12〜イケメンは自分を理解していない。

休み時間は、いつもなら私はひとりで本を読んでいたりと、自分の席で孤独を満喫していたのだが、坂倉さんとその友達と仲良くしてもらうようになったので、私も彼女たちとの談笑の輪に入れてもらえるようになっていた。


しかし、今朝の事件で担任に呼び出された坂倉さんが、

「一応、正当防衛ってことで厳重注意で済んだけど、次は何らかの処分を検討だってさ」

と報告している。

友達のひとりが、ちょっと驚いた表情で、

「あれ?全裸にされたあっちはお咎めなし?」

と訊き返すと、

「いや、同じだよ、だからあいつらも、もう何も出来ないだろ」

そう答えたので、みんなザマァとか全裸損とか言ってはしゃいでいた。


「ごめんなさい、私が狙われたばっかりに」

私は、自分のせいで注意を受けてしまったのを坂倉さんに謝ると、

「おめーのせいじゃねぇよ、元はと言えば無神経な斉藤のせいだろ」

と教室に響き渡るような声で言い放った。


それを聞いた生徒たちは一斉に彼女を見るし、当然、斉藤さんも名前を出されたのでクラスメイトとの会話を中断させて、こちらを見て歩いて近寄ってきた。


「何?」

自分が何かの当事者扱いされているので、一応確認しないといけないと思ってか訊いてくると、

「お前のせいで全裸にされた奴がいるんだよ」

と、彼にしたら意味が分からない返答を坂倉さんはする。

「えっと…ちょっと意味が分からない」

などと当たり前のように言われていた。


「お前が山本に告ってから、こいつがどんな酷い目に遭ってるか知らないのか?」

そう言って坂倉さんは私の頭をポンポンと優しく叩きながら言う。

「え?山本が脱がされたの?」

と斉藤さんは想像以上に驚いて、そんな彼を見た坂倉さんは一言、

「殺すぞ」

と冷たく返すと、話を端折りすぎて要領を得ないと察した友達が、彼女を静止するような仕草で、

「今朝、斉藤のファン軍団が私たちを脱衣の呪符で脱がそうと襲って来たのを、莉里がカウンターレメディ使って相手が全裸になったんだって」

と説明してくれた。


「え、でも下手したら山本が全裸だったってことだよね?」

と斉藤さんはあくまで私が全裸にされそうな事実に驚いている様子。

そう言って何やら私の貧相な身体をチラ見してるようで、変な想像してるような気もしないでもない…

つか全裸にされた貴方あなたのファンの心配してあげないのは何故…?


「えっと整理すると、俺が山本に言った言葉が原因で誰かが山本に嫌がらせしてるってこと?でも何で?」

そんな、自覚の全くない言葉が彼の口から飛び出して、坂倉さん以下友達一同は呆れ顔でイケメンの顔をみているだけだった。


そして、ため息混じりに坂倉さんが無自覚な彼に、

「おめー自分がどんな立場か分からねーの?馬鹿?」

と言うと、

「えっと立場ってクラスメイトくらいでしょ、何かあるか?」

などと全くもって理解出来ていないようだった。


「斉藤〜お前さぁ貴族で調合師クラスで顔もそこそこいいじゃん、女子人気が凄いこと知らねーの?」

と友達が彼の学校内の立場を説明しつつ訊くと、暫く考えた末に、

「告白もされたこともないし、女子と喋るのだって山本だけだし、あ、一応坂倉もか、言い合いだけど」

と結構な衝撃的な答えが返ってきた。


無自覚ほど恐ろしいものはない。


彼は自分の女子人気を自覚していないので、私に降り注ぐ災いなど想像もできていないのだ。


そう考えれば、事情を説明して事態を収拾してもらう方が賢明なことなのかも知れない。


「この学校の女子人気は多分、斉藤が一番なんだぜ?つか昨日も香林坊でも女子がうるさかったの分かってないの?」

と友達は更に説明を続ける。

その言葉に少し驚いた様子で斉藤さんは

「昨日は俺ひとりじゃないし、マジで女子と会話してないから全然分かんないって」

と若干戸惑いながら答えていた。


そんな会話が漏れ聞こえているのだろう、周りのクラスの女子が多少騒めいているが、そんな中、坂倉さんの、

「とにかく、山本がおめーのせいで女子たちに嫌がらせを受けているのは事実だ、今朝のだってしっかり斉藤にちょっかい掛けるなと言われたし」

という言葉に、イケメンが、

「じゃ俺が彼女を守ってやるよ」

とか言い出して来た。


「いやマジ殺すぞ?」

と若干キレ気味なのか、坂倉さんのその美しい手のひらに何かのレメディがふたつあって、投げ捨てるぞと脅している様に見せつけながら言った。


「だって俺が原因なんだろ?当事者が問題に対応するのが筋でしょ」

と真っ当な意見を言う斉藤さんだったが、その彼を睨みつけて坂倉さんは、

「だから、お前が山本に肩入れすると他の女共がヒステリックになるんだっつの、どんだけ馬鹿なんだよ!?」

とヒステリックに捲し立てる。


「それでも、俺が山本と一緒にいれば誰も何もしてこないでしょ?結構ベストな選択だと思うけど」

あくまで食い下がろうとする斉藤さん、当然そんな提案には賛同する気などない坂倉さんは、

「山本、こいつこんなこと言ってるけど、どうする?」

と、こちらに投げてくるのだった。

確かにこのふたりが言い合っていても埒が開かないけど、私が決めるんですか…


「私は今のままでいいと思うかな…」

正直男子と一緒なのは無理なので、坂倉さんを選択するしかないのだけど、せっかく仲良くなって、自分としても居心地も良さそうな彼女たちを除外する理由も全くないので、そう言うしかなかった。


のだが…


「いや、山本の気持ちも確かに大切で最優先させるのは分かるけど、守れないと意味ないだろ?坂倉が守りきれるとは思えないのだけど?」

と諦めきれないのか、坂倉さんの戦闘能力に疑問があるのか、斉藤さんはやたらと食い下がる。


「いいよ、そんなに信用できないなら試してみればいいだろ?私の力を」

坂倉さんはそう言って、椅子から立ち上がるとレメディを斉藤さんの目の前に突き出した。

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