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 その後はハンズ大臣から、魔の刻後の国内の状況、他国を含めた勇者召喚の再考、俺たちの居たバリテンダー城の状況などが報告された。



 現在、セシリア王国内の半分が深淵の森に覆われてしまったようだ。

 ただ、徐々にだが伐採も進んでいるようだ。他国からも木工師が国内に入って、各地で復興特需となっているらしい。


 住民の被害はそれほど多くはなく、それでも亡くなられている方は多いのだが、2つの街と15の村が森に飲まれていた。

 というのが、ザムセンの魔の刻以降、各地で街や村単位での大規模転移術の整備が行われていたようだ。

 

 俺たちがバリテンダー城を出てから目指したハットタウンも、広域転移で安全な地域に移動していたらしい。


 森に飲まれた街や村は、それらが間に合わなかったのか、なにか理由があったのかはわからないが、先に避難をしていた住人もいて、全部が失われたわけではないという。


 今回の魔の刻の発生は、勇者召喚人数が神のルールに背いた結果というのが大筋という結論に達したようだ。


 これはサミィからも聞いていた。召喚の座標範囲にズレが生じたのではないかということだ。

 通常の召喚で呼ばれる勇者は2〜3名。今回は17名だった。バスの乗客と、そのバスが突っ込んだ工事現場の作業員だ。

 

 セシルバンクルいわく、無限世界の中で強い想いを持った者の体と霊が離れる瞬間と、召喚転移術のタイミングが一致した場合に呼び出されるのだが、その者の想いが大きいほど、霊の召喚範囲が広がるという推測らしい。


 今回も、召喚された中の誰かの想いの強さが広範囲に影響したってことか。

 犯人探しをする気もないし、死んだ瞬間がまったく同時って事はないと思うんだが、そこらへんはわからないらしい。



 魔の刻は、この世界で2回しか起きていない。わからないことも多いらしい。

 

「全てが理解されているわけではない。全ては、神のルール」



 理解されていないのに、神のルールと言い切るセシルバンクルの言葉が気になったのだが、賢者様には色々見えているのだろうか?



 他国の代表との会談で、勇者召喚に関する取り決めを見直したらしい。



「魔の刻みたいな世界の危機が起きるんなら、勇者召喚を辞めればいいんじゃないのっ!?」

 唯の言うことももっともだ。数人の勇者を呼ぶ事が引き金で、最悪、国が滅びたら元も子もない。リスクがでかすぎる。


 これにはアルバードが大笑いしていた。


「アッハッハッハッ。勇者召喚を辞めるか。それもいいな。アッハッハッハ」


 なんかツボに入ったのだろうか?高貴な身分の笑いのツボはどこにあるのかわからん。


 ハンズさんが補足説明してくれた。

「この世界は中心に火山が、そして周辺から魔木が迫ってくるのはご存知ですかな。


 魔木は、火山を取り込もうと侵食を進めてきます。火山が取り込まれたときに、この世界は終わるというのが古くからの言い伝えなのです。

 世界に生ある全てが何かしらのスキルを持ちますが、魔木の進行を止める切り札となる者は現れません。

 勇者は、その切り札となれる存在なのです」


 それはそれは。なんだか守る人間と攻める木との陣取りゲームみたいな様相だな。


「では、全ての木を燃やし尽くしてしまえばいいのでは?そうすれば、少なくとも人間の脅威にはならないのでは」

「む、無理だよ、ねねちゃんっ!魔木は燃えないし、燃えて襲ってくるらしいからっ!」

「はぁ?」


 ねねはこの世界に来てからずっと休んでいたから知識がないのは仕方ないのだが、この世界の魔木と言われる木は火では燃えない。

 逆に、バーンアウトという魔木の森が燃えた状態で迫ってくる災害が発生する。

 俺たちも初めて聞いたときは驚いたものだった。

 そして、魔木は根絶やしに出来ない。世界の果てと言われる外側に近いほど、魔木の再生力が強いのだ。

 それこそ、切った瞬間に同じ太さの魔木が生えているという状態もありうるらしいし。


 ねねは、カルチャーギャップに開いた口が塞がらないようだ。

 フェリがそれを見て、口に干し肉を入れてあげていた。うん、偉いぞ。お腹が空いていたんだろうね。



 王がそれを見て大笑いしているけど、何その右手?なんでワイン飲んでるの?くつろぎ過ぎじゃない?今飲む必要無いよね?アル中なの?

