第3話 野生犬・ジロに助けられて街を目ざす 🐶
渓流の水を飲み、昆虫や小魚を食べ、まだら模様のあんずはどうやら生き延びた。
ある日、あんずは向こう岸の岩かげに、チラチラ動く、茶色っぽい影を見つけた。
その生き物は黙ってあんずを見ていたが、やがて巧みに岩を跳んで近づいて来た。
痩せて尖った顔をしているが、明るいとび色のひとみがやさしい光を宿している。
やわらかに垂れた両の耳を頭のよこにぴたりと張りつけたあんずは、針金のように固く細くしたしっぽを両足のあいだに巻きこみながら、するすると近寄っていった。
自らジロと名乗った犬は「きみも被毛に斑点があるおかげで、高く売れないからと捨てられちまったのか、まったく人間どもの強欲ときたら!!」一緒に憤ってくれた。
「だが、そんな目にあってもまだかあちゃんが待っているシャバへもどりたいのか」さびしげにつぶやくジロの母は、病気で金がかかると処分されてしまったのだとか。
*
親切なジロの案内で谷間から這い出ると、かっとばかりに太陽が照りつけて来た。
里へ出る道まで送ってくれたジロの目に光るものを見たあんずの胸は熱くなった。
天涯孤独のジロはこの深い森で、これからもひとりで暮らしていく覚悟だという。
うしろ髪を引かれながら歩き出したあんずの足取りは、しだいに速くなっていく。
しばらく走ると、三差路に出た。
かあさんはどこにいるんだろう。
あんずは右を見たり左を見たりと迷ったが、お日さまに近い左を選ぶことにした。
けれど、どんなに一所懸命に走っても、どこまでも知らない風景がつづいていた。
足は痛くなるし、おなかはペコペコで……あんずは、だんだん不安になって来た。
いつの間にか夜がマントを広げ始めており、はるか遠くに明かりがともっている。
まるで夜空の星が、ひとつ、またひとつと降って来たみたい、きれいだが心細い。
はなやかなイルミネーションに吸い寄せられて、あんずは街へとくだって行った。
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