坂倉さんに伝えるのかが全く理解できないのであった。
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