15〜大判焼きはやっぱカスタードクリームです!

香林坊からの帰り道、生まれて初めて友達と一緒に食べる大判焼きは、中はふっくらしていて、餡も程よい甘さ、それでいて外の皮はパリっとして確かに友達が食べると誓うほどの美味しさだった。


そこのお店の大判焼きは他にもカスタードクリームや栗餡、チョコクリームなどがあって、どれも美味しそうだったのだけど、ご飯前ということで私はこれひとつで妥協するしかないのが無念でならない。


「莉里は相変わらずカスタードクリームなんだな?」

そう友達は坂倉さんの大判焼きを見て言うので、私も視線を向けてみると、彼女の食べかけの大判焼きの中からは、薄黄色のプリンッとした弾力がある、いかにも美味しそうなクリームが顔を覗かせ、寒空の下で暖かい湯気をほんのり纏っていた。


私は、餡とカスタードクリームのどちらを選ぶか悩んだので、坂倉さんのその大判焼きがとてつもなく美味しそうに見えてしまう。

そうすると、いかにも欲しそうなうるうるな瞳で見つめているのに気づいた坂倉さんは、

「食うか?」

と、その美味しそうな大判焼きを私の口元に差し出してきたが、

「いっいえいえ、そんな、ごめんなさい、卑しそうに見ちゃって」

と顔を横に振っていらない意思を示すも、

「いいから食え、カスタードクリームめっちゃ美味いから」

と更に口に寄せてくるので、その大判焼きとクリームの匂いの誘惑に抗えずに、そのままパクッっと一口食べてしまった。


坂倉さんの食べかけの大判焼きカスタードクリームこそ至高。


クリームのねっとりした舌触りと、大判焼きのパリっとした皮に、適度な甘さが口の中で広がり、更にそれが坂倉さんの食べかけで美人成分保有ともなれば、もうこれ以上のご馳走はないのではないか。

そんな気持ちが顔に現れているのか、友達たちから、

「めっちゃ美味しそうに食べるな山本!」

と、笑われてしまうのだが、こんな幸せを味わえるのなら、どれだけ笑われてもいいと思ってしまう。


「美味いだろ、やっぱカスタードクリームなんだって」

そういう坂倉さんに、私も小刻みに頷くだけだった。


そんな至福の時を歩きながら過ごすと、遠くにいかにも時代を感じさせる、英雄が国から褒美にと与えられた、そんなに大きくはないが豪華な私の家が見えてきた。

親父おやじに会うの今日でもいいのか?」

と家の前に着いた時に坂倉さんに訊かれたので、

「ちょっと訊いてくる」

そう言って、私は家の中に入っていった。


父親の部屋の前に来てノックをすると、返事があり、

「友達が会えるって」

そう伝えると、ドアが開き、

「今から?」

との問いに、頷いて答えた。


私は坂倉さんとその友達を招き入れて、父親に紹介すると、以外にも彼女たちは礼儀正しく振る舞って、父親と二階へと上がって行くのだった。


「優羽が友達なんて!」

娘が友達を連れてきたと、母親も若干浮き足だって、お茶を淹れようか、お菓子を出そうか、とウロウロしていたので多分すぐ帰るしいらないと言ったら、そんなんじゃお前が嫌われるとかいらぬ心配をされて何やら慌てて支度をし始めるのだった。


そんな母親を横目に、私は居間でテレビを見ようと電源を入れると、先の全裸男子の事件が丁度ニュースとして流れていた。

その内容は、ストリップ男子学生たちの狂乱の舞とか意味不明な見出しで、私たちのレメディのことは一切触れられずに、男子学生らが自主的に全裸で走り回っていたと報道されているようだった。

街頭でその事件の目撃者にインタビューしているのだけど、

「いきなり裸の人たちが走ってきてビックリでした」

とか

「若い子の変なイタズラだと思った」

などと、どうも坂倉さんと友達の存在には気づいていないようで、もしかしたら、私のステルススキルが妙に作用したのかな?

などとちょっと笑いながら見ていた。


そんなニュースも終わって、ふと坂倉さんたちを思い出し、

「お父さんちゃんと話せてるのかな…?」

とか思うも、数十分は経っていそうなのだけど、なかなか面談が終わらないので、少し気になって父親の部屋がある天井付近をぼんやりと見ていたら、多少ではあるがミシッと音がした。


当然私には何の音かも分からず、特に他の音がする訳でないので、気のせいだろうと思っていたら、暫くして父親と友達みんなが階段から降りてくる音がした。


「終わった?」

と訊く私に、父親は頷いたので、見送るために靴を履く。

外に出る時に、

「どうだったの?」

と、坂倉さんに訊いたら、

「莉里土下座してたぞ!」

そう言って友達が笑いながら報告するので、ビックリした私は、

「えっ!?お父さん怒ったってこと?」

と、慌てて訊くと、

「いや?私が必要だから一方的にしただけだ。親父おやじは関係ないから」

そんな答えが彼女から返ってきた。

それでも、土下座が必要ってどういう状況なんですか?とか色々思案するも頭の悪い私には分かるはずもない。


「じゃなー山本!」

坂倉さん以下友達とお別れして、私は気になる土下座の理由を父親に確認しようと急いで二階に上がって行き、父親の部屋のドアをノックした。


静かに開く扉。

しかし、その向こうの父親の顔は若干青ざめているようにも見える。

「お父さん…坂倉さんが土下座したって本当?」

と訊いたら、無表情の父親は、

「したよ」

と、言葉少なに答えるだけ。

「何でしたの?何か言った?」

などの問いには

「お父さんもちょっと動揺してるんだ…考えさせてくれ…」

そう言って扉を静かに閉めてしまうのだった。

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