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「サオリはもうちょっと体力をつけニャいとこの先苦労するよ。
そんでカオリの魔法は強すぎ。もう少し威力を抑えてもいいね」
深淵の森からの帰り道、竜車の荷台に積まれた魔木に座りながら、今日一緒に護衛の任務をした冒険者のアーニャさんから私達の今後の課題を聞いている。
アーニャさんから女性の特権って言われて、3人だけ竜車に座って帰路についている。
本当に体力をつけないと、この先みんなに付いて行けなくなると実感した1日だった。
猫獣人のアーニャさんは3人組の冒険者パーティ「グランドプライズ」のメンバー。この街で護衛任務を中心に稼いでいる先輩冒険者だ。
今日は、木工師20名と護衛の冒険者10名、総勢30人の大パーティで、木工師が魔木伐採を行う最中、それを邪魔してくる魔物の討伐という任務についていた。
昨日、みんなで街を出て大冒険を始めようと言ったものの、何から始めるべきか決めかねていたところ、ニーナさんから、「まずは冒険者ギルドに登録をして、路銀を稼ぐのはどうでしょうか」と助言をもらった。
私達はこの世界のお金をそんなに持っていなかった。
装備や武器、回復アイテムなどは国から支給されていたし、お小遣いも貰っていた。
食事も指定の食堂で頂いていたので、お金を使うこともなく過ごしていた。
そう考えたらこの世界に来てから、国に甘えていたんだなぁと実感する。
ニーナさんも一緒に来てくれたら心強かったんだけど、今回の件を王宮に報告しないといけないらしく、別れることになった。
私達の行き先はナイショにしてくれるらしい。
いらないって言ったのだが、支度金としていくらかのお金と地図を渡された。ニーナさんには感謝しかない。
そして到着したのが、このテトラフォレストの街。っていうか、闇刻までに行けるとこがここしか無かった。
そのまま宿に泊まって、今朝、特に何も聞かれることなく念願の冒険者になることができた。
カードを手にして、この世界に来て良かったと思えた瞬間だった。カオリなんて飛び跳ねていたしね。
なんかデカいアフロが絡んできたけど、ホント今はそういうのいらないので、タツヤとシンジローに任せて二人で抱き合って嬉し泣きしてしまった。
来たばっかの私だったら、「テンプレ、キターッ」とか叫んでいたんだと思うんだけど、この世界に馴染んできた証拠だろうか。
「でも何だったんだ、あの連中は。俺たちの邪魔ばっかしてきやがって」
「い、いや~、俺たちも全然わからないっすよっ」
同じく冒険者のテセウスさんがタツヤと歩きながら、さっきあった件を話している。
護衛任務中に、私達の一団とは別の冒険者パーティと一悶着があった。
文句を言ってきたり、魔物をけしかけたりと、露骨な直接攻撃はなかったとはいえ、余計な仕事が増えた。
「こういうことって結構あるんですか?」
荷台の上からテセウスさんに話しかける。
「レア魔物討伐案件だったら対象の魔物がかぶるって揉めるときがあるかもしれニャいけど、護衛任務だからね〜。ニャいよね〜」
アーニャさんが尻尾を揺らしながら話してくれた。
レア魔物なんているんだっ!ちょっとワクワクした。魔王とか幹部とかも出てくるのだろうか?
「魔王は聞いたことがないが、お前たちは今日が初日だろう。色々経験していけばいい」
そう話すのは、大剣使いのラインハルトさん。シンジローは今日一日、ラインハルトさんの立ち振舞にいい影響を受けたみたいだった。
街に到着して、木工師さんたちと別れ、冒険者ギルドに向かう。
受付で今日の報告をして、私達の初仕事は完了だ。
闇刻前のギルドは依頼報告でごった返していた。アーニャさんたちの後ろに並んで報告待ちをしていたとき、突然名前を呼ばれた。
「沙織〜っ!香〜っ!久しぶり〜っ!!」
私達の名前を知っている?カオリと顔を見合わせて、私達を呼ぶ女性の方を見る。
その女性は、冒険者っぽいいでたちの男性と、獣人の女の子が一緒にいる。
その後ろにいる女性は、ここに来る前に相談をしたかったねねちゃんだった。ねねちゃん、元気になったんだ。
えっ、ねねちゃんと一緒なのだとしたら、もしかしてと思っていたら、その女性が駆け寄ってきた。
「あれっ!?忘れられちゃったっ?アタシ、唯だよっ!みんな無事で良かったっ!!」
「やっぱりっ!!唯ちゃんっ!?唯ちゃんだぁぁぁっ!!」
死んだと聞かされていた唯ちゃんとの再開に、私達は驚きが隠せなかった。
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