04〜運動場で品定めされる…

静まり返った教室内で、その言葉は美しく響いていた。

しかし私は理解が追いついていない。

彼が発した「そうだよ、だから話し掛けてるんだよ」という言葉の真意は坂倉さんの「気があるのか」に対して答えたものである。


やっぱり理解が追いつかない。

いや絶賛思考停止中なのだ。


やがて、程なくその意味をぼんやりと理解することとなる。

教室内のあちこちで人が倒れる音、そして女子の悲鳴や嗚咽、なんか男子は斉藤さんを応援している者もいるようだ。


誰かが倒れた女子の名前を呼んで、保険委員に何か言うも、大丈夫だと自ら立ち上がったり、椅子に腰掛けて気分を落ち着かせようとしているようだった。


明らかにイケメン貴族の御曹司が私に告ったショックで、彼にガチ恋している女子の気が動転していると察するしかない。


しかし、この異常な状況下でも私は斉藤さんの顔を見ずに、何とか気配は消せないものか、このまま異世界転生出来ないかとか色々考えていた。

そんな私の側に近づいてくる気配がする。

いや、近づいて来るのは殺気だ。


「で、お前はどうなんだよ?」

美人の坂倉さんが何か言ってるが、その「お前」が誰か分からず放置していたら、

「山本はどうなんだよって訊いてんだよ!」

と多少語気を強めて言い直して来た。


ちょっとびっくりして、

「ひゃっ」

とか顔に似合わない可愛らしい声が思わず出る私だったが、ああ、美人の坂倉さんは、私が彼の気持ちを受け入れられると嫌なんだろうなと思いつつ、だけどここでキッパリ断ると貴族の御曹司も傷つけるなぁと、なんか学校内の人気を二分するふたりの生殺与奪権を掌握した気分になり、ちょっぴりご満悦になるも、ここは今後も目立たないように、

「とりあえず今はひとりがいいので…」

と自己主張するに留めた。


「残念だったな斉藤」

と何故か勝ち誇ってる坂倉さん、それに対してイケメンは、

「別に山本と付き合いたいとか言ってないだろ、このがひとりがいいというならそれを尊重するよ」

と大人の反応。

そりゃモテるわな〜と感心しつつ、取り敢えずは穏便に済んだようでよかったと思うのだった。


つか、展開が急転しすぎてませんか…?

未だに完全に理解しきれてないのだけど、もしかして、以前からそういう空気で、私だけ気がついていなくて、それが今、白日の元に晒されただけなんです???

斉藤さんが私に好意があって話掛けてたから、恋敵憎しで坂倉さん以下取り巻きが敵対行動取ってたってことなんです??


しかし、その後、御曹司の影響力を思い存分知ることになる。


私は呑気に事件は解決したと思い込んでいたのだが、それが勘違いだったと思い知るのは、秋空の高い雲が季節を感じさせる、そんな午後、体育の授業の時だった。


体育は男女分かれて、他のクラスと合同で行われる。

私も一応女子なので、女子だらけの運動場で準備運動をしていると、やたら視線を感じる。


友達が一切いない私は当然、準備運動もひとりなのだけど、そんな孤独によく分からない運動している不細工を運動場の女子全員が見ている気がするのだ。


いや、普通の人なら勘違いだとか思い上がりだとか言われるのだろうけど、そういうことに敏感な私にしたら、明らかに全ての女子の視線が全身を舐め回すように見ているのを感じるのだ。

周りでは数人でヒソヒソとこちらを見ながら話す輩もいる。


普段はまったく誰にも気にされていない史上最強の地味さを誇っていた私には耐えられない状況で、怖いのと自分のステルススキルの衰えへの懸念から固まってしまっていた。


ここには式典の時のような隠れる両親はいない。

広い運動場の隅とはいえ、その場から逃げない限りは姿を隠せる物などない。


向こうではこちらに分かるように、横目で見ながら笑っている女子もいる。


もしかしたら、体操着を着るの忘れて下着で準備運動してるのかとも思ったが、そんなこともなく、どこか変なことになってるのか、と確認もするけど、特にいつもと変わらない。


変なのは顔くらいしか思いつかない。


いや顔だっていつもこの地味さだから、急にジロジロ見られる理由ではない。


もう何がなんだか分からなくなって、かつてない恐怖で足がすくみ、どうしようもない程に震えが止まらなくなり、まるで雨に濡れた子猫のように丸くなってしまうのだった。


しかし、そんな私をわらわらと取り囲む集団がいた。


最初は私に対してヒソヒソ話していた女子たちが、丸まってる不細工を笑いに寄って来ているのではと恐怖でしかなかった。

しかし特に笑い声がする訳でもなく、それどころか集団で無言で輪になって盾のような役割で私を好奇の目から守ってくれているように感じた。


そんな天使のような行為をしてくれる優しい友達など、孤高の地味女子の私には存在しないのに、一体どうなっているのか?


と、恐る恐る顔を見上げてみると、そこにはあり得ない人たちがいるのだった。


坂倉さんとその取り巻きだったのだ。

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