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「そうだったんですね。でも、唯ちゃんと三矢さんがホント生きてて良かったです。

 うぅ‥‥でもこれから香達は、どうすればいいか‥‥」


「ねねちゃん、なんとかならないのっ?私たち、みんなで冒険者になるっていう目標が決まったの。

 王都に戻ったら香は結婚しなくちゃいけないんでしょっ!?聖女なんかにもさせたくないっ!」



 ギルド長の部屋を借り、ねねが秘密裏に受けている任務を含めて、今の状況を話し合っている。

 香ちゃん、沙織ちゃんたちの気持ちも当然だ。

 いきなり婚約話が上がり、聖女騒動と王国お家騒動、貴族の権力騒動に巻き込まれ、ようやく手に入れた自由なのだ。

 

 どうにかしてあげたいが、と思っていたら、ねねから耳を疑う重大発表がされた。


「それなら大丈夫よ。香は聖女候補では無くなるから。

 真聖女協会も、おそらく今頃アルバード王が壊滅までは行かないとしても、重要な役どころの幹部はしょっ引いていると思うわ」



「「「えっ?」」」


 

 

 事の発端は、香ちゃんがスキル鑑定から聖女候補に上がったことだった。


 セシリア王国は、優先的に魔の刻からの保護を決めた。その保護を請け負ったのがハインツフルト公爵家だった。


 4人の勇者の保護に名乗りを上げて聖女に近づき、政治的に利用して自分がのし上がるために、公爵様の息子であるエリックが香ちゃんとの婚約を計画していた。


 ただ、香ちゃんの魔力暴走事件やら色々あって、計画がうまく進められずにいた。

 そのエリックを裏からそそのかしたのが、真聖女協会という組織だった。


 

「『婚約発表と同時に聖女のお披露目を行い、国内にはびこる病魔を浄化するという奇跡を国民が目の当たりにしたならば、エリック様の将来は約束されたものになるでしょう』って具合にね。

 先立って協会が王都に病原ウイルスをまき散らし、聖女がお披露目の場で浄化の奇跡を起こし国民を治癒する。

 聖女が国民に崇められて、エリック様の地位が盤石なものになる。

 そのために『聖女』っていう肩書が必要だっただけなわけなのよ。

 

 アルバード王も、セシルバンクル様も、すぐに国に聖女が必要ってわけでは無いみたいだからね。


 エリック様。もう、犯罪者に敬称は要らないわね。エリックは、次の国王を狙っていたみたいね。

 だからもう、安心して良いわよ」 


 現国王に後継者は居ない。公爵家の長子エリックは有力な継承者候補だったそうだ。


 協会の後押しを得て、エリックは強硬手段に出た。香ちゃんへの脅迫と洗脳。そして沙織ちゃん達の排除だ。


 しかし、それも全て失敗に終わる。


 エリックは、協会の下部構成員を使って邪魔な沙織ちゃんたちを襲撃した。

 ただ、竜也くんたちに全員返り討ちに遭い捕らえられた。構成員は黙秘のまま勾留中に全員が毒によって自決したそうだ。 


 エリックも昨晩のうちに捕らえられおり、全ての事情を吐いた。


 ちなみに、公務で屋敷に居なかったエリックの父親である公爵様は、そこで息子の愚行を知り、倒れてしまったようだ。

 全く知らなかったという事は無いのだろうが、まあなんとも気の毒である。



 高校生4人のメイドとしてサポートしていたニーナさん。

 実は王宮に所属していて、4人と、エリックの動きを監視していたらしい。


「やっぱ、ニーナさんは普通のメイドじゃなかったんだなっ!そんな感じしてたもんな〜」

 竜也くんはそのニーナさんがメイドじゃなかった事に関しては納得している様子だ。


 あれかな?暗殺メイドみたいな。機会があったら俺もニーナさんにお会いしてみたい。



 そして、俺の中では、疑問がひとつ生まれている。

「あのさ、ねね。俺たちが昼に聞いた話と違うんだけど‥‥」


 確かねねは、4人を説得するだけで金が貰える任務みたいなことしか言っていなかったはず。

 

「王宮内にも協会員がいるみたいなの。あの時も近くにいて私達の話を聞いている可能性があったからね。

 明るみにはなっていないのだけど、これまでも真聖女協会の関わったであろう悪事は報告されていたらしいわ。ただ、今回のように国民を人質にするような大事件は無かった。

 アルバード様は、真聖女協会を本格的に取り締まるつもりみたい。

 

