第6話 関東サポート犬育成会に引き取られたあんず 🙆‍♀️




 それからあっという間に二日が経ち、あんずの命も数時間という日のことだった。

 なにか建物のおもてが騒がしくなったと思ったら、まぶしい光が射しこんで来た。


 見慣れない人間たちが、逆光の向こうに、黒いシルエットを浮かべて立っている。

「どれどれ、どんな子?」長い黒髪をまっすぐに垂らした、若い女性が問いかける。


 ためらいなく腕を伸ばして来る女性に、あんずもまた、ためらいもなく飛びつく。

 女性の胸はあたたかくて、甘く、やさしい匂いがした、かあさんとおんなじ……。


「まあまあ、こんなに喜んでくれて。……ん? 首輪にプレートがついているわね。『ANNZU』へえ、あんずちゃんっていうんだ~、この子にぴったりの名前だわね」


 あれよあれよという間にあんずは女性に抱かれて乗用車の後部座席に乗っていた。

 あんずにはわけが分からないが、女性がいい人だということだけは分かっていた。




       *




 ふつうの民家にしか見えない玄関先には「関東サポート犬育成会」の手書き看板。

 古びた板塀には、青いガウンをまとった白い犬のシンボルマーク&犬たちの写真。


 女性の腕からおろされたあんずは、先輩犬たちの荒々しい歓迎を受けてびっくり。

 白、黒、茶、まだら……いろいろな被毛の犬たちがすごいスピードで走りまわる。


 女性が手を叩いて「は~い、そこまで」と言うと、みんな置き物になった。(笑)

 叱られても楽しそうに息を弾ませている犬たちを、あんずはすぐに好きになった。


「さあ、みんな、今日から仲間に入ったあんずちゃんよ。仲よくしてね」女性に言われた犬たちは、かしこまってお座りをし、てんでに両方の耳をピクピクさせている。


「ここは身体の不自由な人たちのお手伝いをする、サポート犬の養成所なの。みんな辛い過去をもった子たちばかり、とてもフレンドリーなの」これはあんずに言った。




      *




 その日から、あんずは養成所の生徒になった。

 先生は三人いて、みんなやさしい女性だった。


 髪の長いかおり先生によると、サポート犬候補には素直で賢い子が適しているが、ひとり残らず信頼していた人間に裏ぎられ、心身に深い傷を負っているのだという。


 だから先生たちは、傷ついた犬たちのかあさんになって、昼も夜も一緒に暮らし、心の底から慈しみ、怯えたり警戒したりしていた犬たちの心を少しずつ開いていく。


 あんずはすぐにみんなと仲良くなった。

 それぞれの生い立ちや個性も分かった。


      😊


 ボブ:カラスとゴミ箱漁りを競っていた黒いミックス。人(犬)一倍、志が高い。

 ネム:栃木の山中を彷徨っていた白いミックス。広報のデモンストレーション犬。

 ポン:真夏の海岸をふらふらになって歩いていた茶色い雑種。バイクが大きらい。

 メグ:高速道路を歩いていた、白に黒ブチの小型犬。ぬいぐるみにまちがわれる。

 ベル:まとめて袋に入れて保健所へ連れて来られた柴の雑種。自己肯定感が低い。


      🥰


 まあ、そんな感じで、意欲満々の子から、オドオドしてばかりの憶病な子までいろいろだが、もしサポート犬になれなくても大丈夫、一般家庭で引っ張りだこだから。




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