05〜急募!地面の穴を掘る方法
いつもは何をするにしてもひとりで、とにかく目立たないように、そのためだけに全ての神経を研ぎ澄ませてきた。
その甲斐あってか、遂には達人の域にまで上り詰めたと思えたのが、先日の戦勝記念日のセレモニーであった。
TVカメラには映らず、同じ会場にいたクラスメイトの美人の取り巻きや、斉藤さんも目視出来ないステルススキル。
それをからかう人もいたが、私は少し誇らしかったのも事実。
しかし、そんな14年にも及んだ精進も、今日、今ここで打ち砕かれていた。
何故かその磨き上げたスキルが機能せず、あらゆる女子からの視線を一身に浴びている私。
過去には英雄の末裔としての物珍しさから、好奇心
「もうダメだ、このまま穴を掘って家に帰ろう」
などと地面に丸まって、目の前の土をどう掘ろうかと考えていた矢先にそれは起きた。
私をからかい嘲笑していた、あの美人の坂倉さんとその取り巻きが、何と守ってくれるように取り囲んでいてくれたのだ。
当然その行為をどう捉えればいいのか分からず、丸くなっていた身体の上半身だけ起こして不思議そうな顔で佇んでいる私に、その中の1人が、
「斉藤のせいで災難だったな」
とニヤニヤしながら言い、その時初めて、あのイケメンな斉藤さんが告った話が既に全校に広まっていたことを知るのだった。
そうなのだ、当然彼、貴族の御曹司で美形で大人の雰囲気で優しい斉藤さんの人気はクラスに留まらず、学園内に隈なく憧れている女子は存在している。
そんな彼が、地味を誇りにしている、どうしようもない冴えない女子に告白したとなれば当然、音速で広まるのも道理である。
だから尚更、そんな男子が公の場で告白した相手とはどんなものなのか、女子の間で品評会が開かれても仕方ないのだ。
視線の集中砲火の原因は理解できた。
しかし、今のこの状況、私を馬鹿にしてた連中が庇ってくれてるというのは、ちょっと理解出来ないでいた。
当然、何か裏があるのだろうと推測するのだけど、私が彼の告白を受け入れなかったご褒美で囲ってくれているのか?それとも絶対イケメンの気持ちに応えるなという牽制なのか?
などと様々な憶測を巡らせていたが、そうしていると座っている私を立てと言わんばかりに引っ張る手が。
「ほんと不細工だな、涙ふけや」
顔は美しいのに言葉は汚い坂倉さんの手であった。
立ち上がった私に彼女はハンカチを差し出し、それを受け取ったものの、そんな美人の持ち物で不細工な顔を拭いていいものだろうか、でも自分のハンカチで拭いたら、せっかく親切に差し出してくれたこれを無下にしてしまう。
そんなことを色々考えて行動できないでいると、坂倉さんの綺麗な手が私のハンカチを持つ手を掴んで、無理やり、でもちょっと気を使って優しく涙を拭いてくれるのだった。
「ごめんなさい」
それしか言えなくて、下を俯いていると、
「いいよ、お前らしいし」
と、何とも言えない言葉が返ってきた。
そうか私らしいのか…
そんな感じで準備運動も終わり、体育の項目、短距離走に入るのだが、坂倉さんは何やら取り出して素知らぬ顔でそこらに放り投げた。
最初はゴミでも投げたのかなと、ちょっと行儀が悪いなと思っていたら、辺り一面霧が立ち込めてくるのだった。
「レメディ?」
私は小さな声で思わずそう言うと、美しい坂倉さんの唇がちょっとニヤリとしていた。
自然現象を起こすレメディはかなり高度で、私たち入学したての生徒が操れる代物ではない。
当然、先生もそれは承知しているので、本当に霧が出ていると思って気をつけるように注意喚起している。
しかし、そんな高度なものを調合できるなんて、さすが坂倉さん…つか何でそんなイタズラをするんですかね…??
と察しが悪い私に取り巻きの1人が、
「お前の為に撒いてくれたんだぞ、
と教えてくれて、その時初めて、女子から視線を浴びている私を守るために霧のレメディを使ってくれたのだと知り、
「あっありがとう」
と坂倉さんに言うも、何故か、
「うるせぇ」
と怒られてしまった。
何なん…
しかし、そのやりとりを見ていた取り巻きは笑い出して、
「ほんと素直じゃないなー」
などと坂倉さんを茶化すように言っている。
そんないかにも友達みたいな雰囲気に、ああ、仲がいいんだなと言葉の意味を深掘りもすることもなく、ただ私にはそういう経験がないところもあって関心するだけだった。
そんな体育の授業も、坂倉さんが発生させた霧のおかげで、視線を気にすることもなく何とか終えられた。
しかし、学園生活はそれだけではない。
好奇の目に晒されるところは、当然他にもある訳で…
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