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俺たちは、セシリア王国の冒険者の街のひとつ、テトラフォレストに来ている。
俺たちが拠点にして活動しているアットサマリーとは違い、多くの人が行き交う活気のある街だ。
魔木の産業が盛んなのか、材木商や加工所があちこちに存在し、きちんと整備された道路には、魔木を乗せたトラックみたいな竜車が走っている。
「ねえ見てっ!ドラゴンだよっ!アタシ初ドラゴンだっ!
ちょっとイメージが違ってて恐竜だったけど、これぞファンタジーって感じだねっ!!
エサをあげたりするとこないのかなっ!?」
「どらごん、かっこいい」
うんうん。わかるぞ二人のその気持ち。年配者として興奮を抑えているが、俺も初ドラゴンに大興奮だ。
「興奮する気持ちもわかるけど、結構時間がかかっちゃったから、闇刻になる前にギルドで情報を貰いに行くわよ」
王都からは乗合馬車で3時間かかった。道中は揺れる馬車でお尻が痛かった。
サミィは別件で行動を共にしていない。転移術の有り難みが身にしみた。
王宮の情報では、高校生4人組はこの街で冒険者登録をしたという。
装備一式は支給されていたが、お金が足りなかったのだろう。4人は魔物の討伐の訓練もしていたそうなので、路銀を稼ぐにはもってこいの街だ。
「ギルドの場所を教えてもらったわ。ここみたいよ」
ねねの後に続いて建物に入る。アットサマリーよりも広いギルドの中は騒然としていた。
酒場が併設されているらしく、依頼から戻ってきたであろう冒険者たちが酒や食事をかっ食らっている。
奥のテーブルでは喧嘩も始まってるし、場所が違うとこんなにも異なるのかと驚くばかりだ。
ギルドの受付の前に着いた。3人の受付嬢が依頼を達成した冒険者の対応に追われている。
ねねが手の空いた受付嬢に話を聞く。ロザリアさんという若い女の子だ。
「あー、そのルーキー四人組なら今朝ギルド登録をして、木工師の集団護衛依頼を受けていますので、え~と、この時間ですからもう少しで戻ると思いますよ」
聞くところによると、魔の刻での街転移後から木工ギルドによる魔木伐採ラッシュが続いていて、冒険者ギルドにもランク構わずの護衛依頼が立て続けに舞い込んでいるらしい。
もう少しで戻ってくるのなら、あっちの食堂で何かつまみながら待とうかと移動しかけたとき、大柄なアフロヘアーの男が俺たちに怒鳴りかけてきた。
それと、腕に包帯を巻いた男2人がニタついた顔でアフロについて来る。
「おいっ!てめぇら、あの4人の知り合いか!?
今朝、コイツらが奴らに怪我をさせられちまってな〜。こっちは仕事が出来なくて困ってんだわっ!」
唯とねねを舐めるように見定めながら凄みを利かせてくる。
「ギャハハハっ。お前らが突っかかって返り討ちにあっただけだろうが」
「うっせぇっ!!黙ってろっ!この酔っ払いがっ!!」
酒場側のギャラリーからヤジが飛んでくる。
あ~、あの子達はテンプレイベントに遭遇したのか。主人公補正でもかかっているんだろうか。
さてどうするか。ねねの方を見ると、「しめしめっ」みたいな顔で、「思いっきり目立っていいけど、殺しちゃダメよ」と囁いてきた。
俺を殺人鬼か何かと勘違いしてないかい?
はぁ。仰せのとおりに。面倒くさいことはしたくないな〜と思いながら、はてなボックスを右手に出現させ、手を離して床に倒す。
ドゴーンっ!とギルド内に振動と衝撃音が鳴り響き、一瞬の静寂とともに、室内の全員の目がこちらに向いた。
「て、て、てめぇ、いったいな
アフロの男を箱に収納する。周辺からどよめきの声が上がる。だけどこれで静かになった。
「お、お前っ!!ジョブズさんをどこにやったっ!?」
なんと、アフロさんは、りんごの人でした。髪型は印象的だけど、名前負けしてるよアフロさん。
「兄さんたち、すまんがそれくらいにしておいてくれねえかな」
ギルド受付の方から声がした。中年の渋いおっさんが俺たちに話しかけてくる。
ねねが頷くのを見て、箱を解除する。
「て、てめえっ!!なにしや
「ジョブズぅぅぅっ!!2回目だぞ、てめえ。わかってんのかぁぁ?」
渋いおっさんのバカでかい声がアフロを威圧し、アフロ軍はおっさんに怯みながら捨てゼリフ無く、ギルドから飛び出していった。
■
デカい声のおっさんはラル・イルさん。ここのギルドマスターだった。
フロアは結構な騒ぎになってしまったので、俺たちはギルマスの私室に通された。
目立たせたのって、このため?
「うちのが迷惑をかけた。今は刈り入れどきでな。どんな素性のやつでも受け入れている。猫の手も借りたいってやつだ」
受付嬢のロザリアさんに聞いた通り、伐採ラッシュに湧いていて、この街以外からも木工師、冒険者が集まってきているらしい。
俺たちもギルドカードを見せ、素性とここに来た理由を伝える。
「あ~、お前らがそうか。サレンダーのやつが、『活きのいいのが入った』って言ってたが、まさかうちの国の勇者だったとはな。
んで、その勇者様がうちのギルドにどういった要件だ?」
サレンダーさんは、俺たちを鮮魚か何かと勘違いしているのだろうか。
ねねが挨拶をして要件を切り出したのだが、それは高校生の動向だけではなかった。
「目立つ真似をしてしまいすみません。『成り行きでギルマスと接触をした』ということにしたかったので。
ラルさんの、テトラフォレストの冒険者の皆さんの力をお貸しいただきたく、本日は伺わさせていただきました。
ここからはオフレコでお願いします。
私は今、王宮の治療師に所属しています。
現在、王都では原因不明の疫病がひろまりつつあります。これは、人の手で故意的に広められています。
感染した者の治療に、この地域に生息している魔物、ブラックスネークの血液を成分として調合した薬が有効だという調査結果が出ました。
王宮からの正式な依頼ということで、魔物の確保に向けた準備をお願いしたいのと、ギルドにブラックスネークの素材の保管があれば分けていただきたいのです」
全く聞いていない話が飛び出てきた。唯を見るがキョトンとしている。初耳っぽい。
「わかった。後で倉庫担当に言っておこう。あれば持って言っていい。
だが、準備っていうのはどういうことだ?待っている患者のためには早いほうがいいんだろ。
ちょうど繁殖期だし量は確保できる。そんなに強い魔物でもねぇ。護衛ついでに回収出来れば若いのの良い小遣い稼ぎにもなる。
今すぐにでも依頼を出すことも可能だ」
ねねとラルさんが打ち合わせを始めた。意味の分からない俺たちは蚊帳の外だ。
とりあえず、フェリと一緒に茶菓子をいただくことにする。
「‥‥では、王都に戻り次第、通信で依頼を送ります。
それとラルさんは、『真聖女協会』という組織をご存知ですか。
その協会が王都での件に関わっている可能性が高いです」
ギルマスが少し驚いた表情を見せた。
「なるほどな。それが明後日の新聖女様のお披露目に絡んでいるってわけか。
ああ、知っている。うちの冒険者にも協会員ってのがいるぜ。
んで、協会の立ち位置は、アンタの見立てはどっちなんだ?」
ねねは困ったような顔で答える。
「おそらくは、聖女の誕生を否定し、排除を目論んでいるかと思われます」
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