閑話2
「うーん、そうだな〜」
聖女騒動が終わり、俺たちがアットサマリーに帰る前、高校生4人にも顔を合わせに行った。
4人の処遇はまだ決まっていないようなのだが、みんなまだ学生だ。
色々経験させたほうが良いと大臣には意見をつたえておいた。
「やっぱ、冒険者で行きたいっすっ!1日だけだったんですけど、異世界っていったら冒険だと思うんすよね〜」
竜也くんはバトルマニアまではいかないまでも、魔物の討伐に興奮を覚えたようだ。
確かに日本では経験できない高揚感だよね。持ちスキルとの相性も良いし、他の三人が一緒なら無茶はしないだろう。
香ちゃんと進次郎くんも同じ考えのようだ。
興奮度の熱量は香ちゃんが1番だった。意外とみんなを引っ張っているのは香ちゃんなのかもしれない。
そんな中、沙織ちゃんから悩み相談を受けた。この世界に1番盛り上がっていたはずなのだが、むしろ盛り上がっていたからの悩みなのかもしれないが。
■
「ここが錬金ギルドですっ。あっ、イダさん〜こんにちはっ。
いつもの部屋借りていいですか〜?」
沙織ちゃんに案内されて来た錬金ギルドは、冒険者ギルドとは違い綺麗な室内だった。
なんとなく調剤薬局に似ているなあ。いろんな素材がケースに並べられている。
「みんな必要な素材の費用を払って錬金するんです。あ、私は錬土術なんですけどね」
沙織ちゃんの悩みは、みんなと一緒に戦える力が欲しいというものだった。
「今回あんなことがあって、自分の力不足を認識したっていうか。
みんなに護られてばっかりだったんですよ。このままじゃダメだなって思って。
唯ちゃんに話を聞いたんですけど、三矢さんってぶっ飛、とんでもない発想で戦ってるって。
何か助言が貰えたらなって思ったんですけど」
まあぶっ飛んでいるのは正しいので否定はしないけど。
今回の一件で、自分のスキルでは襲撃があったとき役に立たなかったことを気にしていた。
とりあえず、沙織ちゃんが今できることなどを聞いていった。
□
「なるほど〜。いや〜驚いた。正直すごいと思うし、考え方はあっていると思うよ」
俺の目の前で土スライムが動いている。試行錯誤の中でも、1ヶ月でここまで出来るのは才能だな。
普段遣いのシャンプーや化粧水、石けんや洗剤。防犯用のスプレーやら刺激薬一式。効用は小さいとはいえ回復薬や治療薬。
唐辛子の爆弾やニオイ消しなんかもあるのか。
「教わりながらなんですけどね。補助的な物が作りたくて。
あとは私の知っている知識の中で形になったのがいくつかですけど」
生活品含めてみんなのサポート役に徹するためのアイテムが多い。
他の三人は攻撃的なスキルなので、そこを補える物を用意するのは悪いことではない。
あとは火薬が作れるようになったそうなので、ライフルとか銃器系で敵を倒せるようになれればと考えていたようだ。
素早く接近と回避をこなす竜也くんが近距離。
刀と飛ぶ斬撃でいなす進次郎くんが近中距離。
強力な魔法で蹴散らす香ちゃんが遠距離。
すでにバランスがいいんだよな。
なので特に銃の扱いに長けているわけではない沙織ちゃんが、中遠距離の鉄砲を扱う必要性がない。
銃は購入したとして、火薬は作れても弾は作れないからその購入費用がかさむ。
「そうかー、なるほど。確かにそうですねー」
俺の言ったことをメモを取る沙織ちゃん。ほんと真面目ないい子だ。
錬土術がどういったものなのか聞いたところ、「金やポーションは作れないけど土形状の物とか粉薬とかは作れる」というもの。
「今の沙織ちゃんの考え方で制作するならば、自身が動かくても効果が出る攻撃方法なのかな。
スライムに混ぜる方法は試した?」