 

 そしてセシルバンクルは、いきなり近寄ってフェリに触らないように。

 こらこら、瞬間移動(セシルバンクル)VS素早い動き(フェリ)の鬼ごっこみたいになっているから。

 

 

 酒を煽り笑う王。飛び回る賢者と猫。諦め顔の苦労人大臣。取り残される俺たち。見慣れた光景なのか微動だにしない警備の兵隊さん。



 グダグタのまま、謁見は終了となった。



 セシルバンクルには、瞬間移動でフェリに近づかないよう釘を差しておいた。

 頷いているけど、本当にわかってくれたのかはわからん。




「んで、高校生たちはまだこの王都にいるんだろ?

 王様たちもそこまで慌てていなかったところを見ると、場所の把握はできているんだろうし」


 俺たちは王都で昼食を取りながら、ねねに経緯を聞いていた。


 聖女に認定された香ちゃんが、公爵様の息子と婚約して、明後日が王都の国民へのお披露目なのだが、昨日4人で居なくなったという。


 香ちゃんには、公爵家の護衛兵士が複数人付いていて、身の安全のために居場所のわかる魔導具も渡していたらしいのだが、兵士はことごとく気絶させられていて、魔導具も壊されていたらしい。

 ただ、誘拐のような事件性はないようで、専属のメイドさんに国を出ることを伝えていた。



 昨日か〜。昨日なんだね。昨日は、俺がタミィの呪いを解いた日だね。

 セシリア王国に忠実に従うよう召喚された勇者にかけられた呪いで、ねねも頭がスッキリしたって言っていたね。


 ねねと唯を見る。俺っ?て顔をする。お前だ、って顔をされる。



 肝心の婚約者様はどうしているのかというと、屋敷に賊が入り、屋敷中トウガラシだらけにされて、本人は鉢合わせした賊と大立ち回りの末に全身打撲と大変なことになっているそうだ。

 明後日のお披露目は大丈夫だろうか?



「っていうか、この世界の聖女って何なの?」


 俺の知識での聖女は、人々を癒やしたり、ゾンビとかを退治しているイメージなんだけど。

 おっ、この肉は美味しいな。後でもう一枚注文しよう。


「それもあるみたいだけど、それこそ世界を救う勇者みたいな感じよね。

 さっきの大臣の話でも、魔木から人類を護るための切り札ってことなんじゃないのかな」


 ねねはケーキだけひたすら食べ続けている。それだけ食べてよく太らないなと思う。


「でもさー、香は聖女になるのを嫌がっていたんだよね〜、冒険がしたいってっ!

 それが1か月で貴族と婚約とかもありえないんだけどっ!」


 唯の言い分もわかる。実際もありえないというか、無いのだろう。


 おそらくは、公爵様が聖女を政治利用しようとしたけど、4人に返り討ちにされたっていうのが事の顛末だろうな。


「ってことで、めでたしめでたしってわけか」


 さて、解決したから帰ろうか。えっ?フェリと俺の追加の肉がまだ来てないって?


「王国としては、公爵様の長子のエリック様を、まあ簡単に言うと懲らしめたいんだけど、本人たちの証言が欲しいのよね。

 こうなってしまった以上、国に対する信頼は無に等しいでしょうから、ある程度面識のある私や唯に4人を説得するという任務の白羽の矢が立ったわけ。

 それと、きっかけを与えたトモにもねっ」


 俺には矢は立ってないらしい。実は昨日の疲れが溜まっているんだよね。


「任務だから王国から報酬が出るわよ」


 ‥‥まぁ説得ぐらいならそんなに時間もかからないかな。



 その公爵様の息子は、ねねの言う懲らしめる以上のことになるんだろうけど、世界の平和のため、俺たちの宿ぐらしから賃貸物件へのバージョンアップのために、ここはひと肌脱いでやるか。



「ちょっと別件もあるんだけどね」




 最後のつぶやきは聞かなかったことにした。

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