16〜徹夜明けの私は部屋に連れ込まれてしまう。
私は坂倉さんが父親に土下座した理由をあれこれと思索していた。
父親が強要した訳でもなく、彼女が自主的に行ったみたいで、それでもどう考えても、あの厳格な坂倉さんがそんな行為に及ぶのが想像出来ないでいたのだ。
「ダメだこのままだと寝不足になる」
食事の時も、入浴中も、寝る支度の時も、布団の中でも私は、あの坂倉莉里のことばかり考えてしまっている。
ヤバい。マジヤバい。
今まで孤独で誰とも関わることがなかった人間が、急にあの美貌を誇る坂倉さんと仲良くなったから、脳がおかしくなっているのだろう。
そんなことを考えてたら、あの食べかけの大判焼きを思い出して、更におかしくなっていく自分がいた。
そしてまた土下座の謎に戻り、同じことを何周も考えているうちに外は明るくなっているのだった。
「おはよう…」
自宅の前で、朝日が滲みて目が開けらない、明らかに徹夜明けの女子と分かる者がそこにいた。
「また寝てないのか?」
坂倉さんの不機嫌そうな声が頭に響く。
「山本…どうしたん?恋でもいたんか?」
恋…?
友達のその言葉で、ようやくもやもやして、心臓のどこかがおかしいような、そんな自分自身のこの心境を理解したような気がした。
ああ…まさかだったのだ。
私が誰かを好きになるなんて、一生ないと思っていたのに。
これが…恋なのかな…それでも、やはり分からないのが本音だ。
「今日は学校行かないでおくか」
坂倉さんの言葉が脳に響く。
「おーどこか行く?でも山本寝かした方が…ああそれが目的か莉里!」
「だからお前らは学校行け、私と山本はどっか適当なとこで休んでるわ」
そんな会話がすると、友達がはしゃいで何かヒューヒューと言っていた。
「いいだろ?山本」
そう言うと、眠くて判断力が落ちているとはいえ、これから坂倉さんとふたりっきりになるのを想像したら心臓の鼓動が早くなって、頷くしか出来ないのだった。
そんな私の手を引き、彼女は私の歩調に合わせてゆっくりとどこかに連れて行ってくれている。
「なんで寝ないんだ?そんなにすることあるのか?」
坂倉さんは心配して訊いてくるも、なんて答えればいいか分からず、とりあえず、
「土下座…何でしたんです?」
と目下の疑問をぶつけるしかできなかった。
「話すと長くなる」
目の前を手を引きながら歩く彼女はそうとしか答えてくれないので、ならば私のせいなのか、と訊くと、
「そうだよ」
という返事が。
しかし、続けて、
「山本のせいってアレだ、何があった訳じゃなくて、これからのことだから、別に今のお前に何があったというからじゃない」
と、坂倉さんにしては歯切れの悪い、妙に要領を得ない言い方で答えるのであった。
「土下座を何でしたか疑問で、そしたら坂倉さんのこと色々考えてたら寝れなくって」
私は正直に寝れない理由を話した。
今の心境を吐露すれば、私も楽になると思ったからだ。
しかし、彼女はその言葉には答えず、ある建物に私と一緒に入っていく。
不思議そうに建物を見上げて
でも、ここはアパートのような作りなので、もしかしたら彼女が暮らしてる部屋に行くのだろうか?
絶賛思考停止中で建物を不思議そうに見ている私に坂倉さんは、
「私ん
とだけ言って部屋に入れてくれた。
「お…お邪魔します…」
坂倉さんの部屋に入れる喜びと緊張が交錯して眠たい脳が更におかしくなるようで、しかも通されたのは寝室だった。
「とりあえず横になれ」
そう言って、私は坂倉さんの愛用するベッドに横たわると、何故か、私の頭は彼女の膝の上に乗せられていた。
「正直に言うぞ?」
膝枕をする坂倉さんは、多分さっき私の言葉に答えてくれるのだろう、でも少し勇気がいる答えなのか、いつもより声のトーンが低めである。
そして優しく私の髪の毛を撫でながら、彼女はよく聞こえるようにか、耳覆う髪を掻き分けながら、恥ずかしいのか、少し小声で口を開くのだった。
「土下座は山本優羽を下さいって言ったからだ」
頭が真っ白になった。
本当に、今私に膝枕しているのは、あの坂倉莉里なんですか?
あの無愛想で辛辣な彼女が、そんなこと言うのが信じられないのだけど。
つか昨日の全裸気絶男子に男に興味ないと言ったのは、本当に
ああ…友達はそれを知ってて坂倉さんを茶化してたりしたんですね…それで斉藤さんと私が喋ってたら不機嫌になってたんですね…そんな数々の疑問点が、その一言で全て整合性が取れました。
いや…最大の疑問点が…何で私のような何の取り柄もない…いや地味しか取り柄のない、ああ乳首の色も取り柄だけど、見せれないから置いておいて、とにかく何で私なんですか?
「えっと…何で私より父親に先に言ったんです…?」
何で私なんか好きになったのと訊くのも野暮なので、もうひとつの疑問を投げかけると、
「ほんとそれは話が長くなる」
としか答えてくれなかった。
もしかしたら、父親の顔色が良くなかったのとも関係あるのだろうか…?
でも今はもう眠気でそこまで考える程の思考能力はない。
いや、普段からないけど、今はもっとない。
そんな私の思考能力を更に奪うように、彼女の髪を撫でる手が心地よい。
部屋もシンプルではあるが、間接照明などでいい雰囲気があって、さすが寝室、眠気があり得ないくらい襲ってくる。
でも寝る前に、これだけは言わないといけない、と髪を撫でる彼女の手を取り、
「私でよければよろしくお願いします…」
そう言って私は深い甘美たる眠りへと
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます