02〜地味目少女、超美人にブスと言われる。
王立魔法学校は、王都防衛の兵士の中でも重要な魔法防衛隊を育成するもので、入学に際しても相当なスキルを必要としていて、最難関の学校として知られている。
特に私が所属する調合師のクラスは薬学に秀ていて且つ生粋の魔法スキルも必要という、そこに在籍するだけでもステータスとして誇れるような場所だった。
そんな事情もあり貴族の間では、調合師を家系に入れるためにそこを卒業した者を重宝がる傾向にある。
当然平民の女子は貴族と結婚できる可能性を求めて、少しでも魔法スキルがあれば、必死に勉強して最難関の試験を受けるのだけど、まぁ殆どの人が涙を飲む羽目になっている。
しかし、そういう政略結婚的な話は優秀な人だけの事情な訳で、私のような完全落ちこぼれで場違いにも程があって、そこに存在しちゃいけない様な者には、当然縁談の話などは一切ない。
単なる英雄の直系の子孫というだけで貴族でもなんでもないし、ひとり娘であるから一応婿を取らないといけないと親が言うので、そんなモノ好きがいるのかと思えばいない訳で、一生独身決定じゃないかと思うしかない。
まぁ人に好かれて意識されるのも嫌なので、それでいいのだけど…英雄の血筋も私で途絶えたらごめんねお父さん。
「どけブス!」
一応格式ある王立の最難関学校の荘厳な化粧室で、いきなり容姿を蔑視する怒号を発し、例の美人の坂倉さんが手を洗っていた私を手で押し退けてきた。
私はびっくりして濡れた手を上げてしまい、水滴が飛び散ると、男性なら誰でも惚れるだろうその彼女の顔を少々濡らしてしまうのだった。
驚かした相手も悪いが、水滴をつけてしまった罪悪感もあって、持ってたハンカチで慌てて謝罪しながら拭き取ろうとするも、まだ手が濡れていたので水滴が手から溢れ落ちて相手の制服も若干濡らしてしまったりして、余計焦りまくっていた。
「ほんと何やってもドジだな、もういいよさっさと消えろ」
坂倉さんがそう言うと、ほんとごめんなさい、といいながら立ち去ろうとするも、その周りでニヤニヤしていた取り巻きが昨日の式典に触れ、
「凄いね〜山本〜、あんだけ目立つど真ん中で存在消せるなんて、魔法スキルよりそっちのスキル活かした方がいいんじゃね?」
と悪意満載の口調で言い放ってきた。
彼女にとっては嫌味で言ったのだろうが、私にとってはちょっぴり誇らしげな言葉だった。
あの絶体絶命の環境下でも、私のステルススキルは遺憾無く発揮されて、遂には存在を消したという証言を得たのだから。
本当にその人間ステルス性能で諜報機関にでも入った方が能力を活かせるであろうことは自分でもそう思うのだけど、私はそういう別の道を選べない。
魔法学校に入学するのを拒む私に、父が説明したところによると、ご先祖さまはこの調合師という魔法技能を開発した、いわば開祖で、当然そのノウハウも我が家には代々受け継がれているという。
魔王を倒した英雄も、我が家に伝わる調合師の魔術を駆使して偉業を成し遂げたと言われており、その魔王討伐の際に用いた調合レシピは門外不出の禁レシピとして家のどこかに封印されているらしい。
なので、有事の際はそれらを使用しないといけないのだろうから、多少でも調合魔法の勉強はしとかないといけない、ということでの王の勅命で、我が家系のみ特別待遇で試験免除で入学を許されているのも慣例として存在していると言っていた。
「そんな禁レシピなんて使う機会なんてないのに」
そう思いながら、荘厳な化粧室から出ると、
きっと鈍臭い地味な私を笑っているに違いない。
優遇措置で無能なのに入学している身にしてみれば、当然妬みも買う訳で、特に美人で優秀な坂倉さんとその取り巻きは何かとおちょくりを入れてくる始末。
彼女らには私の巧みなステルススキルも何故か通用せず、確か学校に入って初めて話掛けられたのも坂倉さんだった。
「お前、その顔で名前が魔王倒したのと同じだけど親戚か?」
などと、初対面なのに決して上品ではない言い方でいきなり訊いてきたのだが、その時には既に彼女は取り巻きを従えて行動をしていたので、これ以上関わるのは危険と本能で察知し、思わず小刻みに顔を横に振って否定したりしていた。
しかし、やがて無能な私が超難関学校に存在するのを周りは不審がり、名前も英雄と同じということもあってか、次第に血統の優遇措置で入学出来たのではないかという噂が流れ始め、その頃に再び坂倉さんに、
「やっぱ子孫なんだろ?」
と訊かれた時は下を俯くだけだった。
今覚えばそれで英雄の子孫というのがバレたからであろう、私は坂倉さんとその取り巻きに色々からかわれだして、まぁイジメとかまでではなかったので、あの美人の彼女に関われる方のメリットが上回っていると若干思ってしまっていたので、よしとしていた。
最近までは…
そう、あるきっかけの
口調もキツくなり、そのせいで周りからも注目を浴びることになって、もうほんとこのままだと学校には来れないと思う程にまでなりそうな感じだった。
そのきっかけとは、ある男子がやたら話しかけてくるようになったからである。
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