 それに、これを先に言っていたらトモは来なかったでしょ」


 おっしゃる通り。こんな厄介事は遠慮したいわ。



 気が付かなかったのだが、現在セシリアの王都では、咳など風邪のような症状で治療院が一杯になるほどウイルスがまん延しているそうだ。

 それが今回の件に関係しているらしい。


「あ~、やっぱり何か起きてたんですね。私もあんなに混雑した治療院を初めて見たので」


「そういやー、ケンターさんも喉の調子を気にしていたよなっ!」


 沙織ちゃんたちも兆候を感じていたようだ。



「‥‥でも、もし聖女としてみんなの前に立ったとしても、香は病気の浄化なんて出来ないですよ?」

 

 不安そうに話す香ちゃんのスキル職は聖魔女。聖魔法を使いこなす魔法使いだ。

 聖魔法には回復魔法もあり、以前偶発的に発動したこともあったようだが、香ちゃんはどちらかというと攻撃魔法寄りらしい。


 ここらへんは本人の想いによるものなのだろう。



「エリックから、協会から渡されたという杖を没収して、賢者様が解析しているわ。

 香ちゃんはそれを使って奇跡を起こすという演出を行うつもりだったみたいね。

 その杖の効果や使い方、使ったときにどうなるのかなど、まだわからないことだらけなのだけれど、罹患した国民全員を治療出来るとは思えないのよね。


 国民を病、わかりやすく例えれば『毒』という手段で人質にしているからには、交渉のためにも解毒薬を持っていないとおかしいのよ。

 ただ、その存在がまだ見つかっていない。その解毒方法が『杖』であっているのかもわからない。


 私のスキルで判明した解毒薬は治療効果が立証されたんだけど、ここテトラフォレストで大大的に『王都で流行っている病に対する治療薬の材料』という発表をして魔物の素材を集めるのは、騒動の火の粉をこの街に飛ばすことにもなりかねない。

 王都での協会の捜索と幹部の捕獲で、協会の力をある程度抑えてから正式な依頼決定をすることになったの」



 数日前から、体調がある程度回復していたねねは、患者の治療鑑定を依頼されていたそうだ。


 鑑定の結果、初期症状でヒドイ咳が続き、重症化又は死に至るような病に変化していく恐ろしいものだった。


 だが、初期症状での治療方法はすぐに見つかり、それが先程のブラックスネークの血液を使用した薬ということだ。

 


 薬師によって調合が進められ、昨日、王宮内の一部の患者に対する投与と効果の確認はされたそうだ。

 それでも患者の数が多く、罹患した国民と、これから罹患するであろう者も含めると全く数が足りない。

 

 そこで、面識のある同じ勇者であるねねに、4人の説得・保護と同時に、ブラックスネークの生息地にほど近いこのテトラフォレストギルドの協力を得るために出向いた形だった。


 高校生4人がこの街ににいるのも偶然じゃなく、上手く誘導されていたんだろう。

 


 

 真聖女協会とは、人類と深淵の森との共存を掲げ、人は森から成り、森は人から成るという理念の基、世界を導く『森の聖女』を崇める組織だ。

 現在、その森の聖女と呼ばれているのは、エルフ族の王女シルフリーズ。


 人は生まれついて魔木の魔力を持ち、死んだ後には森に還るのだという輪廻論を持っている。

 なので、魔木と深淵の森の進行によって人類が滅んだとしても、新たな生まれ変わりヘの運命として受け入れるという。


 深淵の森神聖論者は昔から多く、この世界では少数派という訳ではないようだ。



 世界の大多数派は大臣が話していた通り、魔木と深淵の森は火山を求めて人を襲うというものが信じられている。

 森の進行は世界の脅威であり、排除を行ってきた。そして人々は魔木を伐採し、その恩恵をエネルギーなどとして利用している。


 なので聖女像は、人々のために世界を護る象徴である。

 過去に存在した聖女はすべて、森の脅威から世界を救う活躍をした女性だ。


 しかし、協会の言う聖女は、森と世界を護る象徴だ。



 どちらも森との共存という意味では同じなのだが根本が異なっている。



 ただ、現在の真聖女協会の強硬派と言われている一部が、『森の意志』という言葉を使い、力を付けすぎた人類を減らしていくという計画を立てているそうだ。

  


「エリックをそそのかしたのが、協会内の強硬派だということは判明しているわ。だけど、何が目的なのかがはっきりしていないの。


 エリックを王にして後ろ盾を得るためなのか、回りくどいのだけど多くの国民を大量虐殺するためにウイルスを撒いたのか。


 賢者様の予想は、お披露目の場で聖女に奇跡による治療の失敗をさせて、協会が認めた新たな聖女が治療を成功させるっていうパターンね」

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