10〜美人は不細工が羨ましいに違いない。

スカートからすらりと伸びる白くて長い脚。

近づけば、その長い煌びやかな綺麗な髪からほんのりと漂ってくるいい香り。

化粧をしたことがないと言うのに、その肌は赤ちゃんの様に綺麗で、当然、造形も比べる人がいないくらいに整って、あらゆる角度から観察するも、うっとりする程の完成度。

唇も触り心地がよさそうで、そうではあるものの、その口から発せられる言葉は綺麗とは言い難い…


坂倉莉里。


噂では、その美貌に一瞬で心を奪われた人は男女問わず彼女に接近するも、あの態度で軽くあしらわれる始末。


やがて、誰も彼女には近づかなくなるも、それでも取り巻きを引き連れて、学園生活を満喫しているようだったけど、そんな坂倉さんが何故か私にちょっかいを掛けてきて、斉藤さん事件を期に意外に気を遣って接してくれるようになった。


いや、態度や口調は以前と変わってはいないけれど。


思えば口調はキツイものの、まぁ事実を的確に言っているだけだし、私は先入観で彼女は怖いと思っているから、尚更その言葉が攻撃的に思えてただけど、実際一緒に行動すればそういう感じは薄れて、そのキツイ言葉の向こうに意外に気を遣ってくれてたり、優しい気持ちも垣間見えるような気もした。


それを思えば、人を忌避しているであろう彼女の、数少ない接近を許された人間ということだったのだろうか…?


しかし、何故坂倉さんが厚意を示すのかは分からないでいたのだが、そんな中、彼女が私の出来損ないの顔を羨むのを知って、私はひとつの結論を導き出していた。


彼女は私が羨ましいのだ。


美人であるが故に、その容姿目的で近づいてくる人間どもに辟易していて、顔が私のような不細工でステルス機能満載の女で、一切他人が近づかないその環境が理想的に見えていたから、興味があったのだろう。


そうやって一連の坂倉さんのことを考えていたら知らない間に朝になっていて、一睡もしないまま学校に行く準備をしないといけなくなっていた。


何やってるんだろう私…


パジャマを脱いで制服を着ようとした時、下着が目に入る。

今度はそこそこ見せても大丈夫なものを穿いているので、万が一また坂倉さんの前で着替えるとなっても大丈夫、多分そんことはないと思うが、これで笑われるような事態にならないと思って急いで服を着て準備をして朝食も済ませて玄関出ると、そこには相変わらず美人な坂倉さんと取り巻きふたりが立っていた。


「眠そうだな?大丈夫か?」

朝日にも負けない美しさの彼女は開口一番、おはようも言わずに寝不足を指摘してきて若干戸惑うも、

「はは、一睡も出来なかった…」

と答えたら、

「おめー寝ないから肌荒れるんだぞ?ちゃんと寝れ」

と親みたいに怒られてしまった。

いや…坂倉さんのせいなんだけど…まぁ私が勝手に考えてしまって寝れなかっただけだけど…


「おはよう山本〜寝ないで何してたんだよ、このエッチ女」

取り巻きのひとりはそう言ってからかうも、当然大きく顔を横に振りまくって、いやらしいことに精を出してたことを否定した。


「斉藤やそのファンの嫌がらせが怖くて寝れなかったのか?」

みんな歩き出すなか、そう坂倉さんは心配してくれるのだけど、いや、あんたのせいです、はい。


「昨日のみんなで香林坊行ったこととか考えてたら、ちょっと寝れなかっただけです」

と事態を収拾すべく、それっぽい理由を言ったら、

「莉里のこと考えてたのか〜青春だねぇ」

などと図星を突かれてしまったので、それにも一層顔を横に振りまくって否定するも、

「顔赤いぞ〜山本〜」

とニヤニヤして指差して来るので、思わず顔を下に向けてしまった。

取り巻きふたりは、そんな俯いた私の顔を、しゃがんで下から見上げて、

「いや、マジだった?もしかして莉里に惚れてるの?ねぇ」

と捲し立てる、が、

「ブスを虐めるな」

そんな坂倉さんの言葉で一応騒ぎは収まった。

いや…ブスとか言ってる時点で貴女あなたも虐めてるんじゃないのかなぁ…


「あれ〜嬉しくないの?ねぇねぇ莉里ぃ〜」

いや収まってなかった、取り巻きが今度は坂倉さんに絡みに行ってしまっている。


うわぁ凄ぇ…


って何で嬉しいと思うんですか…?


「事実なら嬉しいかな」

取り巻きの絡みにも動じず?多分本音であろう気持ちを彼女は答えていた。

しかし、私はその言葉の主旨を深く考えずに、ただそうなのかーと、私はあの美人と友達になれるのかな?みたいな解釈をしていたのだった。


そんな登校風景を見ていると、取り巻きと思っていた女子たちは、普通に仲のいい友達で、ただ坂倉さんの態度がアレだから取り巻きに見えていただけなんだなと、そう思えば、一緒にいると今まで見えてこなかったものが色々見えてきて、変な思い込みで他人を評価する愚かさを自戒しようと思い始めていた。


「あ、そうだ…あの坂倉さん」

私は昨日の父親の言葉を思い出して、恐る恐る質問を切り出すも、

「あ?」

と相変わらずな対応で一瞬たじろぐが、その態度も悪気はないと自分に言い聞かせて、

「お父さんが坂倉さんとみんなと会いたいって」

と言った刹那、取り巻きじゃなくて…友達が

「おおおおっ!いよいよご両親に紹介ですかー!!!結婚式には呼んでくれよな莉里!」

と囃し立てられてしまった。


ああ…さっきの話の流れを自分で加速させてしまって、空気読めてないなと、それでも一生懸命、そういう意図はないと手振り身振りで否定するも、他人の恋愛話が大好きなのか友達のふたりは何か宝くじにでも当たったかのようにはしゃいでいる。


そんな中、冷静な坂倉さんは、

「お前の家は色々あるから人間関係にも精査が入るんだろ、いいよ会ってやるよ」

と的確に理解してくれていた。

ああ…こういうとこに地頭出るのかな…さすが優秀なクラスでもトップの人は違うなと、その美しい横顔を見上げながら感心するしかないのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る