「はい。だけど、この子達が嫌がって言うことを聞いてくれなくなるので諦めました」
なるほど。愛情持って制作したから指示が出来るってことなのか。歩くスライム地雷とかは却下だな。
やっぱ好きなことや得意なことをベースに考えたほうが上手くいく気がする。
沙織ちゃんは小さい頃から薙刀をやっていて、高校でも薙刀部だったそうだ。
ただ、この世界でのスキルは錬金術師を求めてたので、薙刀で敵を倒すということには結びつかなかったらしい。
これももしかしたらタミィの呪いの影響なのかもしれないけどね。
「火薬を使って火を纏う薙刀ならば、少しは戦力になれるのかな」
うん。ゲームだとそんな武器あるよね。勇者の補正で、日本にいたとき以上の実力は発揮できると思うけど、どうせならもっと必殺技みたいなのが欲しいよな。
「火薬もいいんだけど、もっと奇想天外な発想で物を作ってもいいんじゃないかな」
「奇想天外な発想‥‥ですか?」
「なんでもありの魔法の世界に来たんだから、日本の常識だけで考えていたら面白く無いよね。
沙織ちゃんのスキルは、4人の中で1番化ける可能性があると思うよ」
あまり俺の意見を押し付けると、沙織ちゃんの成長に結びつかないから、直近の課題だけは一緒に考えることにした。
「塗り薬タイプの爆薬を作り薙刀の刃先に付与する。
その爆薬も、斬った相手には大ダメージだけど薙刀自体や自分には被害が無いようなものに調整する。
普通の常識では考えられないんだけど、普通じゃ無い常識でまずやってみるというのはどうかな」
「爆薬って色々な火薬を混ぜたりして作るんですよね。まだ私はそこまで、うーん、できるかなあ」
「火薬を調合するんじゃなくて、いきなり爆薬を作るんだ。
ボム薬でもドッカン薬でも、大爆発薬でも名前はなんでもいい。
火薬を作ろうと思ったら爆薬はできないけど、爆薬を作ろうと想ったら作れる。
沙織ちゃんならできるはずだよ」
沙織ちゃんは、わかったようなわからなかったような顔をしていたので、美由紀さんからの『この世界に想はいの届く世界だ』という言葉も伝え、常識を取り除くための質問をしてみる。
「沙織ちゃん、赤ちゃんの飲む粉ミルクってどうやって作ってるか知ってる?」
「えっ?乳牛のおちちですよね。それを殺菌とか乾燥したりして牛乳になるんだと思いますけど」
「うんうん。じゃあ、牛がいなかったら?」
「えっ?牛が居ないと‥‥、あーそうか‥‥、そのまま直接粉ミルクを作ればいいのかー」
あとは頑張って欲しい。全部教わってしまったら、面白くないもんね。
「学園で学びながら、同時に今までなら考えなかったことをまとめておくのもいいかもね。
日本の常識にとらわれない発想で、これは出来る、これは出来ないという感じに。
ただ、出来ないものも可能性は残しておく。ひょんなことから出来るようになるかもしれないからね。
自分で店を持って商売をしてみるのもいいかもしれない。他人の願望って、自分の持ってない考え方を引き出してくれるからね。
どんなことでもきっと大きなプラスになるから」
こんな感じで俺のぶっ飛び講座は終了した。
後日、沙織ちゃんから来た手紙には、なんとか形になった報告が書かれていた。
「この前はありがとうございました。爆薬の薙刀はある程度形になってきました。
ただ今は威力が出すぎちゃって。
もう少し調整が必要なのでもう少し頑張ってみます」
あとから聞いた話では、竜也くんが標的を買って出た実験で、爆発の威力が大きすぎて遠くまで飛ばされ、みんなの元に戻ってこれたのは半日後だったらしい。
あんまり無茶はせず頑張って欲しいものだ。
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