閑話3
「い、以上がセシリア王国での、ほ、報告になります」
とある庭園で、黒い木のベンチに座る女性に向かって男3名が、恐怖に震えながらセシリア王国での顛末を報告する。
「ふ~ん。で、失敗したってこと?ふ~ん?」
報告を受けていた女が、一番前の男をにらみつける。
「えっ?あがっ!ごがっ!」
女に睨まれた男の口から木の枝が生えてくる。枝はみるみる男の体に巻き付き成長していく。男の居た場所には黒い魔木が一本生えている。
「ど、どうかお助けくださいっ!も、森の聖女様っ、お許しをっ」
残りの男たちが森の聖女と呼ばれる女に命乞いをする。
「それくらいにしておやりなさい。貴重な人員なんですよ」
いつの間にか白い服を着た中年の男が立っていて、機嫌の悪い聖女をたしなめる。
聖女はやる気のなくなった表情になり、手で報告をした男たちを追い払う。
男2人は急ぎ足で庭園から逃げ出していった。
「あ~あ。やっぱこれって凄い無理ゲーじゃない?
魔力の高い勇者ってなかなか出ないじゃない?さらにプラス聖女よっ!警戒する前ならやれると思ったんだけどなあ〜。
今回のだったら、絶対に複数人は行けたよね?あ~、ダーリンが生き返るのはいつになるんでしょ?」
聖女の女はベンチに座り足をぶらつかせながら中年の男に話しかける。
「ふむ。相手の想いに任せるしかないですからね。直接手を下したり、こちらの想いが絡むと、我々の想い人は戻ってこないのでね。
ヒゲーラドルフの想いもなかなかのものだったのですが、やはり役不足でしたな」
中年の男は左手に着けた腕時計確認して、先程生えた魔木に近づく。
魔木は淡い光を放ち消えていく。その場所には先程の男が横たわっている。
中年の男は、倒れている男が息をしているのを確認して、背中に貼ってあったシールを剥がす。
「あ~、あのおじいちゃんね。勇者召喚されてから時間が経ちすぎだったんじゃない?
賞味期限切れってやつ。消費期限切れのほうかな?
ほかの国も、この国みたいに勇者召喚したときに記憶を改ざんしちゃえばいいのにね?
そうしたら勇者同士の下手な仲間意識も芽生えないからやりやすいのにな〜」
聖女の女は中年の男からシールを受け取り、ポケットにしまう。
「奮発してナノマシンと杖まで使ったのになぁ〜。痛い出費だね?
でもあの部屋は壊されずに済んでラッキーだったかな?
ねぇ~、ダーリンのアイテムって、あとどれくらい残ってるの?」
「ふむ。しっかりと確認はしていないのでね。君のほうが把握しているのではないのかね」
「う~ん、まっ、いいかっ。急いでいるわけではないし。そのうちなんとかなるっしょ?
下手に介入しちゃって、また国が滅んじゃったら元も子もないしね〜。
でもさ〜、代わりの聖女の娘、あんなに少ない魔力でよく戻ってこれたよね〜。
後々厄介かな?どうせハズレだろうし、先にやっちゃおうか?
良くて戻るの1人でしょ?確率的に次こそダーリンだと思うんだよね?」
話しながらニマニマ笑う森の聖女。中年の男は、軽くため息をつく。
「はぁ、やれやれ。それでどれだけ国内の勇者を潰してきたことか。
今は都合のいい駒となる勇者が見つかっていませんからね。
見つかり次第なら構いませんが、おっしゃるとおり、良くて1人でしょうな。
そろそろ時間なので、ここらでお暇しますよ」
そう言い残すと、中年の男の体はザザザーと音を立て揺れながら消えていった。
「わたし最近、オジサンの残像としか話してないんじゃない?
直接来ればいいのに。まぁ〜別に来てもつまんないからいいか〜?
ほんと、なんか面白いことないかなぁ〜?」
森の聖女はポケットからシールを取り出し、座っていた木のベンチに貼った。
ベンチが大型のバイクに変わり、聖女はバイクにまたがり、アクセルを吹かす。
「さ〜て、久しぶりに先生のところにでも顔を出して来ようかな〜?
では、聖女号で出発〜進行〜!」
聖女のバイクは音を立てて庭園を突っ切っていった。
「やれやれ。森の聖女様にも困ったものだ」
中年の男が、聖女に報告をしていた2人の男を引き連れて戻り、庭園に倒れている男を連れて行かせた。
中年の男は、腕時計を見ながらつぶやく。
「サチコ、お前はいつ戻って来れるんだろうな‥‥」
中年の男は、再び音を立てて消えていった。
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