14〜全裸男子百合に挟まろうとして散る!

香林坊に続く道は、古いレンガ作りの軍事用倉庫や、公共施設などが立ち並び、その奥には小さな森が見える。

歩道の脇には落葉らくようが進んだ並木があり、その下で落ち葉を踏むと、乾いた音がして季節がそろそろ冬に向かっているのを感じさせているようだった。


「今日こそは、大判焼き食べるぞー!」

香林坊に向かう中、友達は昨日食べ損ねたおやつを食べる宣言をして、他の友達も賛同していた。


そうして歩いていると、徐々に空気が変わってくる。

人の歩く靴音や、誰かの話し声などの雑踏音や、店の中の音楽が幾つも折り重なり、いかにも繁華街の喧騒という感じが香林坊に入ったのだと感じさせた。


しかし暫くすると、その騒がしい音も静かになる。

私は不思議そうに周りを見渡すと、どうもビルの裏の小道のようなところに入ったようだった。

「裏通りにあるんだよ、大判焼き屋さん」

そんな私の態度に気づいたのか、友達のひとりが教えてくれた。


「うぁウザ」

薄暗い裏道で何故かみんな立ち止まると、友達がそう言ったので、気になって坂倉さんと友達の隙間から覗いてみたら狭い道を塞ぐように、いかにもガラの悪そうな同じくらいの年齢の男子たちがたむろしていた。


しかし、さすが坂倉さん、そんなものなど気もせず突っ切ろうと歩き出すが、そのガラの悪そうな男子のひとりが坂倉さんの名前を呼んできた。

「坂倉莉里だよな?」


「さぁ?」

と、そっこーでしらばっくれる坂倉さん、まぁこんなのと関わりたくはないだろうから、そう言ったんだろうけど、

「顔見れば分かるって聞いてんだよ!」

ガラの悪そうな男子はそう言って坂倉さんの顔を近くで見ようと寄ってくる。

彼の後ろの男子たちも、彼女の美貌っぷりにかなり驚いている様子で、口々に可愛いとか結婚したいとか言っていた。


そんなウザそうな男子が接近してくるので、私たちは来た道を戻ろうとすると、何故かその来た方向からも男子数人が歩いて来ていて、挟まれる格好になってしまっていた。


「まさか斉藤の仕業じゃないよな?」

友達のひとりはそう言って、彼が裏で糸を引いているんじゃないかと推測するも、

「莉里は色んなとこで恨み買ってるからな〜全裸にされた女子かもよ?」

と他の友達は違う推測をしている。


しかし坂倉さんと友達のみんなは、私たちより数が多いガラの悪い男子に挟まれても至って平然としていて、少し震えている私はちょっと驚いていた。


そうしていると、坂倉さんの名前を訊いてきた男子が、

「お前、学校でやらかして人に魔法使えないんだってな!」

と、ニヤケ顔で更に近寄ってくると、

「なぁ、坂倉莉里さん…俺の彼女になるか、ここでこいつらの相手するかどっちがいい?」

などと何か如何いかがわしい選択肢を突きつけてきた。


「男には興味ねーよ」

そう坂倉さんが言えば、

「おぉお前、同性愛者ビアンかー!いいぜ、男のよさを教えてやるよ!?」

と言いながら、手で合図すると周りの他の男子たちがにじり寄ってくる。


しかし、友達はみんな冷静に、レメディを鞄から取り出すと、それを男子たちに向けて放り投げる、そうすると大きな悲鳴が裏路地に響き渡った。


その悲鳴を聞きつけた表を歩いていた女性が、その声の主の方向に走り寄ってくるが、今度はその女性も悲鳴を上げるのだった。


私は、何故か坂倉さんに手で目隠しをされて何も見えなかったのだけど、周りでは、

「服がー!?」

とか

「何だよこれっ」

「鞄も崩れていく!?」

などと言っているのを聞いて、どうやら今朝の脱衣呪符のレメディ版を投げたんだなと思うに至った。

坂倉さんが私を目隠しするのは醜い男子の裸を見せない配慮なのだろうか…


「話しが違うだろ?、人には魔法使わないんじゃなかったのかよ!?」

どの男子だか分からないが、焦っているのが分かるくらいの上擦った声で怒鳴りまくるも、

「いや〜私、莉里じゃないし〜」

「あんたら、莉里しかレメディ使わないと思ってんの?私らだって魔法学校の生徒なんだけど…」

と、呆れた口調で友達が言うと、先の如何いかがわしい男子が、

「服くらい関係ねー!!!」

と、全裸上等なお怒りの言葉を発したかと思ったら、私の目を覆っていた綺麗な坂倉さんの手が離れる。


そして目を開けて見ると、丁度坂倉さんの握ったこぶしが、全裸男子の顔面を捉えていて、そのまま力無く気絶して倒れてしまう。


「魔法を舐めてるなら、今度は毛根破壊して、頭の毛を一本残らず根絶やしにするレメディ使うが?」

坂倉さんのそんな無慈悲な言葉に、男子たちは慌てて全裸で逃げ出していくのだった。

威勢のよかった、彼女にぶっ倒された全裸上等な人を残して…

お願い…その人も連れていって…


とりあえず私たちも倒れた全裸男に野次馬群がっているのを後目しりめに、その場から離れて、店が立ち並ぶところまで来ると、

「莉里魔法舐めんな言う割には普通に殴ってんの!」

などと友達が笑いながら言うと、

「ちゃんと先生の言いつけ守ったしいいだろ」

と自分の正当性を主張するのだが、どうなんですかね…


そう言って歩いていると、やがていかにも創業何十年と言う感じの古い小さな建物が見えてきて、それがお目当てだった大判焼き屋さんらしく、その小さな建物の小さな窓口なようなところで、年老いた女性がひとりで大判焼きを焼いているのだった。


そして、その店の前で、みんな思い思いに注文をし始める。


「毛が抜けるレメディとかあるんです?」

大判焼きが出来るまでの時間に、ちょっと疑問に思ったので訊いてみたら、

「ねーよ」

と、坂倉さんの相変わらずな素っ気のない返事。

「馬鹿は魔法なんて分かんないから、全裸にされたあとなら信じるしな!」

そう友達は教えてくれた。

なるほど、あの騒ぎを一瞬で収めるにはいい方法だなと、私はちょっと感心するのだった。

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