0−17

「こちらトモ。F5地点、問題なし」



「了解。D1地点にて不審者を捕獲した。引き続き巡回を頼む」



 人混みを避けながら、不審者確認の定期連絡を警備本部に入れる。


 連絡に使うのはスマホみたいな形の通信器。すごく便利である。

 結構高価な魔導具らしいのだが、電話というよりトランシーバーだ。


 数台貰えないかな?後で聞いてみよう。

 

「ふひ〜。聖女様の人気は凄いんだな〜。こんなに人が集まるとはねぇ〜」



 この日、『予定通り』新聖女のお披露目が行われる日を迎えた。


 王都では早朝から聖女の姿を一目見ようと多くの人が集まり、特に王城の前の広場は人で埋め尽くされていた。

 観衆は国内の他の街からも集まってきているようだ。


 1万人ぐらいはいるのだろうか。それほど広くもない王城前の噴水広場に埋め尽くされた人、人、人。さながら野外フェスのような様相だ。



 俺たちは敷地内の警備を行っている。話の成り行きでこうなってしまった。

 とはいっても本職ではないので、会場内をうろつきながら不審者が居ないかをチェックするといった程度ものだが。


 お披露目の会場には既に大規模な結界が張られ、結界内での攻撃スキルや魔法は無効化される。

 しかし、直接攻撃やアイテムによる攻撃は別だ。広場に集まる観衆は、憲兵による手荷物のチェックは行われている。

 それでも絶対に安全とは言えない。そして、まだ残っている協会員の行動も不明だ。



 俺は少し休憩して水分を補給する。あ~水がうまい。



「パパー、こっちはもんだいなし」 


 フェリだ。手を振ってこっちに来る。唯は人の波に流されているようだ。


「トモーっ!人が多すぎてわかんないっ!」


 二人にも水筒を渡し、みんなで休憩を取る。


「ちょっと異常だよな。この光景を見ると、この世界の聖女の意味っていうのが少しわかる気がするよ」



 俺たちはまだこの世界に来て日が浅いのだが、おそらくこの世界の住人には、潜在的な世界の危機感が漂っているのだろう。

 そして、世界を救うという聖女に対する期待が、この観衆の数に現れているのかもしれない。



「あっ!あれじゃないかっ!?聖女様ーっ!!」 


「わぁぁぁ!!聖女様ぁぁ!!」



 聴衆が騒ぎ立てる。護衛の兵士が周囲を固める王城のテラスに、聖女と思わしき杖を手にした女性が現れていた。


 

 その女性は、聖女候補であった佐竹香ではなく、宇都宮ねねであった。




 香ちゃんたちと再開した翌日、つまり昨日だが、俺たち8人は王宮へと戻り、アルバード王、ハンズ大臣、賢者セシルバンクルと話し合いの場を持った。



「話はわかった。君たちにも面倒をかけたな」


「そ、そんなっ!王様が悪いわけではっ!頭を上げてくださいっ!」


 慌てふためく香ちゃんたち高校生組の面々。

 相変わらず謝罪から入るセシリア王。アンタは、一国の王が頭を下げる意味をわかってるのかね。


 話し合いの結果、俺とねねが保護者役として面倒を見ることを条件に、香ちゃんの聖女認定は取り消し、当分は王宮に所属しながら冒険者を続けることが出来るようになった。


 安請け合いをしてしまったが、これで香ちゃん達も国から逃亡者として追われることも無くなった。



 大臣からの話では、王都にある真聖女協会本部の捜索を行い、幹部たちを取り調べ、新たにわかったことがいくつかあったそうだ。



 協会は、香ちゃんの高い魔力に目をつけ、国の言う聖女では無く、協会の言う『森の聖女』にするため、エリックに協力をする形を取り、洗脳の指輪を貸し与えていたそうだ。



 中心的に動いていたのは、協会の内部で強硬派と呼ばれていた、幹部の1人、ヒゲーラドルフ・バスクミリアンと、その一派。今回の件の首謀者である。

 名前が長すぎるのでなので、ヒゲ派とする。


 このヒゲ派は協会内で半数以上の協会員の支持を持ち、実質、協会を掌握していた派閥だ。


 国内に広まっているウイルスの原因はまだ掴めていない。

 実情を把握している首謀者とその一派が行方をくらましている。事前に取り締まりを察知したようだった。

 ただ捕えた幹部の証言から、聖女が『雷光の杖』を使って治癒の奇跡を起こすということは決定していたようだった。

 この雷光の杖は、協会が保有する唯一の聖遺物で、過去に神からもたらされたアイテムとのことだ。

 

 

 杖に関しては、セシルバンクルが検証した結果が出ていた。

 使用者の魔力に関係なく、広範囲に微弱な電撃に似たものを放出することが可能な杖だと言うことが判明した。

 

 ただ、杖から発する電撃は、この世界には無いものを発しているらしく、セシルバンクルでもそれか何なのかがわからないようだ。


 既にウイルスに感染した患者で実証実験も行われた。結果は、杖による電撃がウイルスに作用して患者の症状は回復した。

 ねねも回復した患者を鑑定したので、効果は間違いないだろう。

 ただし、何がどのように作用して患者が回復したのかは不明のままだ。


「出来るならば‥‥、この杖は、使うべきではないわ」

 セシルバンクルの言う意味もわかる。人の手に余る道具は破滅をもたらす可能性がある。


 

「テトラフォレストには、ブラックスネークの採取を依頼しております。

 ですが、それなりの数が集まり、薬へと調合するには多少の時間がかかるでしょう。

 出来れば初期症状者には杖での治療を。今後増えるであろう重症患者ヘの治療にはブラックスネークの薬を処方したいところです」 


 それに対してハンズ大臣の意見も、現状を見たらその通りである。

 鑑定により症状が悪化、最終的には死に至ることが確定している病。セシルバンクルが杖の使用不可を強制出来ない理由でもある。



 王の判断は早かった。すでに決まっていたのだろう。

「救える命と方法が目の前にある。それを行わないなど問題外だ。

 あとは、杖を使って治療するタイミングだな。さてどうしたものか」



 そう言って、王が悩んだ『ふり』をしている。

 もう、俺はわかってしまっていた。

 

 召喚された勇者とはいえ、多少この騒動に関わっているからとはいえ、ここまでの話は、国の重要な、そして一大事の話である。

 高校生たちを含めて、俺たちが聞いていい話ではないのだから。

 

 ねねが王に対して提案をする。

「明日行われる聖女のお披露目は、まだ撤回されていません。ならば、私がそのお披露目の場で治療を行うというのはどうでしょうか。

 聖女というわけにはいきませんが、勇者として召喚されたばかりの私ならばまだ国民に認識されておりません。

 聖女候補であった香の『保護者役』として、お役目を務めさせていただければと存じます」


 ねねがこちらにウインクしてくる。びっくりである。ここで『保護者役』とは。


 えっ?俺も?やりたくないんだけど。



 うなだれながら、もう諦めて、しぶしぶ、しぶしぶ、俺も協力をすることを伝えると、王は、

「アッハッハッハ、そうか。では頼んだぞ」

 と、謁見は以上となった。



 部屋から出たあと、呆然とする高校生たちを横目に、ねねに問い詰める。


「はぁ。そんでこの流れはいつから計画していたんだ?」


 ねねは、可愛い笑顔で微笑み返して来る。


「さて、どこからでしょうねっ」



 俺は考えるのをやめた。この娘にはかなわんわ。



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