第4話 繁華街で意地悪な酔っ払いにいじめられる 🌃




 とつぜん大声が降って来たのは、コンビニのゴミ箱に頭を入れているときだった。

 水色の制服のお腹を突き出した大男が、腕を組んで、あんずをにらみつけている。


 あんなにひどい目にあわされても人間の悪意を疑わないあんずは、人恋しさによろこんで近づいて行ったが、大男は慌てて後ずさると、図体に合わない悲鳴をあげた。


「うわ、なんだよ、おまえ、文句あんのかよ? おれは犬が大っきらいなんだ。しっしっ、こっちへ来るんじゃないってば。うろちょろしていると保健所へ通報するぞ」


 あんずは大男がなぜ怒っているのか分からなかったが、悲しくなって歩き出した。

 しばらく行ってから振り返ってみると、仁王立ちの男が拳をふり上げて威嚇した。




      *




 にぎやかな通りに迷いこんでいた。

 大勢の人間の男女が集まっている。


 ジャズやロックや、演歌やボップスが入り乱れながら大音響でがなり立てている。

 はじめての光景に驚いたあんずは、慌てて居酒屋の立て看板のかげに逃げこんだ。


 目の前を通り過ぎるたくさんの足をふるえながら見ていると、千鳥足でやって来た紺スーツ姿のふたり連れが「へえ、おもしろいものを見つけぞ」のぞきこんで来た。


 おいでおいでと手招きされたので、あんずは期待に満ちて這い出て行ったが、そのとたんにひとりの男が豹変して「うす汚い野良犬野郎が!」革靴で蹴り上げてきた。

 

 とがった靴先がやわらかなあんずのお腹に容赦なく食いこんでくる。「おい、もうその辺にしておいてやれよ」連れの男が止めてくれなかったらどうなっていたろう。


 すきを見て逃げ出したあんずは、繁華街のはずれの公園を目ざし一目散に走った。

 ポプラの幹に隠れて男が追って来ないのをたしかめると、やっと身体を横たえた。


 芝生は懐かしいかあさんだった。

 ひなたとおっぱいの匂いだ……。


 東山の上に赤い月が顔を出していた。🌖

 かすかな風が起きて、ブランコがきしむ。


 かあさん、かあさん……どこにいるの。

 あんずは赤い満月に呼びつづけていた。




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