01〜地味で不細工な少女は隠れたい!

魔法の発達で栄華を誇っていた大陸の国々を、滅ぼす寸前にまで追い込み、更には東の最果ての天乃国にまで侵攻してきた魔王アリズと魔の民が、時の英雄、山本に討ち倒されて400年。


今日は、その魔の民侵略戦争の戦勝記念日の式典が王都の戦勝記念公園内で行われる。


400回目の節目ということもあってか大いに盛り上げようと、国を上げてのキャンペーンなどで、討伐当時の戦争が題材の映画の上映や、伝記の本なども盛んに出版されたり、街も横断幕やら小さい催しで盛り上がっていた。


「はやく帰りたい…」

私は朝から憂鬱最高潮で地味めの服で何とか目立たないように、両親の陰に隠れるように椅子に座っていた。


しかし、今いるその会場の一番目立つど真ん中で、周りが式典のためにきらびやかなドレスや礼服などで着飾っている中、どこに売っているのか謎なくらい地味な無地の服に、何も飾らない肩まで伸びた黒髪、化粧すらしていない顔にとりあえず付属品として付けられたような目鼻口、身体も女子の特徴が視認出来るものでもなく、身長も高くない、敢えて言えば乳首の色は綺麗なのだけど他人に見せつけるものでもないので無意味な、地味さ全開状態の女じゃ返って目立っているような気がしてならない。


優羽ゆう、何なら帰っていいぞ、お前くらいいなくても誰も気づかないだろ」

と父親が気を遣ってるのか馬鹿にしてるのか分からないようなことを言ってくれるも、隣の母は

「一応、直系の子孫の1人なんだから、カメラだって撮ってくるに決まってるから、いないとダメでしょ」

などと更に憂鬱を加速させるようなことを言う。


そう、私の家系は400年前の魔王討伐をした英雄山本の直系の子孫で、毎年謎のセレモニーに呼ばれているのだけど、今年は節目の記念で、意味もなく盛り上げようと壮大な会場での式典になっているため、そのど真ん中一帯に英雄の一族末裔が、そして更に目立つ中央に直系の子孫の私たちの家族が陣取っている。


目立ちたくない私にとっては、拷問のような環境だ。


末裔の席の前には式典に呼ばれた貴族や、更に後方には市民がこちらと向かい合うように座っている。

そんな中に、私が通う魔法学校の生徒も招待されていて、同じ調合師クラスの級友の姿も確認できた。


「ああ…明日学校でからかわれるのかな…」

全世界に放送されるらしいこの式典で、一番目立つ場所に座らされているのだから、当然知り合いも私を見つけるだろう。


案の定、教室、いや学校で一番人気の美人の坂倉さんがこっちを指差して笑いながら、隣の人と喋っている。


彼女の瞳は大きくて何か輝いて見えるし、鼻筋もよく、唇さえも桜色でキスしたら気持ちよさそうなぷっくり感。

それに綺麗な長い髪はいい香りがするし、背も高くスタイルもいいし、同性の私でもあの人に告られたら妊娠しそうな雰囲気を醸し出してる程の美人。


そんな美貌を武器にクラスのヒエラルキーの頂点に立つ猛者の彼女は容姿だけでなく、成績もよく、調合できるレメディも多岐に渡るので、美貌がなくても教師からは一目置かれている存在だったりする。


地味さマックスで調合レシピ通りに作っても薬効が全然な私とは対極な存在だ。


しかも彼女はそんな私を完全に見下していて人間扱いさえしない、それは多分、出生に対して嫉妬心があるからだと思っているが、こんな英雄の末裔なんかより美人で聡明な方が遥かに羨ましいのに、何なんだろう。


マジで私は英雄の直系の子孫という恩恵など一切感じたことなどないのだ。


幼年の頃から、そのせいで当然注目もされたりしてきたのだけど、そんな系図の上の方に英雄がいるというだけで能力を会得する訳もなく、どちらかというと普通の人より若干鈍臭いところもあってか、無能とか、魔法スキルないの?などと嘲笑の的にされてきた。


小学生の時には、そんなことが嫌で先祖のことなど一切触れていなかったのに、先生が話題に出すものだから変に注目されてしまい、

「レメディ作れるの?作ってみて!」

とか

「魔王に恨まれてるから復活したら襲ってくるぞ」

と脅してきたり、英雄の家系に入りたいからと幼女趣味のおっさんに、

「結婚してくれ」

などと言われて、警察に連行されるのを見届けたこともあったりと、本当に辟易する毎日だった。


しかし、人は環境に順応するもので、血統ゆえに注目を浴びてばかりの毎日を過ごすうちに、次第に自然に人の視線から身を隠すようなステルス機能みたいな謎の特技を私は身につけていたのだった。


そんな中、私は進学も一般の普通の学校で、一生地味に生きようと誓うも、父は

「魔法学校に進学させろとの王の勅命が下ったぞ」

と言い放って、本人の意思など関係なしに無理矢理その学校に進学させられる羽目になるのだが、その魔法学校というのは名門中の名門、そこに入るために幼年期から勉強漬けで過ごしても試験に受かれば奇跡と言われるようなところであった。


ただでさえ血筋で注目浴びるなか、そんなとこに入ったらどうなるか。


英雄の直系の子孫が最難関の王立魔法学校に進学!


私が関係ない第三者なら、やっぱ英雄の血統は凄いんだなと、可愛くておっぱいも大きいんだろうなと、ちょっとよこしまな野次馬根性が出てきて、どんな凄い人なんだろうと思っても不思議じゃない。


なので、好奇の目が自分に向けられるのは分かりきっているから、自己防衛のために幼年時から磨いてきたステルススキルを遺憾なく発揮して学園生活をすごしていたのだけど、それが功を奏してか特に誰とも会話はする機会はなく、いや例の坂倉さん一派にはからかわれていたのでそれ以外だけど、とにかく魔法学校ではある程度、平和を満喫できていたのだ。


しかし、今は違う。

全世界に映像を流すべく、TVカメラがいやらしくも私を狙って撮ってくるのは火を見るよりも明らかである。


ステルススキルは相手の視線を立体座標で予測し、何かの陰に隠れたり、視界外へ逃れたりするのだが、カメラ相手にそれが可能なのだろうか。


そんなことを思いながら、いよいよ式典が始まろうとしていた。

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