09〜不細工が化粧をしても父親は気づかない。

「優羽、お前は自分の家系が世界の運命を左右するというのを忘れてはいないよな?」

そんなに大きくはないが、古い格式のある作りの階段から父親は私に訊いていた。


いにしえからの言い伝えを確認するということは、坂倉さんたちと家まで一緒に帰ってきたことが、その言い伝えにはよくないことなのか、しかし今まで特に友達を作るなと注意を受けたことなどないので不思議に思い、

「ダメなの?」

と訊き返した。


「ダメじゃないけど、お父さんはその友達をチェックしなくてはいけない」

そんな人を疑うようなことを言う父親だったが、確かにこの家には禁レシピとして封印されたものがあるので、私に近寄る者は一応疑われても仕方ないのだろう。


そして、

「しかし、優羽が友達を連れてくるとは思わなかったから、そういう事は言わなかったけど、これは国からも厳命されていることなんだ」

と結構失礼なことを言うけど、まぁ私自身も友達と言えるかはは置いといて、坂倉さんたちと仲良く繁華街に行くようなことになるとは夢にも思わなかったのは事実だ。

事実だけど、やっぱ失礼だよ父…


「チェックってどうするの?」

と父親に問うと、

「直接会って話を訊く」

と答えが返ってきた。


そんな事情を坂倉さんたちに伝えても、承諾してくれるだろうか?

いや、普通、友達の…まだ友達といえるか謎だけど、家まで送っただけで父親と面接というのは、ちょっとあり得ないような気がしてならないのだけど、英雄の直系の子孫という立場なら仕方ないのだろうか?


「いつ?」

私は半ば諦めて父親と対面させる時期を訊いたが、

「出来るだけ早い方がいい」

と言われたので、

「じゃ、明日の朝訊いてみる」

そう言ってさっさと自分の部屋に向かおうとしたが、その面倒くさそうな態度に父親は、

「俺も娘の友達と会うとか嫌なんだけど、若い見たいだけとか思われたら嫌だし」

とか言い訳を始めるも、

「でも、ここだけの話…誰にも言うなよ?」

と顔を私の耳に寄せて言うには、

「魔の民が復活しているという情報が軍の上層部から国王の耳に入っているらしい」

そんな衝撃的なことを告げられた。


父親も娘が気が進まないのは承知の上で、坂倉さんたちと会いたいというのは、魔の民復活という事情もあるから仕方ないのを伝えたかったのだろうけど、正直、彼女と父親を会わせる以上に、嫌な情報と思わざるを得なかった。


「何でよりによって私の代に…」


400年間、そういう不穏な空気は一切なかったのに、何で私の時代に復活するのか。


父親も英雄の血を引くのだけど、魔法学校を卒業して何十年も経っていて、本人ももう何も覚えてくないと言うし、きっと魔王アリズの子孫か何かが襲って来たら、現役の私が封印されたレシピで倒すしかないのだろうけど、そんな場面なんて想像すらできない。


あ、因みに父親も私と同じで一切魔力もなく、レメディすらまともに作れない落ちこぼれだったようで、ほんと英雄の子孫ってだけで父娘とも何も役にたたないという有り様だったり。


そんなことを考えながら、決して綺麗に片付いてるとは言えない自分の部屋に着くと、部屋着に着替えるために制服を脱ごうとするも、いつもと違うのを着ていたので少々戸惑いつつも何とか脱いで丁重に折り畳んむ。


しかし先の父親は娘が通っている学校とは違う制服を着ていて、しかも化粧まで施していたのにスルーしたのは何でだろう。

まさか気づかなかったとも思えないし。


それよりも帰り道で、この制服の持ち主に洗って返すからと言ったのだが、

「洗わずに莉里に渡せばいいと思うよ」

などと返されて、あれ、これ本当は坂倉さんの?とか思うも、そんなことは訊けずに頷きながら、

「ありがとう」

と意味不明にお礼を言ってしまったのを思い出していた。


「うわぁダッサ」


部屋着を着ようと脚を上げた時に下着に目がいき、思わずそのダサさを口にしてしまう。

一生、人に見せることはないであろうと、私は下着など気にせず着用していたのだけど、その口に出るほどの下着とは、お腹まで隠れてレースなどの装飾もないし、形が身体にフィットしている訳もなく、多少ダブついていて、本当におしゃれからは程遠い代物だと自分でも妙に感心しつつ、

「これを見られたらヤバかったなぁ」

と坂倉さんの前で着替えなかった自分をちょっぴり誇らしげに思うのだった。


しかし、そんな彼女のことを考えていると、ふと重大な事実に気づく。


イケメン斉藤さんが私にちょっかい掛けていたから、それで坂倉さんがいぶかしく思っていて、それは彼に想いを寄せていたからだと思っていた。


しかし、今日の一連の出来事でそれは完全に思い違いであったとの結論にしかならないのだ。


じゃ何で私をからかったり、酷い時にはブスとか罵りを入れたりしていたんだろう?

挙句には、女子の視線から庇ってくれたり、あんな真剣に守ると言われてしまって訳が分からないのだ。


ほんと、それまでの私に対する態度は何だったんだろう?


そんなことを考えてると、部屋のドアをノックする音がして、母親のご飯の支度ができたことを告げられたので、そのまま出ると、めっちゃ驚かれてしまうのだった。


「どうしたの?化粧道具なんて持ってた?もしかして好きな人でも出来たの?」

そう言う母に、そうだよ父親、これが思春期の娘を持つ親の態度だよ!と心の中で思うも、

「いえいえいえいえいえいえい、友達と香林坊行くのに、してもらっただけ、ごめん、化粧落とすから道具貸して」

と恋をしてオシャレに目覚めた説を否定して、無事に化粧を落として、いつもの不細工な自分に戻るのだった。

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