第10話_この杖つえー(なんちゃって

地下へ続く螺旋階段を下りた先には想像以上に大きな空間が待っていた。

街中の公園ぐらいの広さがある。

お店の地下にこんなに広い空間があるなんて。


壁際には様々な形状の杖や不思議な装飾品が飾られている。

奥には金属製の鎧フルアーマーがスタンドで固定されている。

一瞬誰かが鎧を着て立っているのかと思ったが、周囲を見る感じ、魔法を試し打ちした際の的として使われるマネキンのようだ。


詰まる所、ここは射撃訓練場の魔法使いバージョンといったところだろうか。


「お主、杖は初めてかね?」

  

  [はい]

  [いいえ]


はいを選ぶ。


「なるほど。確かに指輪は軽く、かさばらない。だが、杖にも良さはある」

そういうと、店主は壁際の一本の杖を手に取った。


「この杖はクイックスペルの効果を付与している」

店主に手渡された杖を持ってみると意外と軽い。ダイヤル式のUIを触ってみると滅茶苦茶スムーズにダイヤルが回る。例えるならなめらかなベアリングを回しているような感覚だ。なるほど、これが[クイックスペル]か。


改めて左手のダイヤルを操作してみると、一マスずつクリックがついているようにカチカチと回る。まあこれはこれで好きなんだけど、速さで言うとクイックスペルの方が勝るだろう。


「こっちは遠距離の狙撃用レンズを付けた」

入れ替わりに渡された杖には、先の方に無数のリングが取り付けられている。

リングは可動することが出来て、複数のリングを重ねると望遠鏡のように遠くの物が大きく見える仕組みのようだ。

うーん、なかなか面白いなぁ。


「こいつは疑似的にデュアルエンジンを再現している」

また新しい杖を渡された。


「これは杖に魔石を複数つけることにより、魔法を即時発動させず待機させておくことが出来る」

視界には[EXメモリー]と書かれたスロットが表示されている。これは【悠久の杖】にも特性としてついてたな。


「指輪は、そのサイズの都合からあまり色々な特性を付与できない。しかし杖は自由だ。一本と言わず数本持っておくと、状況に応じて使い分けができて便利じゃぞ」


なるほど。装備できるのは[デュアルエンジン]のスキルを持っていても2本が限界だが、アイテムとして持ち歩き、戦況に応じて装備を切り替えて戦うことが出来るわけだ。


「ここは試し撃ちもできる。ゆっくり見ていきなされ」


「ありがとうございます」

ついお礼を言ったが、よく考えればNPCは音声認識に対応していない。

そこまでできればまさに最強のゲームだったのだが、流石に無理だったようだ。


その後、色々な杖を見てみたのだが現状で強いと感じるのは[EXメモリー]のスキルだ。例えばこのスキルを持つ杖を5本持っていれば、MPが0であっても装備を持ち変えるだけで5連射することが可能だ。それに加えて僕は[デュアルエンジン]が使えるため、MPさえあれば最大7連射が可能となる。

このスキルが弱いわけがない。


ただ、当たり前と言えば当たり前なのだが、このスキルを持つ杖はそんなに多くは無い。上昇するステータスが低いなどのデメリットもあったりする。


それ以外で気になったのは[強制発動]というスキルだ。

本来、魔法はMPが無ければ発動できないし、ダイヤルの組み合わせが不成立でも発動できない。

しかし、このスキルがあれば、MPの代わりにHPを消費し、不成立の魔法も強制的に発動できる…らしい。ただ、無理やり発動しているので、もちろん通常より威力は落ちてしまう。

ようは、緊急時に魔法が不発になることを避けることが出来るようだ。

いらないかなぁと思いつつ、一本持っていると安心感はある。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る