第2話_ワールド生成

ソフトを起動すると、真っ暗な空間にタイトルロゴが立体的に表示された。


それに触れてみる。するとプロフィール入力フォームが手元に現れた。


フルダイブ自体は事前にテストしていたので初見ではないが、やはりは不思議な感覚だ。


現実の体は一切動かしていないのにゲームの中では現実と同じ感覚で動かすことが出来る。VRとも一味違って、最初は慣れるのに苦労した。

現実の体を動かさずに、ゲームの中で歩くことが出来れば一人前だ。ちなみにコントローラや入力デバイスは一切ない。全てがフルダイブによる操作で完結する。


さて、まずは名前か。何にしようかな。


とりあえず、[米俵 丸太郎]にした。いつでも変更できるようだし。


他には身長、体重、住んでいる地域、趣味などなど。


事前に調べたネットの記事によると、ここでの入力内容もゲームの生成に影響するらしい。


次々に入力していくと次は外見のエディットになった。


これも近年のゲームでは楽しみの一つとなっている要素だ。現実の顔に似せるか、理想を追い求めて美化するか、完全にネタに走るか。


どれも魅力的だが、友人ともやる予定だし、現実の顔ベースで作っておこう。

これには時間がかかったが、何とか完成。


[次へ]のボタンに触れると急に周囲が暗くなった。


「ほう、君が米俵 丸太郎か」


空から声がする。どうやらいよいよゲームが始まったようだが、名前のせいで台無しだ。思わず笑ってしまった。


「ここはエクストラ・アース。もう一つの世界だ。君が生まれた場所も一つの世界だが、ここは君が生み出した世界だ」


徐々に視界が明るくなる。そこは広々とした草原だった。


視界の角に[脳波スキャン中。ダイブギアを外さないでください。]とメッセージが点滅している。


今まさに世界が作られているのだ。


「想像するのだ。君が旅する世界を」


空から聞こえる声に促されて目を閉じる。


僕が行きたい世界。それはやはりファンタジーの世界だ。僕は魔法使いで他にも様々な職業になれる。時には竜に乗って空を飛び、人に害をなす魔物を倒す。

そんな王道ファンタジー………だけでは物足りない。


地上を旅するだけだなんてレトロゲーで散々味わった。時代はスペースオペラ!

魔法使いたちはその技術を使い宇宙に進出。ビーム兵器は無いが、魔砲はある!

なんだかワクワクしてきたぞ。これは超大作だ。


ゆっくり目を開くと、そこは中世ヨーロッパのようなデザインの都市だった。その裏路地のようなところに僕は立っている。


空を見上げると、建物の合間から青空が見えて、そこをいくつもの飛行艇が飛んでいるのが見えた。


「君は世界中だけでは飽き足らず、宇宙までも旅する魔導師、米俵 丸太郎」

あかん、いい感じの導入なのに名前のせいで急にギャグ作品になる。


「君の目的は世界征服。この世界を己の色に染め上げること」

米だらけになりそう。


「その方法は一つではない。仲間を集めて武力で勝ち取るもよし、圧倒的カリスマで政治的に統治するもよし、財を成して経済を掌握するもよし。全ては君次第だ」

おお、ということはマルチエンディングか!いいねぇ。


「さあ、進むがよい。君の旅路に祝福を…………」


その声が消えると、徐々に周囲の喧騒が聞こえてきた。なかなか賑わいのある街のようだ。


自分の体を見回してみる。旅人らしいラフなカッコの上に魔導師っぽいローブを羽織っている。


そうそう、これだよ。

こういう世界を旅してみたかったんだ。


  


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る