第12話 異能検証
迷宮の中で、俺は異能の実験を開始した。
まずは〈重力操作〉を全開にして、真下への重力を発生させる。
「何も変わらないな」
月で試した時と同じく、全力でも1G。地球と同じ重力が限界みたいだ。
「次は力を緩めて……っと」
だんだん重力が減っていき、最終的には無重力状態が生み出される。
立ったまま全身の力を抜いて、軽くリラックスした。
フカフカのベッドで寝てる時よりも快適だ。寝てる間も無重力を維持したいぐらい。
「じゃ、次は範囲の検証だ」
地面に500mlのペットボトルを置き、重力操作で空へ浮かび上がる。
一緒にペットボトルも浮いた。重力が効くのは俺だけじゃない。
徐々に距離を遠くしていき、具体的な範囲を確かめる。
「だいたい半径1.5メートルの球体、ってとこかな?」
ほどほどに広い。
範囲のギリギリに重いものを浮かべ、重力操作で敵を掠めるように特攻すれば、きっと大威力の攻撃ができる。
……ただ、迷宮の中だと真価を発揮するのは難しそうだ。
加速に瞬発力がない。
体感だと、自転車のトップスピードを超えるのに1秒近く掛かる。
「範囲を小さくすることは出来るのかな? ……んぐっ!?」
出来た。お腹のあたりだけが無重力状態になって、とっても気持ちが悪い。
浮かび上がる方向に重力を掛けてたら色々ヤバかったかも。
俺が範囲の中心なんだから、あまり小さくすると境界線が体に来ちゃうな。
「よし、あとは……」
重力操作の対象は自分だけなのか。
それとも、遠くの重力も操作できるのか。
今は何となく本能で使ってる異能だけど、もう少し細かく意識してみよう。
俺が異能を使ってるとき、全身の血がじわじわ発熱していくような感覚があった。
そういえば、あんまり無理すると血が沸騰することもあるんだっけ。
それで死んでた可能性もあると思うと、ぞっとする……。
ともかく、異能を強めたり弱めたりして感覚の変化を探る。
「なにか……中心がある……?」
重力操作の始動時に、体のど真ん中から力が広がっていく感じがある。
これが異能の中心なら、中心を動かしたらどうなるんだ?
「ふぬぬ……!」
重力の中心を掴んで動かすようなイメージで、頑張って力を込める。
すると、範囲外に置いてあったペットボトルが倒れた。
「お!」
不安定だけど、範囲をまるごと動かせた気がする。
「ふぬぬぬぬ! ぬぬぬ!」
発生の中心を必死にずらす。パントマイムしてる気分だ。
「ぬー!」
3メートル近く遠ざけたペットボトルが、重力の変化で揺れる。
「ハァ、ハァ……これが限界かな……」
重力の発生範囲が、そのまま中心を動かせる範囲の限界にもなってる。
つまり、半径1.5メートル球の範囲内ならどこからでも重力を生み出せるってことだ。
鍛えてけばもっと広くなるかな?
「よし。能力は分かった。あとは戦い方だ」
さあ、考えろ。
俺ごと重力操作で飛んでって殴るのが一番簡単だけど、危険だ。使うとしても奥の手。
むしろ俺が入らないよう重力を発生させ、何かを打ち出すのはどうだろう。
「よし、やってみよう」
前方のギリギリ1.5メートル地点を中心にして、わずかに小さい半径1.4メートルぐらいの重力操作を実行する。重力の向きは前側だ。
ペットボトルを範囲に入れて手放せば、グイグイ前方へ”落ちていく”。
野球部のピッチャーよりは遅いかな、ぐらいの速度だ。
「100kmってとこか。重い物なら威力は出そうだけど、魔物を一発で殺すんならもう少し威力が欲しいな……うーん」
例えば昔の大砲みたいな鉄球を飛ばせれば、これでも威力は出るけど。
速度が遅すぎて回避されそうだし。
「他に何か手があればなあ……」
ペットボトルの蓋をひねって水分を補給しつつ、頭もひねる。
「……?」
蓋を閉めた時、もう少しで何かを思い付けそうな気がした。
まじまじとペットボトルを見つめる。実験に突き合わされてボコボコだ。
意味もなくペットボトルを投げ、くるりと回転させてキャッチする。
「……回転!」
俺は大急ぎで地上に戻り、100均のロープを携えて帰ってきた。
ペットボトルにロープを結びつけ、手でロープを握る。
「重力操作の中心と向きを操作して、うまいこと回転させてやれば!」
投げ縄みたいな要領で一気に加速させられる。
「っていや、それ手で回転させれば済む話じゃん」
手で回せないぐらい重い物じゃないと意味がないけど、そんな重いもの回したらロープ持ってる手が耐えられない。
……手で持たなければいいのか?
「杭みたいなやつを地面に突き刺して、それを軸にぐるぐる回して……」
ダメだろ。準備に時間が掛かりすぎる。攻城兵器じゃないんだから。
「ん~~~~」
絶対に最強の能力なのに、使い方が思った以上に難しい。
月から地球に飛んでこれる能力が弱いはずないんだけどな。
空を飛べるってだけでも可能性は無限大のはずなのに。
「あ、そっか。空飛べばいいのか」
この洞窟、足場が悪くて立体的だ。その分だけ上下の空間は広い。
「単純に、重いものを抱えて空飛んで落としちゃえばいいんだな」
ちょっと前に飛びながら落とせば、安全な距離から一方的に攻撃できる。
何より安全なのがいい。失敗してもやり直すだけだ。
「よっし、空から物を落とす攻撃をメインにするか」
使えそうなアイデアは、今のところ二つ。
・空から攻撃する落石戦法
・前方へと重い物を飛ばす射出戦法
空を飛べる時は、一方的な爆撃を繰り返す。
それが無理で戦わなきゃいけない時は、とにかく重いものを射出する。
「……なんか地味だな……空飛んでるのに地属性っていうか……」
ま、戦い方にこだわりはない。
どれだけ格好悪くたって、探索者になれれば俺は満足だ。
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