3章 火の森と解放

1、獣人の街と迷子

「はぁっはあっ、どうしてっ!?どうしてなんだよっ!?」




 深淵の森を駆け抜け、村へと急ぐ。



 アイツらが裏切るなんて。


 守ってくれるって言ったじゃないかっ!助けてくれるって、約束したじゃないかっ!


 悔しいっ。あんなのを信じたアタイが、馬鹿だった。


「みんな待ってろよっ、いまっ、アタイがっ、助けに行くからっ!」



 草木をかき分け、走る、走る。もう少しで、開拓場に出る。そこまで行けば、あと少し。



 おかしい。


 いつもなら‥‥、魔物の気配がない。


 もうすぐ、森を抜ける。もうすぐ、というところで、ものすごい熱風が身を焦がす。


「熱っっっっ!!!」


  

 森を抜けた。魔木が伐採された広い空間に出た時、目に飛び込んでくる、正面は、赤。


 一面の、赤。




「も、森が‥‥、燃えてる」





 俺たち4人と1匹は、ライオネス国の火山から一番近い街、ソーダルの街に到着した。



「やったぁっ!ライオネスに到着っ!」


「らいおねすー!」


「キューっ!」



 この街に入ってからずっとハイテンションなのは、一緒に日本から召喚された勇者で警備員の唯、元魔物で俺の手品アシスタントでもある猫娘のフェリ、仲間を探すため仲間になった鳩でドラゴンのハクだ。

 


「うわぁっ!獣人さんばっかだよっ!シッポがかわいいっ!」


「ほらっ、あんまりジロジロ見ないのっ!

 私たち人間だって、ジロジロ見られたら嫌な気分になるでしょ。

 ただでさえ私たち、目立ってるんだから」


 セシリア王国からお休みをもらい俺たちと一緒に行動する鑑定治療師のねねが、獣人のシッポにはしゃぐ唯をなだめているが、いやいや君もさっきからソワソワしているのを俺は知っているぞ。



 この世界の獣人族の体は、人間ベースである。各種族の特徴が耳やシッポ、肌などに現れている。


 例えば魚人の人たちは肌に鱗があるし、皮膚の色も多少だが銀色だ。指の間に水かきの名残が存在する。

 熊の獣人は、体つきが他の人より大きく、パワータイプの人が多いそうだ。


 顔だけ魚の魚人とか、全身が毛に覆われた羊人とかは居ない。

 

 ちなみに、牛や馬などの家畜、街の中にネズミやペットの猫、犬などはいる。

 野生の鳥や動物も存在するのだが、大きい動物はほとんどが魔物だ。

 獣人さんを動物と間違えるなんていう失礼なことは起こらない。

 

 

 この世界には種族間のいざこざみたいなものや差別も無いので、例えばドワーフとエルフは仲が悪いみたいなこともない。

 人によってはあるかもしれないが、言い換えれば、そこまで種族にこだわりが無いかもしれない。


 なのに、種族間の交流は全くない訳では無いが極端に少ない。

 人間の国での交流は盛んなのだが、違う種族が別の種族の国にいるのは珍しいことである。


 種族別の結婚も多くはない。貴族であるサミィタミィの両親であるラミィさんとローズムーン伯爵のケースは稀だ。


 種族によってそれぞれ特徴がある。獣人は運動能力が高い。エルフは魔力と知識が、ドワーフは力と器用さが、竜族は魔力と力がそれぞれ長けている。

 人族はというと、能力は平均的なようだ。ただ、この世界人口の割合が一番高い。

 

 人が多いならば、歴史的に繰り返されてきた戦争が起きるのではないかという疑念を俺は持っていたが、今までに国同士での侵略や戦争も、記録上は無かったようだ。

 これは他の国々が協定を結んだり、監視をしているからとかではない。


 なぜか?それは、森が攻めてくるからだ。


 竜族の国シュラスが滅んだ理由は、エルフの国への侵略だと伝えられているからである。

 エルフ国へ侵略した結果、シュラスの国、国民、全てが森に消えたという話だ。


 

 まぁ、俺たちは国を奪ったり戦争したりすることは無いから、別にどうでもいいんだが。


 この国に来た目的は3つ。


 1つ目は日本に帰る手がかりのため。

 半年前にアルスタール王国で手に入れたこの右手の花弁を探すために、俺たちはこのライオネスにやってきた。


 2つ目はハクの同族探しだ。この国では、シュラスで繁栄していた飛竜が居るとのことだ。まだお目見えは叶っていないが。

 もしかしたら、シュラスの竜族の生き残りが居るかもしれない。


 そして、1番大事なこと。それは好きなことをやるっ!美味いものを食べ、やりたいことをやるっ!



 そのために半年間、コツコツ頑張ってきたのだ。スプーンマジックでのアクセサリーづくりを。

 まあ、付与術で頑張ったのはハワード商会のサムワン君なのだが。


 最近は、指輪以外のアクセサリーの完成度も上達している。


 ドル箱商品は、宝石の付いたミスリルのネックレスである。


 ハクの居た鉱山の一件から、この世界の鉱石、宝石について勉強した。

 サミィの薬の原料になったサンドライトは高価過ぎたし、魔力によってただの石になってしまっていた。

 しかし他にも様々な宝石が存在した。一部の石には、それ自体に不思議な効果もあったりする。


 ミスリルなどの希少鉱石を装飾品にするなんてっていう声も聞こえるかもしれないが、貴族様や金持ち連中に対してはすこぶる評判がいい。


 宝石の選定やカット、ミスリルスプーンの製造はハワード商会に一任してあるので、俺はそのスプーンを手品で加工するだけだ。

 制作者の名前は伏せてもらって、販売もおまかせしている。

 俺のところには、スプーン代や宝石代が引かれた手数料が入ってくる。ウハウハである。

 チートだって?いえ、これも技術なのです。


 その甲斐もあって、つい先日、ようやく手に入れたのがアイテムボックスの『マジックバック』である。

 長かった。これを手に入れるためにどれだけスプーンを触ったことか。


 金額は、なんと大白金貨90枚である。日本円で9,000万円。これでも安くしてもらったのだから驚きだ。

 ただ、価格に見合ってものすごく便利でした。

 

 見た目はウエストポーチぐらいなのに、中身は6畳の1部屋ほどの容量。

 そして、時間停止機能付き。これがあるかないかで値段が3倍違う。

 暖かい食べ物や飲み物が、そのまま保存されるというもの。


 

 俺も手品でこれと同じようなことが出来ないか試したことがあった。

 ただ、残念ながら諦める結果となりました。

 コインマジックでの移動するコインが時空を移動していると考えたのだけど、何度やっても瞬間移動でしかなかった。

 そうなんだよな〜。時間を止める手品なんて見たことがないんだよな。



 ちなみにこのマジックバックは唯が持ってます。

 1回フェリに持たせたのだけど、ギルドに忘れ物として届けられていた。

 

 まあしょうがないんだけどね。俺が頑張って、さらにスプーンを触り続けます。夢に出るくらいに。



「トモっ、聞いてるっ?」


「この感じはいつもの意味の分からないめんどくさい事を考えている顔よね」


 失礼な。もちろん聞いてなかったけど、何かあったの?


 見ると、唯がフェリではない猫の獣人の女の子と手を繋いでいた。



「なんかこの子、迷子みたいっ!!」

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