第11話 湯滝廃村迷宮
砂浜で丸一日眠り、潮風ガビガビの体で最寄りの駅から市街地へ。
動けないぐらいボロボロの疲労が残るかと思いきや、案外なんだか動けてしまう。これも異能の力なのかな。
ネカフェでシャワーを浴びて、店内のパソコンでニュースを確認する。
「過激派テロ組織フリー・ムーンが船に爆弾を……。なるほど」
本当にテロだったらしい。
「あれ? 死者ゼロ人?」
どのニュースを見ても、全員が救助された事になっている。
俺は行方不明になってないとおかしいのに。
きな臭い。意図的な隠蔽っぽいぞ。
「……名前とか、変えたほうがいいかな……」
艦隊を持ち出してまで俺を殺そうとしてきたんだ。
まだモチヅキに追われてるかもしれない。
なるべく痕跡を残さないようにしないと。
うまく生きてることを隠せば、俺は死んだと思ってくれるかもしれない。
実際、あんなことしたら普通は死ぬ。
「俺が生きてることを隠すためには、クレカも俺の銀行口座もダメ、か……モチヅキ系の銀行だもんなあ……健康保険もSIMカードもダメ……」
財布の中身を確認する。一万円と少し。
普通のバイトも出来そうにない。給料が振り込まれた瞬間に生存がバレる。
現金を手渡しで受け取れるような仕事が必要だ。
「探索者、しかない」
山深くにある無名の迷宮なら、見張りも監視カメラもなくて誰でも素通りみたいなケースがよくある。こっそり行けばきっと平気だ。
迷宮からのドロップ品を売るときだって、大手の店は身分証明が必須だけど、何も聞かずに買ってくれる怪しげな店も無くはない。
ネットにはドロップ品を転売してる個人の(違法な)転売屋が大量にいるから、そういう怪しいとこを通す手もあるし。きっと正体を隠したままでも稼げる。
「よし、調べてみるか!」
ネカフェのPCでインターネットを巡り、無名の迷宮情報を探す。
〈迷宮庁〉の官僚っぽいサイトの奥深くに置かれている迷宮一覧表のpdfをダウンロードして、いい感じの迷宮をまとめている個人サイトと見比べ、最も人気のなさそうなところを探す。
「お、これなんかいいんじゃないか?」
〈湯滝廃村迷宮〉、迷宮スケールMⅠ。
廃れた迷宮をレポートする個人サイトに、ここを扱った記事があった。
山中の廃村に現れた迷宮で、巨大なゴーレム系の敵と四足獣が多く、
ごくまれにミスリル等の希少魔法鉱石がドロップするものの、迷宮内の地形が悪いせいで重たい鉱石を運搬するのが難しいみたいだ。
「〈重力操作〉があれば地形は問題ないし、人と会う心配もなさそうだし」
ここなら目立たないはず。完璧だ。
よし、行くか!
- - -
一日に数本しか走らない小湊鉄道に乗り、一日数本しか出ていないバスに乗り換え、山の駅がある田舎道で降りて徒歩で一時間少々。
風光明媚な渓谷をこっそり重力操作で飛び越えると、目的地の廃村があった。
昭和の匂いが漂う木造家屋はボロボロに荒れ果てて、探索者たちの残したゴミが室内に散乱している。そのゴミですら古臭くて、十年以上前のものだった。
軒先に座って一息つき、持ってきたレジ袋を広げた。
100均で揃えたアウトドアセットに、水と食料。
本当はレジ袋じゃなくてバックパックで運びたいけど、お金の都合で諦めた。
……ミツキさんのバックパック、座席の荷物入れに放置しないで借りればよかったなあ、なんて今更後悔するけれど、手遅れだ。もう海に沈んでるだろうな。
「ここを拠点にするか」
廃屋を軽く片付けてレジャーシートを敷き、1000円の激安寝袋を置いてみる。
まあ……腐りかけの家がギシギシ鳴ってて落ち着かないけど、屋外よりはマシかな……。
屋外でパスタを作って腹を満たしてから、俺は地面に開いた穴へと飛び込んだ。
地面まで五メートル近い、深い穴だ。ロープがなきゃ出入りも出来ない。
重力操作が使えなかったら、入るだけでも一苦労だな。
無重力状態で空中に浮かび上がって、100均ライトで奥を照らす。
切り立った崖みたいな地形が延々と続いていた。こりゃ、誰も来ないわけだ。
「よーし。やるか、異能のテスト!」
重力操作でどうやれば戦えるのか、具体的に何が出来るのか。
検証を始めるとしよう。
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